地球が見える 2018 に、シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第3回)を掲載しました

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地球が見える 2018 に、シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第3回)を掲載しました

2018/11/15  JAXA

地球が見える 2018 に、シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第3回)を掲載しました

衛星データと数値モデルを融合する最新の研究開発を紹介するシリーズ「衛星データと数値モデルの融合」の第3回として、衛星データと気象モデルを合わせた利用(融合)、NEXRA(気象データ同化システムを用いて算出したプロダクト)、NEXRAシステムによって得られた画像を可視化するホームページ「世界の気象リアルタイム」、さらには、NEXRAを用いた平成30年7月豪雨を対象とする気象予測結果について紹介します。

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NEXRA: JAXAのスーパーコンピュータ(JAXA Supercomputer System Generation 2; JSS2)の大規模計算性能を活かした気象データ同化システム並びに、そのシステムを用いて算出したプロダクトをNICAM-LETKF JAXA Research Analysis (NEXRA)です。NEXRA(ねくすら)は現在、1日に4回計算され、実時間から約8時間遅れで定常的に運用されています。

地球が見える 2018年

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シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第3回) 「世界の気象リアルタイム」の開始とそれを実現した最先端技術

シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」として、第1回では、黄砂やPM2.5に代表される大気中に浮遊する微粒子に関する衛星データと数値モデルの融合について、第2回では、衛星データと海洋モデルの融合による「海中天気予報」を紹介しました。
「衛星データと数値モデルの融合」の第3弾として、今回は、最近JAXAがはじめた衛星データと気象モデルの融合、NEXRAと、それを可視化したホームページ「世界の気象リアルタイム」、さらには、NEXRAを用いた、平成30年7月豪雨を対象とする気象予測結果について紹介します。

衛星データと気象モデルの融合NEXRAを可視化するホームページ「世界の気象リアルタイム」

図1 衛星データと気象モデルの融合NEXRAを可視化するホームページ「世界の気象リアルタイム」

EORCでは、世界の気象情報を容易に閲覧できるように、NEXRAシステムによって得られた画像を可視化するホームページ「世界の気象リアルタイム」を公開しました(図1)。このホームページから、現在の気象データ、地表風向・風速、地表気温、地表水蒸気量、積算水蒸気量、地表面気圧、時間積算降水量、外向き長波放射量(OLR)の画像を見ることができます。
NEXRAデータは現在、国立研究開発法人 海洋研究開発機構の集中観測(YMC-BSM)の支援やEORCが東京大学でと共同で開発を進める陸面シミュレーションモデルToday’s Earth等で利用が進められています。
なお、本記事は、東京大学大気海洋研究所 佐藤正樹 教授・金丸佳矢 特任研究員とJAXA/EORCの共同で作成しました。

最先端技術を集結したNEXRAシステムの登場

日々の天気予報では、様々な観測データ、例えばJAXAがこれまで打ち上げてきた地球観測衛星(GPM主衛星DPR/GMI,GCOM-W AMSR2など)、が使われています。天気予報を行うには予報初期値が必要で、予報初期値の精度が気象予測の精度そのものに直結するからです。具体的には次のような手順で予報初期値が作成されています。数値予報モデルが推定したある時刻の大気状態と観測データのそれぞれの確からしさを組み合わせて尤もらしい状態(解析値)を計算し、その結果をもとに次の時刻を数値予報モデルで予測します。次の時刻では新たに観測データが得られるので、それを取り込んで同じように解析値を計算します。この繰り返しを時刻が進むたび行って予報初期値が作成されています。このような一連の流れデータ同化サイクルと呼びます。データ同化サイクルによって衛星観測データは明日の天気予報にすぐ役立ちますが、それを行うには数値予報モデルと観測データを尤もらしく取り込むデータ同化システムの双方を必要とします。そのため、データ同化サイクルのノウハウはこれまで、気象庁のような現業機関などに限られていました。

