メタマテリアルは均一な熱輻射環境における熱電発電を最も高効率に駆動できる吸収体であることを発見

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2024-02-13 東京農工大学

国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院の久保若奈教授、工学府電気電子工学専攻博士前期過程の中山涼介氏、工学府電気電子工学専攻博士前期過程の斎藤宗平氏、国立研究開発法人理化学研究所光量子工学研究センターフォトン操作機能研究チームの田中拓男チームリーダー(同開拓研究本部田中メタマテリアル研究室主任研究員)らはこれまでに、均一な熱輻射環境下でも熱電発電を可能にするメタマテリアル熱電発電を報告しています。今回、この均一な熱輻射環境下における熱電発電において、極薄の構造でありながら高い熱輻射吸収特性を示すメタマテリアルが、最も効果的に熱電発電を駆動させることを実験的に明らかにました。
メタマテリアル熱電変換は、従来の熱電変換素子の実装場所として適さない日中の道路や建物表層などに滞留する未利用熱を電気エネルギーとして再利用できる可能性をもつ技術です。今回の知見がより高効率な熱電変換デバイスを実現するための設計指針として活用され、将来的に脱炭素社会の実現につながると期待されます。

本研究成果は、  Nanophotonics(2月9日付)に掲載されました。
論文タイトル:Metasurface absorber enhanced thermoelectric conversion
URL:https://www.degruyter.com/document/doi/10.1515/nanoph-2023-0653/html

現状
我々の周囲には、廃棄されている未利用熱があふれています。未利用熱とはたとえば、車やパソコンなどの電子機器、道路や建物表層などに滞留する熱エネルギーのことです。この未利用熱は、日本が輸入した石油や天然ガスなどの一次エネルギーの約6割を占めており、我々は本来のエネルギーの4割しか有効的に活用できていないことになります。もしこの未利用熱を回収してエネルギーとして再利用できれば、よりエネルギー利用効率の高い社会を実現できます。
未利用熱の再利用に活用できると期待されているのが、熱を電気に変換する熱電変換素子です。熱電発電の原理は、熱電変換素子内の温度勾配が電圧に変換されるゼーベック効果に基づいているため、熱電変換素子内の温度勾配が消失してしまう、温水中や道路表層などの均一な熱輻射環境では機能しないという課題があり、これが熱電変換素子の普及の障害となっていました。
その問題を解決するために本研究グループは、2020年に世界で初めて、均一な熱輻射環境下でも熱電発電するメタマテリアル熱電変換を実験的に報告しました。熱電変換素子の一端のみに、熱輻射を効率良く吸収して発熱する人工材料(メタマテリアル吸収体)を形成すると、メタマテリアルは周囲環境の熱輻射をより大きな光吸収率と吸収断面積で吸収・濃縮してそれを熱電変換素子に与えるため、均一な熱輻射環境においても熱電発電を駆動することができます。
この機構では「メタマテリアル以外の吸収体でも同様に熱電変換が生じるのではないか」という疑問が従来からありました。今回、その疑問に答えるため、メタマテリアルよりも多くの熱エネルギー(熱輻射)を吸収するカーボンブラックを用いて均一な熱輻射環境における熱電発電特性の比較を行いました。

研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院先端電気電子部門の久保若奈教授、工学府電気電子工学専攻博士前期過程の中山涼介氏、工学府電気電子工学専攻博士前期過程の斎藤宗平氏、国立研究開発法人理化学研究所光量子工学研究センターフォトン操作機能研究チームの田中拓男チームリーダー(同開拓研究本部田中メタマテリアル研究室主任研究員)の共同研究チームで実施しました。この研究は熱・電気エネルギー技術財団研究助成 (2022-013, 2023-022)、科学研究費助成事業基盤研究(C)(20K05261)、科学研究費助成事業基盤研究(A)(18H03889)、および科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「メタマテリアル吸収体を用いた背景光フリー超高感度赤外分光デバイス(JPMJCR1904)」からの支援によって行われました。

研究成果
今回、上記の疑問に答えるために、メタマテリアル (構造厚さ 0.31 m)の比較として広帯域吸収体であるカーボンブラック膜 (構造厚さ 60 m)を熱電変換素子に適用し(図1)、それぞれの発電特性を評価しました。
その結果、メタマテリアルは、広帯域吸収特性を示すカーボンブラックよりも低い熱輻射吸収特性を示すにも関わらず(図2)、メタマテリアル熱電素子はカーボンブラック熱電素子よりも高い熱電特性を示しました(図3)。これは、メタマテリアルに吸収された熱輻射エネルギーが、メタマテリアルの薄い構造により効率的に熱電変換素子に伝搬したことを示唆しています。
すなわち、熱電変換システム全体で考えると、単に光吸収率の高低だけでなく、吸収で得られた熱を効率良く熱電素子に伝導させる能力も重要であり、そのためにはより薄い構造で高い光吸収効率を実現することが鍵となります。実際、メタマテリアルのように入射波長よりも1/10程度薄いにも関わらず高効率に光を吸収する材料は自然界には存在せず、極めて薄い構造と、高い熱輻射吸収特性という2つの要求を同時に満たすことができるのは人工材料であるメタマテリアルのみです。このように、今回の研究によって均一な熱輻射環境における熱電発電を高効率に駆動するためには、メタマテリアル特有の性質が不可欠であることが確認されました。

今後の展開
極めて薄い構造と高い熱輻射吸収特性を両立するメタマテリアルの特性は、熱電変換デバイスのみならず、他の光電子デバイスの高効率化においても活用できると期待できます。また今回得られた知見は、さらに高い発電特性を示すメタマテリアル熱電デバイスの設計指針につながると期待されます。メタマテリアル熱電変換は既存の熱電デバイスが発電できない均一な熱輻射環境における熱電発電を可能にするデバイスであることから、この成果は環境発電分野において直接的に活用でき、その効果は、将来的の脱炭素社会の実現に寄与すると期待しています。

謝辞
熱電変換素子を提供頂きました株式会社豊島製作所様に心より御礼申し上げます。


図1 メタマテリアル電極を装着した(A)メタマテリアル熱電素子と、カーボンブラック膜を塗布した電極を装着した(C)カーボンブラック熱電素子の模式図。(B)メタマテリアル表面と(D)カーボンブラック表面の電子顕微鏡図。


図2 メタマテリアル (構造厚さ: 0.31 m, 赤線)、カーボンブラック (構造厚さ: 60 m, 黒線)の吸収スペクトルと、熱エネルギーのスペクトルを示す黒体輻射スペクトル (100度) (青線)の比較。メタマテリアルはカーボンブラックよりも帯域・強度の点において低い熱輻射吸収特性を示すことから、メタマテリアルの熱エネルギー吸収はカーボンブラックのそれよりも低いことがわかる。
図3 メタマテリアル熱電素子(赤点)とカーボンブラック熱電素子(黒点)の発電特性と環境温度の関係。いずれの環境温度においてもメタマテリアル熱電素子は高い熱電出力を示した。

 ◆研究に関する問い合わせ◆
   東京農工大学大学院工学研究院
先端電気電子部門 教授
久保 若奈(くぼ わかな)

理化学研究所光量子工学研究センター
フォトン操作機能研究チーム チームリーダー
田中 拓男 (たなか たくお)

 ◆報道に関する問い合わせ◆
   東京農工大学総務部総務課広報室
理化学研究所広報室報道担当

プレスリリース(PDF:681KB)

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