地熱発電所の環境影響評価を円滑化するための技術ガイドライン3件を公開

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地熱発電所の開発期間の短縮と導入拡大を目指す

2021-12-01 新エネルギー・産業技術総合開発機構,東北緑化環境保全株式会社,電力中央研究所,東京農業大学,東京情報大学,株式会社ガステック

NEDOは、地熱発電の導入拡大を目指して2013年度より「地熱発電技術研究開発」に取り組んでおり、このたび、委託先である東北緑化環境保全(株)、(一財)電力中央研究所、東京情報大学、(株)ガステックと共同で、地熱発電所の冷却塔排気を対象とした環境影響評価(環境アセスメント)を効率的に実施するための技術ガイドライン3件を策定し、12月1日からNEDOウェブサイトに公開しました。

地熱開発事業者が本ガイドラインを活用することで、環境アセスメントの円滑化や、開発期間短縮によるコスト低減効果などが期待できます。これにより、自然環境との調和を図りながら地熱発電の導入拡大を促進します。

1.概要

再生可能エネルギーの導入拡大が望まれる中、地熱発電は時間や天候に左右されず安定したエネルギー出力が得られるため、ベースロード電源として注目を集めています。特に日本は世界第3位の地熱資源ポテンシャルを有しており、地熱発電技術の開発に大きな期待が寄せられています。一方で、一般に地熱などに関する環境アセスメントの手続きは3年から4年程度かかり、導入拡大に向けて環境アセスメントの円滑化が課題になっています。

このような背景から、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2013年度に「地熱発電技術研究開発※1」事業を立ち上げ、地熱資源の利用拡大につながる技術開発を実施してきました。今回、そのテーマの一つである「冷却塔排気に係る環境影響の調査・予測・評価の手法に関する研究開発」(2019~2021年度)において、委託先の東北緑化環境保全株式会社、一般財団法人電力中央研究所、学校法人東京農業大学 東京情報大学、株式会社ガステックと共同で、地熱発電所の冷却塔排気を対象とした環境影響評価を効率的に実施するための技術ガイドラインを策定し、12月1日からNEDOウェブサイトに公開しました。

今回公開したガイドラインは、「地熱発電所の冷却塔から排出される硫化水素の予測手法の基本的な考え方に関するガイドライン」、「地熱発電所におけるUAVを用いた樹木モニタリング調査手法ガイドライン」、「地熱発電所の新設・更新に係る冷却塔から排出される蒸気による樹木への着氷影響に関する環境配慮ガイドライン」の3件です。これらのガイドラインを地熱開発事業者が活用することにより、環境アセスメントの円滑化や開発期間の短縮によるコスト低減効果などが期待されます。これにより、自然環境との調和を図りながら地熱発電の導入拡大を促進します。

<本ガイドラインの入手方法>

以下のウェブサイトからダウンロードできます。

地熱発電所の冷却塔排気を対象とした環境影響評価を効率的に実施するための技術ガイドライン

2.ガイドラインの詳細
【1】地熱発電所の冷却塔から排出される硫化水素の予測手法の基本的な考え方に関するガイドライン

<特徴>

地熱発電所の冷却塔から排出され周囲に拡散される硫化水素濃度の予測には、「発電所に係る環境影響評価の手引」(経済産業省)※2にも示されている、2013~2015年度に実施したNEDO事業で開発された「数値計算モデル(詳細予測数値モデル)※3」が広く使われています。一方で詳細予測数値モデルによる手法は大型のスーパーコンピュータを使う必要があるなど、環境アセスメントの円滑化には課題が残されている状況でした。そこで、詳細予測数値モデルと並行して開発された簡易予測数値モデルの精度を評価し、一定の条件下では環境アセスメントに適用可能な予測精度を確保できることを確認しました。

本ガイドラインでは、環境アセスメントにおける二つの予測モデルの適切な使い分けや予測・評価条件を明確化し、最適な数値計算を実施するための考え方を取りまとめています。

地熱発電所の環境影響評価を円滑化するための技術ガイドライン3件を公開

図1 簡易予測数値モデルの予測精度評価(左)と詳細予測数値モデルによる硫化水素濃度予測イメージ(右)

簡易予測数値モデルの予測結果は、7つの観測地点(〔1〕~〔5〕、〔8〕、〔9〕)における実際の観測値に対して0.1倍~10倍の範囲(図中の赤点線に挟まれたエリア)にほぼ収まっており、野外における実際の拡散現象を一定の精度で再現していることが確認されました。なお、詳細予測数値モデルでは半数以上の点が0.5~2倍の範囲(図中の青点線に挟まれたエリア)に収まり、より高い精度を有しています。

<効果>

本ガイドラインの活用により、環境アセスメントの効率的な実施が期待できます。環境影響評価の対象となる事業種別や手続き段階に応じて、二つの予測モデルを使い分けることにより、アセスメント手続きを円滑に実施するとともに、予測評価に必要な期間および費用を低減することが可能です。そして、地域特性などに応じた評価を行うことで、より適切な環境配慮に取り組むことができます。