しかし、最近の計算機性能やデータ同化技術の発展は目覚ましく、またJAXAが東京大学と国立研究開発法人 理化学研究所と数値気象予測モデル(Nonhydrostatic Icosahedral Atmospheric Model; NICAM, Satoh et al. 2014)とデータ同化システム(Local Ensemble Transform Kalman Filter; LETKF, Kotsuki et al. 2017a, 2017b; Terasaki and Misyohi, 2017, Kotsuki et al. 2018)を用いた共同研究を進めたことで、衛星データと気象モデルの融合に関する最先端技術を開発することが出来ました。JAXAのスーパーコンピュータ(JAXA Supercomputer System Generation 2; JSS2)の大規模計算性能を活かした気象データ同化システム、ならびに、そのシステムを用いて算出したプロダクトが、NICAM-LETKF JAXA Research Analysis (NEXRA)です。NEXRA(ねくすら)は現在、1日に4回計算され、実時間から約8時間遅れで定常的に運用されています。

衛星データと気象モデルを融合したNEXRAの特徴

NEXRAはまだ開発中ですが、現時点でもいくつかユニークな特徴をもっています。ひとつは観測データとして衛星全球降水マップ(Global Satellite Mapping of Precipitation; GSMaP)を同化している点です。降水は水蒸気や風などに比べて時空間変動が大きく、かつ数値予報モデルが予測する降水量と観測した降水量そのものにも大きな不一致が存在しています。そのため、観測と数値モデル間で大きな不一致をもつ降水をそのまま同化すると、降水の精度が改善されてもその降水を引き起こす大気状態の精度が悪くることが知られています。データ同化の目的は、気象予測のための大気状態の精度向上なので、降水データは同化に好ましい情報とは言えませんでした。そこで、NEXRAは”降水量”そのものではなく,”過去の降水頻度分布に基づくその降水の起こりやすさ”を同化することで、GSMaPの降水を同化して解析値の精度を改善させることに成功しています(Kotsuki et al., 2017a)。

NEXRAは全球のアンサンブルデータを出力していることもユニークな点のひとつです。アンサンブル(ensemble)はフランス語が語源のようで数学における集合を意味します。ここでいう集合とは、ちょっとしたパラレルワールドです。私たちが物差しで測った長さが測定条件の違いでばらついたりするように、観測値には測定誤差が存在します。観測値は私たちが本当に知りたい大気状態の真値の周辺でばらついていることになります。同じように数値モデルの予報も真値の付近でばらついているので、観測と数値モデルの誤差をうまく組み合わせて作ったばらつきそのものが、パラレルワールドことアンサンブルデータです。アンサンブルデータはデータ同化サイクルが実行されるたびに作られて、NEXRAでは100メンバを使って計算しています。

アンサンブルデータはその時刻の観測データによって修正されているので、ばらつき具合はそれほど大きくはありません。しかし、アンサンブルデータを予報初期値としてそれぞれ気象予測を行うと、初期値の小さな違いは時間経過とともに増幅されて、数日後の予報では低気圧の位置などが大きく異なることがあります。アンサンブルデータを用いた予報(アンサンブル予報)結果の類似点や相違点を用いることで、対象とする現象の予測可能性についての確からしさや現象の特異性を調べることが可能になります。

平成30年7月豪雨を対象とした気象予測結果

本稿では平成30年7月上旬に西日本で起きた豪雨(平成30年7月豪雨)を対象とした、NEXRAのアンサンブルデータを用いた高解像度アンサンブル予報結果を紹介します。平成30年7月豪雨は、全球降水観測計画(GPM)主衛星と全球合成降水マップ(GSMaP)による豪雨の解析や、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」による浸水域等の解析、東京大学とEORCで共同で開発を進める陸面シミュレーションモデルの河川の氾濫や浸水の再現実験で述べられているように、西日本で甚大な被害を与えました。

