五重項状態の室温量子コヒーレンスの観測に成功 ~超高感度な量子センシングへの重要な一歩~

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2024-01-04 九州大学,神戸大学,科学技術振興機構

ポイント
  • 有機分子を用いてより多くの電子からなる量子ビットを作ることは将来の量子技術に向けて重要であるが、4つの電子スピンを持つ五重項状態の量子コヒーレンスを室温で達成した例はなかった。
  • 分子性材料の五重項状態の量子コヒーレンスを室温で観測することに初めて成功し、金属錯体骨格(MOF)中で色素部位の運動性を抑制することがその実現の鍵であることを明らかにした。
  • 超高感度な量子センシングを実現する上で重要な基盤的知見が得られた。

⼀重項分裂は、光照射により⽣成された1分⼦の励起⼀重項状態が近傍の分子とエネルギーを共有し、2つの励起三重項状態を生成する現象です。この過程で生じる五重項状態と呼ばれる特殊な量子状態は、量子コンピューティングを始めとする量子技術の最小単位である量子ビットに利用できることから近年研究が進んでいます。しかし、量子ビットとして利用するにあたり必要とされる、五重項状態の量子コヒーレンスを室温で観測した例はありませんでした。

今回、九州大学 大学院工学研究院の山内 朗生 大学院生、田中 健太郎 大学院生(当時)、楊井 伸浩 准教授、同⼤学 ⼤学院理学研究院の宮⽥ 潔志 准教授、神⼾⼤学 分⼦フォトサイエンス研究センターの婦木 正明 特命助手、⼩堀 康博 教授らの研究グループは、九州⼤学 ⼤学院⼯学研究院の君塚 信夫 教授、同大学 ⼤学院理学研究院の恩⽥ 健 教授、神戸大学 人間発達環境学研究科の佐藤 春実 教授らと共同して、室温における五重項状態の量子コヒーレンス観測に初めて成功しました。

量子コヒーレンスの観測は量子センシングへの応用上非常に重要です。本研究ではMOF中に色素を高密度に集積化することにより、五重項状態を発生させ、かつ室温下でもその量子コヒーレンスを100ナノ秒以上維持できることを見いだしました。今回の成果により、複数の電子スピンから成る量子ビットを室温で生成するための要件が明らかとなり、今後のMOFの多孔性を生かした超高感度な量子センシングの実現が期待されます。

本研究成果は、2024年1月4日(木)(日本時間)にアメリカ科学振興協会の国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されます。

本研究の一部は、JST CREST(JPMJCR23I6、研究課題名:スピン超偏極分子材料の創出に基づく量子医療診断)、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR201Y、研究課題名:MRI・NMRの未来を担う「トリプレット超核偏極の材料化学」)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2136)、JST 科学技術イノベーション創出に向けた⼤学フェローシップ創設事業(JPMJFS2132)、日本学術振興会 科学研究費(JP20H02713、JP22K19051、JP20K21174、JP20KK0120、JP22K19008、JP20H05676、JP23KJ1694)、日本学術振興会 学術変革領域研究「動的エキシトンの学理構築と機能開拓」(JP20H05832)、住友財団、村田学術振興財団、光科学技術研究振興財団、九州大学 エネルギー研究教育機構(Q-PIT)のモジュール研究プログラムからの支援により行われました。

<プレスリリース資料>
  • 本文 PDF(1.17MB)
<論文タイトル>
“Room-temperature quantum coherence of entangled multiexcitons in a metal-organic framework”
DOI:10.1126/sciadv.adi3147
<お問い合わせ先>

<研究に関すること>
楊井 伸浩(ヤナイ ノブヒロ)
九州大学 大学院工学研究院 応用化学部門 准教授

<JST事業に関すること>
安藤 裕輔(アンドウ ユウスケ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>
九州大学 広報課
神戸大学 総務部 広報課
科学技術振興機構 広報課

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