2019-02-05 国立天文台
アルマ 望遠鏡で観測した「オリオン座V883」の疑似カラー画像。塵の分布をオレンジ、メタノール分子の分布を青で示しています。 オリジナルサイズ(980KB)
アルマ望遠鏡が、若い星を取り巻く円盤の中に有機分子を捉えました。星が明るさを増したことで星から離れた場所にある円盤の中の氷が解け、氷に閉じ込められていた有機分子が観測できるようになったのです。惑星系の元になる円盤がどのような物質で作られていてどのように進化していくのか、その一端がアルマ望遠鏡による観測から明らかになりました。
彗星や惑星は、生まれたばかりの星の周囲にある原始惑星系円盤の中で、ガスや塵(ちり)が集まることで作られます。円盤の中でも、中心の星から遠い領域では温度が低いため、さまざまな有機物と水が混じりあった氷が塵の表面に付着した状態になっていると考えられています。氷に閉じ込められた有機分子は電波を出さないため、通常の状態の若い星で有機物質からの電波を観測するのは困難です。
韓国・キョンヒ大学のジョンユァン・リー准教授と東京大学の相川祐理教授をはじめとする研究チームは、地球から1300光年の距離にある若い星「オリオン座V883」に着目しました。若い星では一時的な大増光がときどき見られますが、この星はまさにその最中です。研究チームがアルマ望遠鏡を使ってこの星の周りの円盤を観測した結果、複雑な有機分子を多数見つけることができました。一般的な原始惑星系円盤に比べて、この星の円盤では有機分子の存在比が約1000倍以上高くなっていることも分かりました。このことは、複雑な有機分子を閉じ込めていた氷が中心星の急増光によって解けだした結果、ガスとして放出されたことを示し、さらに氷の成分もまた明らかになったと言えます。
「オリオン座V883」をとりまく原始惑星星系円盤の想像図。若い星の周囲には塵とガスの円盤があり、一定の半径より外側では水やさまざまな有機分子が氷となっていますが、その内側では氷が解けています。今回アルマ望遠鏡では、その解ける場所周辺で複雑な有機分子を検出しました。 オリジナルサイズ(6.1MB)
このような増光は、ひじょうに若い星から少し進化した若い星まで、幅広い進化段階にわたって起こります。明るくなった星の周りの氷の成分をさまざまな年代の星において調べることで、星の進化とともに周囲の円盤の化学組成がどのように変化していくかを知ることができると、研究チームは期待しています。
この研究成果は、Lee et al. ‘ The ice composition in the disk around V883 Ori revealed by its stellar outburst ‘ として、2019年2月4日発行の英国の科学雑誌『Nature Astronomy』オンライン版に掲載されました。