7/6 09 JST- 7/7 09 JSTの24時間分の平均降水量 (mm/hr)を実況とした地上観測の降水分布を図2で示します。地上観測の降水量の多い箇所は、広島県、愛媛県、岐阜県に対応していて、線状降水帯が同時多発的に発生していたことが分かります。

図2で見られるような降水域がどうして起きたのか?その要因は何なのか?この疑問に答えるためにNEXRAのデータを用いてアンサンブル予報実験を行いました。NEXRAの微妙に異なる100個のアンサンブルデータを予報初期値として、100通りの予報を14 km格子間隔の設定で行った結果が図3です。100個の予報結果は図の左下から右上に向かう降水域の分布をおおむね再現していますが、細かく見ると予報ごとによってばらばらしています。今回の予報実験では、降水域が九州から四国中国地方に分布しているもの、対馬海峡上に分布しているものがあったりします。

この100個の予報実験の中で、降水域が実況と似ていた結果を示したのが図4です。図4の結果は実況に比べるとやや降水域が北西寄りに分布していますが、降水域が九州から中国四国地方に分布していることが分かります。この分布は東シナ海から流入している大量の水蒸気によってもたらされていることが分かりました。水蒸気量が大量かつ長時間流入し続けたことが今回の記録的豪雨の要因のひとつであることが示唆されます。比較対象として、図5は降水域分布の再現性が良くなった実験結果を示します。この実験の降水域は西日本ではなく対馬海峡に分布しており、その分布は水蒸気の流入とよく対応しています。このことから、風や水蒸気の初期値の違いが水蒸気流の流入を変えて、降水域の分布の再現性を強く決めていることが分かります。

空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が近かった実験結果。降水量 (mm/hr)。

空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が近かった実験結果。可降水量 (mm)。

図4 空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が近かった実験結果。 07/05 09JSTからの予報で、07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。左図は降水量 (mm/hr)右図は可降水量 (mm)

空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が悪かった実験結果。 07/05 09JSTからの予報で、07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。降水量 (mm/hr)。

空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が悪かった実験結果。 07/05 09JSTからの予報で、07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。可降水量 (mm)。

図5 空間解像度14 kmで行った100個の予報において、降水域の分布が悪かった実験結果。 07/05 09JSTからの予報で、07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。左図は降水量 (mm/hr)右図は可降水量 (mm)。

最後に、降水域の分布の再現性がよかった予報初期値(図4に使用したNEXRAデータ)を使って、3.5km格子間隔で予報を再度行った結果が図6になります。計算する格子間隔を細かくすることで、雲や降水の細かな変動をより正しく表現することが期待できます。降水域や水蒸気の分布はおおよそ14km格子の実験結果(図4)と似ていますが、特に降水域の細かな分布の違いが明瞭に分かります。

図4に用いた予報初期値を用いて空間解像度3.5kmで行った予報実験結果(07/05 09JSTからの予報)。07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。降水量 (mm/hr)。

図4に用いた予報初期値を用いて空間解像度3.5kmで行った予報実験結果(07/05 09JSTからの予報)。07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。可降水量 (mm)。

図6 図4に用いた予報初期値を用いて空間解像度3.5kmで行った予報実験結果(07/05 09JSTからの予報)。07/06 09JST – 07/07 09JSTの24時間における平均値。左図は降水量 (mm/hr)右図は可降水量 (mm)

今回の記事ではここまでとなりますが、わずかな初期値の違いは何によって決められていたのでしょうか?今後、NEXRAが作る100個のパラレルワールドの違いや類似性を調べることで、その謎を突き止める手がかりになるはずです。今回の豪雨が引き起こされた原因が分かれば、豪雨が起こる前に対策することが可能になります。NEXRAを用いた今後の研究に、乞うご期待です。

参考文献

0303宇宙環境利用1702地球物理及び地球化学1902環境測定
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