くりかえし使える光硬化性接着剤

ad
ad

リサイクル性向上や接着ミスを低減

2018-02-13 産総研

ポイント

  • 繰り返し利用可能な、新しい接着剤を開発
  • 可視光で硬化して接着、150 ℃以上の加温で液化して脱着が可能
  • やり直しが利く接着プロセスや、接着した後での材料リサイクルへの応用に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)機能化学研究部門【研究部門長 北本 大】スマート材料グループ 秋山 陽久 主任研究員は、接着と脱着を制御でき、繰り返し使える光硬化性接着剤を開発した。

この接着剤は、枝分れした構造の糖アルコールと、光に応答してお互いに結合する複数のアントラセンを組み合わせた透明な液状物質を用いており、光照射による硬化と加熱による液化を繰り返す。この接着剤の利用で、接着のやり直しや接着後の材料の再利用などが可能になり、新しい複合材料プロセスの実現が期待される。

なお、この技術の詳細は、2018年2月14~16日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されるnano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で発表される。

可視光で硬化し、150℃以上の加熱で再び液化する接着剤の写真
可視光で硬化し、150℃以上の加熱で再び液化する接着剤

 

開発の社会的背景

接着技術は、日常生活のみならず、情報機器や家電、輸送機器など多くの製品の製造工程で広範囲に利用されている。接着剤による接合には、製造プロセス上簡便という利点のみならず、樹脂や金属、ガラスなど多様な材質・形状の部材の異種接合が可能であるという利点もある。

接着剤にはさまざまな種類が知られているが、特に光硬化性接着剤は、室温で塗布でき、すぐに硬化が可能であるという優れた特長により、エレクトロニクス分野での製造工程や、歯科用接着などで広く利用されている。しかし、これまでの光硬化性接着剤のほとんどは、元の液体状態には戻らない不可逆な硬化過程を利用したものであったため、易解体性、再作業性がなく、いったん接着した箇所の修復による歩留まり向上やリサイクルの観点から課題があった。

省資源化社会の実現には、製品のリサイクル性を向上させることは必須である。実際に国内では、平成13年に各種リサイクル法が施行され、家電や自動車といった製品では、リサイクルの義務化が図られている社会的背景があり、繰り返し脱着できる接着技術の開発が望まれている。

研究の経緯

産総研では、これまでに、光照射により室温で液化-固化を繰り返す材料を開発し、脱着可能な接着剤としての応用を検討してきた(2012年4月6日 産総研プレス発表)。この材料は、可逆的光反応性部位をもつ化合物からなり、光反応前後の分子構造の違いで融点(軟化点)が室温をまたいで可逆的に変化するため、液化-固化を光反応により制御できる。

しかし、光反応性部位にアゾベンゼン系の色素を用いていたため、接着剤自身が黄色~橙色に着色していること、固化した接着剤の力学的な強度が低く接着強度に限界があること、さらに接着剤の初期状態が固体であるため、基材への塗布が困難といった複数の課題があった。そこで、これらの課題を解決するため、透明化や基材への塗布が容易な新たな液状光硬化性接着剤の研究開発を行った。

なお、本研究開発は、独立行政法人 日本学術振興会の科研費基盤研究C(平成27年度~29年度)による支援を受けて行ったものである。

 

研究の内容

今回、材料を無色透明化するために、可視光領域でほとんど光を吸収しないアントラセンを光応答性部位として用いた。アントラセンは、光を吸収して、分子間で2量化して硬化し、加熱によって解離するが、アントラセン自体は結晶(固体)である。そこで、アントラセン同士の分子配列を阻害して結晶化を防ぎ、室温で液体状態が安定となる分子構造を設計した(図1)。

アントラセンの2量化反応とそれを利用した分子間架橋反応模式図
図1 アントラセンの2量化反応とそれを利用した分子間架橋反応の模式図

この分子は、複数のアントラセンをエステル結合を介して糖アルコール(D-ソルビトールなど)に導入した構造で、入手しやすい原料から簡単に合成できる。合成した化合物は、室温で液体であり基材へ容易に塗布できた(図2)。塗布後の膜に、吸収端の波長にあたる400~420 nmの光を照射すると、分子間でアントラセン基の2量化による架橋反応が起こって硬化し、着色も生じないで透明の硬化膜となった。

透明化した接着剤(左:今回のアントラセン系、右:これまでのアゾベンゼン系)の写真
図2 透明化した接着剤(左:今回のアントラセン系、右:これまでのアゾベンゼン系)

液体状態のこの化合物を、ガラス基板に塗布して挟み込み、400~420 nmの光で硬化させるとガラス基板を接着できた(図3)。このときのせん断接着強度は、これまでのアゾベンゼン系の約5倍で、ガラス基板の破断強度に達した(>5 MPa)。接着状態は、100 ℃でも安定に保たれたが、150 ℃以上に加熱すると、架橋部分の熱解離により液化し、容易に脱着できた。液体状態に戻った化合物に再び光照射を行うと再接着も可能であり、この光硬化(接着)、熱液化(脱着)のプロセスは、少なくとも5回以上繰り返すことができた。

アルミニウムとガラスの接着試験片(接着面積約1.5 cm2)で、椅子(6 kg)を持ち上げているところ(接着剤の使用量は、10 ~ 20 mg)の写真
図3 アルミニウムとガラスの接着試験片(接着面積約1.5 cm2)で、椅子(6 kg)を持ち上げているところ(接着剤の使用量は、10 ~ 20 mg)。

 

今後の予定

今後は、仮止め剤や解体時に基材を傷めず剥離可能な接着剤、再接着可能な再作業性に優れた接着剤などの高機能接着剤への展開、さらに解体性の塗膜としての応用も視野に入れて、研究開発を進めていく。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
機能化学研究部門 スマート材料グループ
主任研究員  秋山 陽久

 

 用語の説明
◆糖アルコール
糖の誘導体のこと。水酸基(OH基)を複数個もつ。甘味があるものが多く、甘味料などに使われている。OH基の個数や立体構造によって名前が変わる。ソルビトールの化学構造は、下図(左)のようになっており、6つの水酸基をもつ。例えば、5つの水酸基をもつキシリトールも糖アルコールの一種である。最も水酸基がすくない糖アルコールがグリセロール(グリセリン)である。

D-ソルビトール(左)、キシリトール(中央)、グリセロール(右)の化学構造図
D-ソルビトール(左) キシリトール(中央) グリセロール(右)
◆アントラセン
下図に示す多環芳香族化合物の名称。光を吸収すると、別のアントランセンと結合する。このとき2つのアントランセンが結合(2量化)してできる新たな分子を2量体と呼ぶ。形成した2量体は、室温で安定であるが、温度を高くすると、分子をつなぐ結合が選択的に切れて(解離)、元のアントランセンに戻る。

アントラセン説明図
◆アゾベンゼン系
2012年にプレスリリースした「室温で光による液化-固化を繰り返す材料」で用いた下記に示す化学構造を含む化合物。

アゾベンゼン系説明図
◆エステル結合
分子をつなぐ際によく用いる結合のひとつで、糖アルコールの水酸基(OH基)とカルボン酸(COOH基)から水が脱離し、化学結合したときの結合部分の名称。
◆せん断接着強度
接着力を評価する指標の一つ。単純重ね合わせの場合、2枚の被接着体の先端を重ね合わせて接着し、接着面に対して平行方向に引っ張って破断させる際にかかる応力の最大値のことを示す。

単純重ね合わせ接着継ぎ手、中央が接着接合部の図
単純重ね合わせ接着継ぎ手、中央が接着接合部。

 

0502有機化学製品
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました