世界初、核融合炉の燃料生産に必要なベリリウムの革新的精製技術を開発

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経済性の飛躍的向上により、一般産業への波及も期待

2019-09-03   量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • 核融合炉の燃料の一つであるトリチウムの効率的な生産に必要なベリリウム(Be)について、マイクロ波加熱と化学処理を複合した低温処理と湿式工程を主とし、経済性及び安全性を飛躍的に向上させた革新的な精製技術を世界で初めて確立しました。
  • 資源埋蔵量は豊かでありながら、精製工程の複雑さから経済性が課題とされてきたレアメタルであるベリリウムの安定確保に展望を拓く成果です。
  • この精製技術は、一般産業需要の高いベリリウム化合物の精製や他の材料の精製技術への応用が可能であることから、ベリリウム市場の拡大や他の材料の精製プラントの省エネルギー化が期待されます。

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)核融合エネルギー部門六ヶ所核融合研究所増殖機能材料開発グループの中道勝グループリーダーらによる研究チームは、従来の精製技術よりも経済性及び安全性を飛躍的に向上させた、革新的なベリリウム(Be)1) の精製技術を世界で初めて確立しました。従来の精製技術は工程が複雑で、高温での処理工程や、作業者の健康障害リスクが高い粉塵を取り扱う乾式工程を多く含むといった課題を抱えていました。今回、この課題を克服する低温で処理を行い、かつ、粉塵を生じない湿式工程を主とする革新的な精製技術を確立することに成功しました。

核融合炉の燃料の一つであるトリチウム2)は、核融合反応で生じる中性子3)をリチウムに当てて生産します。このとき、トリチウム生産のため、中性子の数を増やす中性子増倍材4)が不可欠となり、これがベリリウムです。レアメタルの一つでもあるベリリウムは、核融合原型炉(以下、「原型炉」という)5)一基当たり約500トンも必要となることから、その安定確保は克服すべき課題の一つでした。

従来のベリリウム精製技術では、約2000℃での高温処理工程や、粉塵を発生する乾式工程を多く含むため、設備整備・維持に係るコストが課題でした。そこで、研究チームでは新しい精製技術の開発に着手し、マイクロ波加熱と化学処理の複合化により、250℃以下の低温処理で精製工程が少なく、粉塵を生じない湿式工程を主とする新たな精製技術を開発して、設備整備・維持に係る経済性と安全性の課題を一挙に解決しました。特に、熱源にマイクロ波加熱を用いることで、加熱処理に係る使用エネルギーが100分の1以下に、プラント規模も数百分の1にダウンサイジングできる可能性があります。

この成果は、既存のベリリウム鉱山の再稼働や新たな鉱山開発における精製コストの削減を通じて、ベリリウムの安定確保に大きく貢献するものです。また、この精製技術は一般産業需要の高い水酸化ベリリウムや酸化ベリリウムの精製にも応用可能で、さらには省エネルギー精製技術としてベリリウム以外の鉱石などの精製にも適用可能であることから、ベリリウム市場の拡大や精製プラントの省エネルギー化も期待されます。量研では現在、この精製技術について特許を申請しており、令和元年9月11日(水)から開催される日本原子力学会2019年秋の大会の講演で詳しく解説します。

研究の背景と目的

 核融合炉の燃料の一つであるトリチウムは、核融合反応で生じる中性子をリチウムに当てて生産します(図1上部参照)。このとき、消費量以上のトリチウムを確実に生産するために中性子の数を増やす中性子増倍材が不可欠です。その中性子増倍材として用いられるのがベリリウムやベリリウム合金です。ベリリウムはレアメタルの一つで、原型炉では一基当たり約500トンも必要となり、これらを内包するブランケットは約4年ごとの交換が必要となります。しかしながら、現状の全世界におけるベリリウム総生産量は約300トン/年であることから、原型炉の早期実現に向けて新たな鉱山開発などのベリリウムの安定確保は、克服すべき大きな課題の一つです。

 鉱物資源としてのベリリウムは既に多くの鉱山が確認されていますが、米国や中国以外の鉱山のほとんどは、度重なる世界的経済不況などによるベリリウムの需要減少のため、採鉱が現在休止状態又は閉山状態にあります。また、これらの鉱山にある既存の精製プラントは再稼働できる状態ではなく、鉱山再稼働の際には新たな精製プラントの整備が不可欠な状態です。一方、従来のベリリウム精製技術は工程が複雑で、約2000℃での高温処理が必要となるなど、ベリリウム鉱山の再稼働や新たな鉱山開発を行うには、経済性に問題がありました。そこで精製プラントの再稼働や整備のため、新たに経済性に優れた精製技術開発を実施しました。

図1 中性子増倍材の役割とベリリウムの安定確保の必要性

図1 中性子増倍材の役割とベリリウムの安定確保の必要性

研究内容と成果

 既存のベリリウムの精製技術は、鉱石を約1800℃に溶融後急冷して結晶性を弱めてから酸溶解した後、さらに高温加熱処理である焙焼を行い、まず酸化ベリリウム(BeO)を精製します。そして、昇華反応として約2000℃に加熱処理した後、ベリリウム金属を析出反応によって精製する手法であり、高温での処理、かつ、作業者の健康障害を予防するための粉塵などに対する防護措置・設備が必要となる乾式工程を多く含むという問題がありました(図2参照)。

図2 既存のベリリウム精製工程概略図

図2 既存のベリリウム精製工程概略図

 そこで量研では、低温処理、かつ、湿式工程を主とする新たな精製基盤技術の開発に着手しました。試行錯誤の結果、図3に示すマイクロ波加熱した塩基及び酸による化学処理を複合化した湿式工程によって溶解することに成功しました。従来技術と比較すると精製工程が約半分に、加熱処理温度は250℃以下で処理可能になりました。特に、熱源にマイクロ波加熱を用いることで、加熱処理に係る使用エネルギーが100分の1以下に、プラント規模も数百分の1にダウンサイジングできる可能性があります。このように、工程の簡便化、省エネルギー化及びインフラ整備低減化を図ることができ、経済性に優れています。

 そして、精製工程のほとんどが湿式工程であることから、化学物質リスクアセスメントによる危険度診断評価点6)も半減し、ベリリウム粉塵発生による健康障害予防のための安全対策・措置も低減でき、安全性にも非常に優れた技術です。

 また、本精製技術ではその処理工程中において、ベリリウム鉱石中の不純物として含まれており廃棄物処理の観点から問題であったウラン不純物を除去することに成功しました。さらに、使用済材を酸性水溶液のマイクロ波加熱処理工程へ戻すことで再使用も可能で、資源の有効活用を図ることができます。

研究成果の意義及び波及効果

 マイクロ波加熱と化学処理を複合した低温処理と湿式工程を主とし、経済性および安全性を飛躍的に向上させた革新的なベリリウム精製技術を世界で初めて確立しました。これは、ベリリウムの安定確保に展望を拓く成果です。当該技術を鉱山所有企業や相手国へ提供することにより、文部科学省の策定した核融合研究開発ロードマップに沿った日本の原型炉建設に向けて、資源確保を確実にできるようになります。また、この精製技術は、電子部材としてのベリリウム銅合金の製造用原料である水酸化ベリリウム(Be(OH)2)や半導体部材などに利用されている酸化ベリリウムといった一般産業需要が高いベリリウム化合物の精製も可能で、ベリリウム銅合金の増産や高熱伝導電気絶縁材などのベリリウム市場の拡大が期待されます(図3参照)。さらには、省エネルギー精製技術として、ベリリウム以外の鉱石、多金属団塊などからの材料の精製技術に適用可能であることから、精製プラントの省エネルギー化も期待されます。

図3 新ベリリウム精製工程概略図及び 再使用工程(使用済材を精製工程途中へ戻す)

図3 新ベリリウム精製工程概略図及び再使用工程(使用済材を精製工程途中へ戻す)

用語説明

1) ベリリウム

ベリリウム(Be:Beryllium)は、原子番号4でII 族の元素です。常温常圧では、銀白色の固体金属で細密六方晶の結晶構造をとり、軽い(1.85 g/cm3)、融点が比較的高い(1285℃)、高い熱伝導率を持つなどの特徴があります。また、核的特性の観点からは、原子個数密度が1.2×1023 n/cm3と鉛の3.7倍高く、かつ、中性子吸収断面積及び捕獲断面積が小さいことなどから、ベリリウムは中性子増倍材として有用で、かつ、核融合においては必要不可欠の機能材料です。なお、ベリリウムは特定化学物質であり、特にその粉塵などが呼吸器を通して吸収されると肺の機能障害を生じる可能性があることから、粉塵などを取り扱う際には、局所排気設備など作業者の健康障害を予防するための措置・設備が必要になります。

2) トリチウム

原子核が陽子1個と中性子2個からなる水素の放射性同位体です。和名は三重水素で、半減期12.3年で最大18.6keV、平均5.7keVのβ線を放出し、3Heに壊変します。自然界では宇宙線と大気構成元素の核反応によって生成し、その評価量は年間160~200g程度と大変希少です。

3) 中性子

英語ではニュートロン(nとも書く。)といい、素粒子の一つで陽子とともに原子核を構成します。電荷は0、質量は1.6749×10-27kgです。単独では不安定で、半減期12.5分でβ-崩壊して陽子に変わります。電気的に中性で原子核内に容易に入ることができるので、核反応を起こす際に使われます。

4) 中性子増倍材

核融合ブランケットでは、燃料であるトリチウムを効率よく生産するために、核融合反応で発生した中性子をブランケット内で増倍します。その中性子を増倍する材料を中性子増倍材といいます。中性子増倍材としてはベリリウムやベリリウム合金がその候補で、ベリリウム原子に1個の中性子が当たると核反応によって2個の中性子を発生します。

5)核融合原型炉

核融合反応は、太陽が光輝きエネルギーを放射している原理であり、現在の核融合研究では、燃料として水素の同位体である重水素と三重水素(トリチウム)を用います。核融合炉では、この重水素とトリチウムの原子核を融合させる際に生じるエネルギーを利用して発電を行います。

核融合原型炉は、この核融合を用いた発電炉の技術的な実証と経済的な実現性を明らかにするためのものです。エネルギーの長期的な安定供給と環境問題の克服を両立させる将来のエネルギー源として期待されています。

6) 化学物質リスクアセスメントによる危険度診断評価点

化学物質リスクアセスメントは、化学物質の持つ危険性(リスク)や有害性を特定し、それによる労働者への危険又は健康障害を生じるおそれの程度を見積もり、リスクの低減対策を検討することをいい、その危険度診断評価点はそのリスクの程度を点数化したものです。

2003核燃料サイクルの技術
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