2018-1-17 農研機構次世代作物開発研究センター
ポイント
農研機構次世代作物開発研究センターは、新品種「ミルキーオータム」を育成しました。今回育成した晩生種「ミルキーオータム」と平成21年に育成した極早生種「ミルキーサマー1)」により、これまで「コシヒカリ」と重なっていた「ミルキークイーン2)」型低アミロース米3)品種の作期4)分散が可能になります。
概要
農研機構次世代作物開発研究センターは、「ミルキークイーン」型低アミロース米品種の晩生種「ミルキーオータム」を開発しました。「ミルキークイーン」は、米飯の粘りが強く冷めても硬くならず良食味であることが市場で高く評価されていますが、作期が「コシヒカリ」と重なっているため、熟期5)の異なる品種の育成が望まれていました。「ミルキークイーン」と平成21年に育成した極早生品種「ミルキーサマー」に加えて、今回育成した晩生品種「ミルキーオータム」の3品種を効率よく利用すれば、「ミルキークイーン」型低アミロース米の作期を分散して生産することが可能になります。
関連情報
予算:運営費交付金(平成18~28年度)
農林水産省委託プロジェクト「DNAマーカー育種による政策ニーズに合致したイネ科新品種の開発」 (平成20~22年度)
品種登録出願:第32101号(平成29年8月18日出願公表)
新品種育成の背景と経緯
平成27年までの5年間で、農業従事者数が約25%減少する一方で、法人経営数は25%増加しており、5ha以上の経営耕地面積をもつ経営体の割合は全体の58%に拡大しています(農林水産省、2015年農林業センサス)。このような経営規模拡大に伴い、労力や農業機械の使用時期が同じ時期に集中する作期競合6)が問題となっています。
農研機構が開発した低アミロース米水稲品種「ミルキークイーン」は、米飯の粘りが強く冷めても硬くならず良食味であることが市場で高く評価されています。しかし、「ミルキークイーン」は「コシヒカリ」の低アミロース突然変異に由来する品種であり、「コシヒカリ」と熟期が同じです。「コシヒカリ」は、平成28年産うるち米のうち36.2%を占める全国で最も作付けの多い品種であり(公益社団法人米穀安定供給確保支援機構、平成28年産 水稲品種別作付動向について)、「ミルキークイーン」と「コシヒカリ」の作期競合が全国の広い範囲で生じています。このため、「ミルキークイーン」や「コシヒカリ」とは熟期が異なり、収穫等の作業時期を分散させることが可能な低アミロース米品種の育成が強く望まれていました。
そこで農研機構は、平成21年に極早生の「ミルキーサマー」を育成しました。さらに今回、「ミルキークイーン」の優れた特性を持ちつつ晩生の「ミルキーオータム」を育成しました。
新品種「ミルキーオータム」の特徴-ミルキークイーン、ミルキーサマーとともに比較-
来歴
「ミルキーオータム」は、「ミルキークイーン」と「関東HD2号」を交配して育成しました。
特長
- 育成地(茨城県つくばみらい市)における出穂期は、「ミルキークイーン」に比べて、「ミルキーオータム」が8日遅く、「ミルキーサマー」は14日早くなります。また、成熟期は「ミルキーオータム」が14日遅く、「ミルキーサマー」は18日早くなります(表1)。
- 炊飯米の食味は、「ミルキーオータム」「ミルキーサマー」ともに「ミルキークイーン」並の”上中”です(図1)。
- 稈長は、「ミルキーオータム」は「ミルキークイーン」並ですが、「ミルキーサマー」はやや短くなります。穂長と穂数は、ともに「ミルキークイーン」並です(表1、写真1、写真2、写真3、写真4)。精玄米収量、玄米千粒重、玄米外観品質は両品種ともに「ミルキークイーン」並です(表2)。
その他の栽培特性および栽培上の注意点
