2022-04-27 名古屋大学
国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院情報学研究科の有田 隆也 教授、鈴木 麗璽 准教授、大和 祐介 博士後期課程学生の研究グループは、コンピュータ内進化実験により、メタ記憶注1)の機能を持つニューラルネットワーク注2)を創り出すことに成功しました。
近年、脳の回路を模したニューラルネットワークを用いた人工知能技術が急速に進展しています。本研究の対象はメタ記憶の進化です。メタ記憶とは、例えば「昨日の朝食は何を食べたか覚えているかな?」と考えるときに頭の中で働くような、記憶の存在の有無を調べたりコントロールしたりするような認知機能を意味します。
本研究では「遅延見本合わせ課題」を採用しました。最初に赤い丸などのパターンを見た後、複数パターンから最初のパターンを指し示すテストを受けます。正解だと報酬を得ますが、テストを回避しても小さな報酬を得られます。メタ記憶がある場合、記憶に自信があればテストを受け、自信がなければ回避するはずです。
本研究では、この課題を単純化した上で、最初はランダムな構造を持つニューラルネットワーク集団が世代交代を経てメタ記憶を持つように、つまり記憶が壊れがちな場合にはテストを回避するように進化しました。ニューラルネットワークの構造だけでなく、ニューロン間結合の強さの調整、つまり学習の方法についても人手によらずに進化によって決まるところがポイントです。この成果は「ヒトらしい心」、さらには「意識」を持つ人工知能の実現の手がかりになることが期待されます。
本研究成果は、2022年4月26日午後6時(日本時間)付国際科学誌「Scientific Reports」のオンライン版に掲載されました。
【ポイント】
・近年、脳の回路を模した人工ニューラルネットワークを用いた機械学習によって、画像や言語などの認識・生成を行う人工知能技術が急速に進展している。
・この進展の先には、真に「ヒトらしい心」を持つ人工知能が作れるのかという難問がある。
・本研究では、我々の心がそうであるように、人工生命の研究手法を用いて、進化によって、人間の認知機能の一つであるメタ記憶を創り出すことが可能か検討した。
・計算機内進化実験の結果、記憶を調べてその記憶の保持状態を、高次の心的表象として保持して出力を切り分けるようなニューラルネットワークが、人手には一切頼らずに進化した。
・動物のメタ記憶を調べる実験が近年行われてきており、その存在の有無や実験方法に関する活発な議論に対して、実際に進化できるかという新しい観点を提供する。
・応用的な側面については、「ヒトらしい心」、さらには「意識」を持つ人工知能の実現の手がかりになることが期待される。
【用語説明】
注1)メタ記憶:
記憶に対する認知。記憶を読み取るモニター機能と記憶内容の変更に関わるコントロール機能に2分できる。
注2)ニューラルネットワーク:
脳の神経活動から着想を得た数理モデル。ニューロン群とそれらのニューロン間の重み付き有向結合の集合として表現される。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Evolution of metamemory based on self-reference to own memory in artificial neural network with neuromodulation
著者:Yusuke Yamato, Reiji Suzuki, and Takaya Arita(名古屋大学)
DOI: 10.1038/s41598-022-10173-4
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-022-10173-4
【研究代表者】
大学院情報学研究科 有田 隆也 教授