世界初、太陽の可視光を吸収して水を分解する窒化タンタル光触媒を開発

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人工光合成による環境に優しいモノづくりの実現を目指す

2018/09/04 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構,人工光合成化学プロセス技術研究組合,東京大学,信州大学

NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)は、東京大学、信州大学とともに、世界で初めて、可視光領域で水を分解する窒化タンタル光触媒の開発に成功しました。可視光領域の波長600nm近辺は太陽光で最も強度が高い領域のため、効率的なエネルギー活用が期待できます。

窒化タンタルは、次世代の光触媒材料として2000年頃から有望視されていましたが、実際に光触媒を製造して水分解を確認できたのはこれが世界で初めての事例となります。

NEDOとARPChemは、環境に優しいモノづくりを実現するために、太陽光のエネルギーで水から生成した水素と工場などから排出されるCO2を合成して、プラスチック原料などの化学品を製造する人工光合成の研究開発を進めています。今後、光触媒や人工光合成プロセス全体のさらなる効率向上を目指していきます。

世界初、太陽の可視光を吸収して水を分解する窒化タンタル光触媒を開発
図1 今回開発した単結晶窒化タンタル(Ta3N5)微粒子光触媒(電子顕微鏡写真)

人工光合成プロジェクトの概要

(1)光触媒開発
太陽光エネルギーを利用した水分解で水素と酸素を製造する光触媒およびモジュールの開発

(2)分離膜開発
発生した水素と酸素の混合気体から水素を分離する分離膜およびモジュールの開発

(3)合成触媒開発
水から製造する水素と発電所や工場などから排出する二酸化炭素を原料としてC2~C4オレフィンを目的別に合成する触媒およびプロセス技術の開発

図2 人工光合成プロジェクトの概要(今回の成果は(1)光触媒開発のテーマ)

1.概要

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、環境に優しいモノづくりを実現するために、太陽光のエネルギーで水から生成した水素と工場などから排出されるCO2を合成して、プラスチック原料などの基幹化学品(C2~C4オレフィン※1)製造プロセスを実現するための基盤技術開発※2に取り組んでいます。太陽光の強度のピークは主に可視光領域(400nm~800nm)にあるため(図3)、光触媒がこの波長域の光を吸収して水を分解できれば、効率よく太陽光のエネルギーを利用できます。しかし、従来の光触媒は、吸収波長が主として紫外光領域(~400nm)に限られるものが多く、可視光領域から赤外光領域の光を利用できるように、光触媒の吸収波長を長波長化することが課題の一つでした。

今回、NEDOと人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)※3は、国立大学法人東京大学、国立大学法人信州大学とともに、世界で初めて、可視光を吸収して水を分解する単結晶窒化タンタル(Ta3N5)微粒子光触媒の開発に成功しました。可視光領域のうち400nm~600nmで水を分解できます。600nm近辺は太陽光で最も強度が高い波長域のため、効率的なエネルギー活用が期待できます。

2000年頃から窒化タンタルの可視光領域での水分解については、理論的には可能であると指摘されていましたが、実際に窒化タンタルの光触媒の製造に成功し、水分解が確認できたのはこれが世界で初めてとなります。

また、今回開発した光触媒は、従来検討されてきた方法に比べて1/10以下の短時間での製造が可能で、安価なプロセスの実現が期待できます。

なお、今回の研究成果は、2018年9月3日(月)(英国現地時刻)に英国科学誌「Nature Catalysis」のオンライン速報版に掲載されました。

太陽光の波長とスペクトル強度グラフ
図3 太陽光の波長とスペクトル強度

2.今後の予定

今後、窒化タンタル光触媒の合成手法の改良や、酸窒化物(酸化物イオンと窒化物イオンが共存する化合物)や酸硫化物(酸化物イオンと硫化物イオンが共存する化合物)などの異なる材料への展開を通じて水分解用微粒子光触媒の機能改良を進め、太陽光を使って製造する水素と、工場などから排出されるCO2を利用して化学品を製造するプロセスの実現に向けた研究開発の加速につなげます。

3.成果内容

今回開発した光触媒は、窒化タンタルと呼ばれる化合物から構成されます。窒化タンタルは400nmから600nmまでの波長範囲の可視光を吸収し、水を水素と酸素に分解することが可能なバンド構造※4を有することが2000年頃に判明しました。しかし、従来の合成手法では原料の酸化物をアンモニア気流中で長時間加熱していたために、良質な窒化物微粒子の合成が困難で、窒化タンタル光触媒を用いた水分解は実現できていませんでした。そこで研究チームは、既存の窒化物合成手法とは異なる原料の選定と合成条件の研究を進めてきました。

今回、複合酸化物(タンタル酸カリウム、KTaO3)微粒子を従来の1/10以下の短時間で窒化することで、複合酸化物微粒子上に単結晶の窒化タンタル微粒子を直接形成し、さらに水素生成反応を促進する助触媒※5を担持させました(図4)。これにより、窒化物微粒子が高品位化して光励起された電子と正孔を水分解反応に有効利用することが可能となり、今回の窒化物微粒子光触媒の開発につなげられました(図5)。この光触媒は水中に分散することで、400nmから600nmまでの波長範囲の可視光、および疑似太陽光※6を吸収して水を分解することができます。また、これを基板に固定化すれば、光触媒パネル反応器に組み込んで利用できます。

結晶窒化物微粒子合成の説明図
図4 単結晶窒化物微粒子の合成

単結晶窒化物微粒子光触媒による疑似太陽光下での水分解反応グラフ
図5 単結晶窒化物微粒子光触媒による疑似太陽光下での水分解反応

【用語解説】
※1 C2~C4オレフィン
二重結合を1つ含む炭化水素化合物で、炭素数2から4のもの。C2はエチレン、C3はプロピレン、C4はブテンと呼ばれ、プラ スチック原料等となる基幹化学品として用いられる。
※2 製造プロセスを実現するための基盤技術開発
  • 事業名:二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発(人工光合成プロジェクト)
  • 事業期間:2012~2021年度(2012~2013年度は経済産業省、2014年度からはNEDOのプロジェクトとして実施中)
  • 事業内容:人工光合成とは太陽光エネルギーを用いて、水や二酸化炭素などの低エネルギー物質を、水素や有機化合物などの高エネルギー物質に変換する技術で人工光合成に係る基盤技術開発に取り組んでいる。
※3 人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)
参画機関:国際石油開発帝石(株)、TOTO(株)、(一財)ファインセラミックスセンター
富士フイルム(株)、三井化学(株)、三菱ケミカル(株) (五十音順)
※4 バンド構造
固体材料中の電子が存在することができる帯状のエネルギー領域(バンド)の構造。イオンの周期的な配列に由来し、半導体材料の電子的、光学的物性を決定づける。
※5 助触媒
酸化還元反応の活性点として光触媒に担持される金属・金属酸化物等の微粒子。半導体光触媒表面は一般的に酸化還元反応である水素・酸素生成反応には低活性であるため、高効率な水分解反応の実現には助触媒の担持が不可欠である。ある種の助触媒材料は、半導体と接合を形成して電荷分離を促進する効果があることも知られている。
※6 疑似太陽光
強度と波長の関係が自然太陽光と同等となるように設計された光。天候や時間による変動がないため、再現性良く光触媒の太陽光照射下での特性を評価することが可能。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 材料・ナノテクノロジー部 担当:小川、佐川

人工光合成化学プロセス技術研究組合 担当:西見

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:藤本、坂本、髙津佐

0501セラミックス及び無機化学製品0505化学装置及び設備
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