【2】地熱発電所におけるUAVを用いた樹木モニタリング調査手法ガイドライン

<特徴>

国内の地熱発電所において、現時点では、冷却塔から排出される硫化水素による植生への著しい影響は報告されていません。しかし、影響が生じる懸念があるため、その対応として発電所の運転開始後に樹木の活力の状態を目視で判断するモニタリング調査が行われています。ただしこの手法は、評価基準が定性的で客観性が十分でない場合があるほか、調査に時間と労力がかかるなどの課題がありました。

本ガイドラインでは、新たな調査手法としてマルチスペクトルカメラ※4を搭載したUAV(Unoccupied Aerial Vehicle:無人航空機、ドローン)で撮影した画像から植生指数※5を算出し、植物の状態を客観的かつ迅速に確認する具体的な作業手順や分析方法などを取りまとめました。

UAVで撮影後に合成した画像(左)と画像を元に算出した植生指数の画像(右)

図2 UAVで撮影後に合成した画像(左)と画像を元に算出した植生指数(右)

<効果>

広範囲を短時間で調査可能なUAVを使い、植生指数を用いた評価をすることで、現地調査の期間および費用の低減につながるとともに、客観的な調査が可能となります。目視では判断できないほどわずかな樹木の活力の差も検出できることから、影響の有無をより詳細に把握することができます。また、UAVでより広い範囲の森林を調査できるため、影響の程度をより広く把握することができます。

【3】地熱発電所の新設・更新に係る冷却塔から排出される蒸気による樹木への着氷影響に関する環境配慮ガイドライン

<特徴>

地熱発電事業に伴う自然環境への影響の一つに、冬季に冷却塔から排出される蒸気が冷やされて樹木に付着する、着氷の発生が指摘されています。しかしその詳細は把握されておらず、予測評価の手法も確立されていませんでした。今後は自然豊かな植生が広がる自然公園地域においても地熱発電所が新設されていくことも想定される中、より自然環境と調和した地熱開発を促進するためにも、樹木への着氷の影響を検討することが重要となります。

本ガイドラインでは、冷却塔から排出される蒸気による着氷の成長率を定量的に予測する手法を開発し、樹木への着氷の影響に対する環境配慮を進めていく際の手順などを取りまとめています。

苗木により観測された着氷状況画像

図3 苗木により観測された着氷状況

 着氷成長率予測の検討結果一例のグラフ

図4  着氷成長率予測の検討結果一例(気温-6℃の場合(上)と気温-3℃の場合(下))

相対湿度(左列)および着氷成長率(右列)の分布を示しています。左列の破線は地熱発電所の冷却塔から排出された白煙の範囲(相対湿度100%)を、右列の破線は着氷成長率1mm/hrの範囲を示しています。 気温-6℃と-3℃とでは、白煙の範囲に大きな相違がなくても、着氷成長率には大きな相違がみられることを示しています。

<効果>

本ガイドラインでは着氷が発生する気象条件の目安とともに、着氷が発生する可能性のある範囲を明らかにする予測手法を提示しています。樹木への着氷の発生リスクや影響範囲を把握することで、適切な環境配慮を検討することができます。また、地熱発電所運転開始後のモニタリング調査の軽減にも貢献できます。

3.今後の予定

NEDOは今後、環境影響評価に際し、多くの事業者や地熱に関わる技術者などに本ガイドラインを活用いただくことで、環境アセスメント円滑化や、開発期間短縮といった地熱事業の推進に役立つことを目指します。また、電力中央研究所は本事業終了後、硫化水素や着氷影響の予測手法に関する精度向上や高度化に関する研究開発を引き続き実施する予定です。

【注釈】
※1 地熱発電技術研究開発
事業概要:地熱発電の導入拡大を促進することを目的に、環境保全対策技術、酸性熱水対策技術、地熱発電システムの運転等管理高度化技術などをテーマに研究開発を実施しました。
事業期間:2013年度から2021年度
事業規模:約10億円
地熱発電技術研究開発
※2 「発電所に係る環境影響評価の手引」(経済産業省)
発電所に係る環境影響評価の手引
※3 数値計算モデル(詳細予測数値モデル)
冷却塔から排出される硫化水素の拡散状況を予測する数値モデルです。これまでに環境アセスメントでの実用実績があります。
※4 マルチスペクトルカメラ
さまざまな波長で構成されている光のうち、特定の複数の波長帯の光を捉えることができるカメラです。人の目で見える波長帯だけではなく、赤外線などの人の目では見えない波長帯も捉えることができます。
※5 植生指数
植物による光の反射の特性を利用して、植生の状況を把握することを目的として考案された指標です。植物の量や活性を表しています。数値はマイナス1から1の範囲で表され、1に近いほど活性が高いことを示します。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新エネルギー部 担当:加藤、長谷川 TEL:044-520-5270
東北緑化環境保全株式会社 事業本部環境調査部自然第2グループ

一般財団法人電力中央研究所 広報グループ
担当:林田、藤本

学校法人東京農業大学 東京情報大学総合情報研究所
担当:仲上

株式会社ガステック 営業2部 営業開発課 担当:笹島

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:鈴木(美)、坂本、橋本、根本

1904環境影響評価
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