2026-04-09 Tii技術情報研究所

はじめに
光・レーザー通信は、次世代の超高速・大容量通信を支える中核技術として急速に発展している。宇宙通信から地上ネットワーク、さらには量子通信に至るまで、多様な分野で革新的な研究成果が報告されている。本記事では最新研究を整理し、技術トレンドを体系的に分析する。
テーマ分類と各記事の概要
① 宇宙・衛星レーザー通信
- 低軌道衛星間の高速レーザー通信を実現し、宇宙インターネットの基盤強化を目指す技術。
レーザー通信端末を宇宙機に搭載し高解像度データ伝送を実現(Laser communications terminal launches with Artemis II)2026-04-02 マサチューセッツ工科大学(MIT)米マサチューセッツ工科大学リンカーン研究所は、レーザー通信端末「ILLUMA-T」をアルテミスIIに搭載し、宇宙での高速データ通信実証を目指すと発表した。本端末は従来の無線通信に比べて... - 大気影響を克服する光通信システムにより、地上―衛星間の通信安定性を向上。
衛星―地上間レーザー通信で120Gbpsを達成(China Hits 120 Gbps in Satellite-to-ground Laser Communications)2026-01-30 中国科学院(CAS)中国科学院航空宇宙情報研究院(AIR)は、衛星―地上間レーザー通信において、実用志向の応用実験で最大120Gbpsのデータ伝送に成功した。これは2023年の10Gbps、2025年の60Gbpsを上... - 小型衛星搭載用の高効率レーザー通信装置を開発し、低コスト化を実現。
量子通信の安全性と量子計算の信頼性を確立する“光子のものさし” -1光子単位で正確に出力できる、光通信波長帯(C-band)全域で波長可変の光源を開発2025-08-06 産業技術総合研究所産総研は、光通信で使われるC-band全域(1530〜1565nm)で1光子単位の出力制御が可能な波長可変光源「光子のものさし」を開発。国家標準にトレーサブルなこの光源により、光子検出器の性能(検出効...
② 高速・大容量光通信技術
- 新たな変調技術により、従来比で大幅な通信容量向上を達成。
1.5μm衛星間光通信を使った超大容量ミッションデータ伝送に世界で初めて成功 ~JAXAとNECによる宇宙空間での光通信の取り組み~2025-01-23 宇宙航空研究開発機構,日本電気株式会社国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下「JAXA」という)と、JAXAの光衛星間通信システム「LUCAS」※1における光通信機器のプライムメーカー日本電気株式会社(以下「NEC... - 光ファイバーの限界を突破する多重化技術により、超高速通信を実現。
光量子状態の高速生成 ~光通信技術による光量子コンピューターの加速~2024-11-01 東京大学発表のポイント 非古典性の高い光量子状態の生成は確率的であり、この生成レートは論理量子ビットの生成も含め、光量子コンピュータの現実的な計算速度を制限する。 今回の成果では、光通信技術の増幅器・測定器の技術を用い... - データセンター向け光リンクの高速化技術により、消費電力削減と高効率化を両立。
NASA、航空機から宇宙ステーションへ初の4K映像をストリーミング配信(NASA Streams First 4K Video from Aircraft to Space Station, Back)2024-07-24 NASAA graphic representation of a laser communications relay between the International Space Station, the Las...
③ 量子・次世代光通信
- 量子暗号通信の実用化に向けた高信頼光伝送技術を開発。
NASAの光通信デモ、1億4,000万マイル以上の距離をデータ伝送(NASA’s Optical Comms Demo Transmits Data Over 140 Million Miles)2024-04-25 NASANASA’s Psyche spacecraft is shown in a clean room at the Astrotech Space Operations facility near the age... - 光子制御技術を活用し、量子ネットワーク構築の基盤技術を確立。
高出力と狭い固有スペクトル線幅を有するフォトニック結晶レーザーの実現~衛星間通信や衛星搭載ライダー等の各種応用に向けて~2024-02-27 京都大学図 : 開発した高出力・狭線幅フォトニック結晶レーザーの写真と内部の2次元フォトニック結晶共振器の走査電子顕微鏡写真(a)、電流光出力特性(b)、発振スペクトル (c) および 周波数雑音スペクトル(d)。8....
④ 基盤技術・光デバイス革新
- 新素材を用いた高性能レーザーデバイスにより、小型・高効率化を実現。
世界初、「フォトニック結晶レーザー」で 低軌道-静止軌道衛星間向け光通信方式の実証に成功~6G時代における宇宙空間の安定で大容量な通信の実現に貢献~2023-10-19 京都大学<低軌道衛星-静止軌道衛星間における光通信のイメージ>電子工学専攻野田進教授、森田遼平同特定研究員、附属光・電子理工学教育研究センター井上卓也助教とKDDI株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 CEO... - 光集積回路技術の進展により、通信機器の大幅な小型化と高機能化を達成。
世界初、フォトニック結晶レーザーを用いた高出力自由空間光通信の実証に成功~Beyond 5G/6G時代における宇宙空間での通信利用を目指して~2022-09-22 京都大学図 従来の送信機とフォトニック結晶レーザーを用いた送信機のイメージ電子工学専攻の野田進 教授、森田遼平 同特定研究員、井上卓也 同助教、株式会社KDDI総合研究所らの共同研究グループは、フォトニック結晶レーザー...
テーマ分類ごとのトレンド分析
① 宇宙・衛星レーザー通信
宇宙通信分野では、レーザー通信の導入により従来の電波通信を大きく上回る高速・大容量化が進んでいる。特に低軌道衛星コンステレーションとの組み合わせにより、地球規模の高速ネットワーク構築が現実味を帯びている。
一方で、大気揺らぎや精密なビーム制御といった課題が依然として存在する。今後はAIによる補正技術や自動追尾技術の高度化により、より安定した通信が実現され、宇宙インターネットの基盤として不可欠な存在になると考えられる。
② 高速・大容量光通信技術
光通信の主戦場である地上ネットワークでは、通信容量の爆発的需要に応えるため、多重化技術や新しい変調方式の進展が顕著である。これによりデータセンターや5G/6Gインフラの基盤が強化されている。
効果としては通信速度の飛躍的向上と消費電力削減が挙げられるが、伝送損失や熱問題が課題となる。今後はフォトニクス融合技術や省電力設計が鍵となり、持続可能な通信インフラの構築が進むと予測される。
③ 量子・次世代光通信
量子通信は究極のセキュリティを実現する技術として注目されている。光子レベルでの情報伝達により盗聴不可能な通信が可能となる点が最大の利点である。しかし、長距離伝送やノイズ耐性の確保が大きな課題であり、現時点では実用化に向けた過渡期にある。今後は量子リピータや誤り訂正技術の進展により、都市間・国際間の量子ネットワーク構築が進むと期待される。
④ 基盤技術・光デバイス革新
光通信を支える基盤技術として、レーザーデバイスや光集積回路の進化が重要な役割を果たしている。新素材やナノ構造技術の導入により、小型化・高効率化・低コスト化が進展している。これにより、通信機器の性能向上だけでなく、IoTやエッジデバイスへの応用も広がっている。
一方で製造コストや量産技術の確立が課題であり、今後は半導体技術との融合によるスケーラビリティ向上が重要となる。
全体まとめ
光・レーザー通信分野は、「宇宙」「高速化」「量子」「デバイス革新」という4つの軸で急速に進化している。特に宇宙通信と地上光通信の融合は、グローバルな通信インフラの再定義をもたらす可能性が高い。また、量子通信の進展はセキュリティの概念を根本から変革し、金融・防衛・政府通信などの分野で不可欠な技術となるだろう。
これらの技術進展の背景には、データ需要の爆発的増加とエネルギー効率への要求がある。今後は単なる高速化だけでなく、「低消費電力」「高信頼性」「セキュリティ強化」が重要な評価軸となる。さらに、光と電子の融合技術やAI制御との統合により、通信システムはより自律的かつ効率的に進化していくと考えられる。
将来的には、地上・海底・宇宙をシームレスに接続する「全光ネットワーク」が実現し、情報インフラの在り方そのものが変革される可能性が高い。そのため、基盤技術への継続的投資と国際標準化の推進が、競争力確保の鍵となるだろう。