- 「ミルキーオータム」は「ミルキーサマー」「ミルキークイーン」とともに、「コシヒカリ」並にいもち病抵抗性が弱いので、適正な防除が必要です。また、耐倒伏性が不十分なので、多肥は避けるとともに、縞葉枯病に弱いため、常発地での栽培は避ける必要があります。
- 栽培時期や栽培地の環境によって、熟期は変動します。「コシヒカリ」、「ミルキークイーン」との作期分散の可否については試作等により事前に検討が必要です。
品種の名前の由来
「ミルキークイーン」型の低アミロース米であることと、盛夏に収穫期を迎える極早生品種の「ミルキーサマー」に対し、秋が深まった頃に収穫できる晩生品種であることから「ミルキーオータム」と命名しました。
今後の予定・期待
- 「ミルキーオータム」は、経営面積が数10haの大規模農家で「ミルキークイーン」の半分の置き換えが計画されており、数年後には約100 haで栽培される見通しです。その他、関東以西を中心に、さらなる面積の拡大が期待されます。
- 「ミルキーサマー」は千葉県等で早期出荷が可能な早生品種として利用されている他、沖縄県では多収・良食味が評価され奨励品種に採用されています。
種子入手先に関するお問い合わせ先
農研機構次世代作物開発研究センター 企画管理部 企画連携室 交流チーム
用語の解説
1)ミルキーサマー
「ミルキーサマー」は、「ミルキークイーン」と「和系243」を交配して、平成21年に育成しました。極早生で、炊飯米の食味は「ミルキークイーン」並です。
2)ミルキークイーン
「コシヒカリ」の突然変異から平成7年に育成した、低アミロース米品種。炊飯米は光沢、粘りがあり、良食味です。食味以外は「コシヒカリ」とほぼ同等の性質を持ちます。
3)低アミロース米
アミロースの含有率が一般のうるち米よりも低いコメのこと。コメ(精白米)の約75%はデンプンです。コメのデンプンは主としてアミロースとアミロペクチンという成分から構成されています。アミロースの含有率が低くなるほど、炊飯米の粘りは強くなります。もち米のデンプンにはアミロースが含まれません。
4)作期
農作物の栽培時期のこと。
5)熟期
農作物が成熟する時期のこと。
6)作期競合
作物間や品種間で、播種、育苗、収穫等の作業時期が重なること(図2)。収穫時には、作業が集中するために、適期収穫ができずに品質の低下が懸念される他、機械・設備費の稼働率が低下し生産コスト増につながります。熟期の異なる複数品種を導入することで作業時期を分散させ、収穫期間が拡大し、作期競合を回避することができます。
参考図
表1 「ミルキーオータム」及び「ミルキーサマー」の生育特性(平成20~28年)
表2 「ミルキーオータム」及び「ミルキーサマー」の収量及び品質特性(平成20~28年)
図1 「ミルキーオータム」及び「ミルキーサマー」の食味官能試験成績
白米に対して「コシヒカリ」で1.4倍,その他品種は1.25倍の水を加えた炊飯米を評価しました。
図2 複数品種導入による作期競合回避のイメージ
「ミルキークイーン」と「コシヒカリ」を50%ずつ栽培する農家が、「ミルキークイーン」の栽培面積を「ミルキーサマー」、「ミルキークイーン」、「ミルキーオータム」3品種に等面積で作期分散させる場合、収穫期間は約3倍となり、ピーク時の作業量は約2/3に低減可能です。
写真1 「ミルキーオータム」の草姿
(左から ミルキーオータム、日本晴、ミルキークイーン)
写真2 「ミルキーサマー」の草姿
(左から ミルキーサマー、あきたこまち、ミルキークイーン)
写真3 「ミルキーオータム」の圃場での草姿
写真4 「ミルキーサマー」の圃場での草姿
お問い合わせ
研究推進責任者:農研機構次世代作物開発研究センター 所長 矢野 昌裕
研究担当者: 同 稲研究領域 稲育種ユニット 上級研究員 黒木 慎
広報担当者: 同 広報プランナー 大槻 寛