結晶の”ズレ”が音速を超えて伝播することを実証~半世紀にわたる未解決問題を超高速X線イメージングで明らかに~

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2023-10-06 大阪大学

研究成果のポイント
  • ハイパワーレーザー(High power laser)駆動の衝撃波により、ダイヤモンド結晶中の“原子レベルのズレ”(転位(dislocation))が高速に伝播する様子を、X線自由電子レーザー(X-ray free electron laser)を用いてイメージング観察しました。
  • 転位の伝播速度が音速(Speed of sound)を超えうるかについて、半世紀以上にわたり議論が行われてきました。今回の結果は、転位が音速よりも速く伝播できることを実験的に示した世界初の結果です。
  • 本研究結果は、材料の変形や地震による破壊現象などの正確なモデリングに欠かせない知見となります。
概要

大阪大学大学院工学研究科の大学院生片桐健登(現スタンフォード大学研究員)と尾崎典雅准教授を中心に、スタンフォード大学(アメリカ)、エコール・ポリテクニーク(フランス)、理化学研究所、高輝度光科学研究センター、ローレンス・リバモア国立研究所(アメリカ)、名古屋大学、量子科学技術研究開発機構、英国原子力公社(イギリス)の研究者らの国際研究グループは、結晶中の転位が物質固有の音速よりも速く伝播しうることを、理化学研究所のX線自由電子レーザー施設「SACLA」においてX線ラジオグラフィ(X-ray radiography)により実証しました。

あらゆる結晶の中には転位と呼ばれる欠陥、“結晶構造のズレ”が無数に存在します。結晶に外力を加えると、特に金属で見られるように、破壊することなく変形(塑性変形(Plastic deformation))が生じます。結晶構造を保ったまま変形するこの機構には、原子レベルのズレである転位の伝播が重要な役割を果たします。したがって、転位が結晶中をどのように伝播するかを明らかにすることは、物質材料の変形を正しく理解し制御する上で欠かせません。しかしながら“転位の伝播速度が、物質中を振動が伝わる速度、すなわち音速を超えるのか”という極めてシンプルな疑問は未解決のままでした。

本研究グループは、単結晶ダイヤモンド中で結晶のズレが繋がって広がった積層欠陥(Stacking fault)の伸展を超高速観察し(図1)、その端の転位がダイヤモンド中の横波の音速より速く伝播していくことを明らかにしました。転位の伝播の最高速度は横波の音速を超えないという従来の常識を覆す研究結果です。

本研究成果は令和5年10月5日14時(米国東部標準時)に、米国科学振興協会(AAAS)刊行の学術誌Scienceでの掲載に先立ちオンライン公開されました。

結晶の”ズレ”が音速を超えて伝播することを実証~半世紀にわたる未解決問題を超高速X線イメージングで明らかに~

図1. 実験セットアップ(左)とX線ラジオグラフ画像(右)。転位の伝播により、結晶のズレが繋がって形成された積層欠陥が伸展する様子が可視化されている。

研究の背景

結晶中の転位の伝播速度が、その物質固有の音速を超えるか否かに関する問いについて、これまで数多くの理論・計算による研究が行われてきました。発表された論文の多くは、“結晶中の転位の伝播速度は横波の音速を超えない”と主張しており、転位論の教科書でもしばしば同様の説明が見受けられます。しかしながら最近の理論および計算機による一部の研究は、転位が音速を超えて伝播する可能性を示唆しており、実験による検証が期待されていました。

研究の内容

本研究グループは、ハイパワーレーザーを用いて単結晶ダイヤモンドを高速変形させ、生成した積層欠陥の伸展をX線ラジオグラフィにより直接可視化しました。通常は割れやすい(脆性(Brittleness))材料として分類されるダイヤモンドですが、衝撃波による高速変形中のごく短い時間内では塑性変形をしています。塑性変形の領域で積層欠陥の端が伸展する速度は、転位の伝播する速度ということになります。本研究では積層欠陥の高速な伸展を直接観察することで、単結晶ダイヤモンド中の転位が横波の音速よりも速く伝播していることを実証できました。高速で伝播する転位から連続的に新たな波が発生する様子も観察されるなど、複雑な固体の振る舞いについてさらに新しい知見が得られる可能性があり、本研究を実施した実験プラットフォームに期待が寄せられています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、高速な変形を受けた結晶の変形ダイナミクスを高精度にモデリングする上で重要です。これにより、材料の基礎的な変形メカニズムに関する理解の深化をはじめ、大地震がもたらす破壊の予測や、宇宙空間などの極限環境下で用いられる防護壁の高性能化などへの応用が期待されます。

特記事項

本研究成果は令和5年10月5日14時(米国東部標準時)に、米国科学振興協会(AAAS)刊行の学術誌Scienceでの掲載に先立ちオンライン公開されました。

題名:「Transonic Dislocation Propagation in Diamond」
邦訳:「ダイヤモンドにおける転位の遷音速伝播」
著者:Kento Katagiri, Tatiana Pikuz, Lichao Fang, Bruno Albertazzi, Shunsuke Egashira, Yuichi Inubushi, Genki Kamimura, Ryosuke Kodama, Michel Koenig, Bernard Kozioziemski, Gooru Masaoka, Kohei Miyanishi, Hirotaka Nakamura, Masato Ota, Gabriel Rigon, Youichi Sakawa, Takayoshi Sano, Frank Schoofs, Zoe J. Smith, Keiichi Sueda, Tadashi Togashi, Tommaso Vinci, Yifan Wang, Makina Yabashi, Toshinori Yabuuchi, Leora E. Dresselhaus-Marais, and Norimasa Ozaki

本実験はX線自由電子レーザー施設「SACLA」のBL3にて行われました(課題番号2021A8004, 2021B8067)。本研究は文部科学省の光・量子飛躍フラッグシッププログラムQ-LEAP (JPMXS0118067246)、日本学術振興会の科学研究費助成事業(21K03499, 21J10604, 20H00139)と研究拠点形成事業 B.アジア・アフリカ学術基盤形成型事業(JPJSCCB20190003)、株式会社コンポン研究所、そして山田科学振興財団の支援を受けて行われました。本研究を実施した実験プラットフォームに展開されているレーザーシステムは、大阪大学レーザー科学研究所、浜松ホトニクス株式会社および理化学研究所により共同で開発整備されてきたものです。


ハイパワーレーザー (High power laser)
光のエネルギーを非常に短い時間に集中させることで、極めて高い強度を実現するレーザーの総称です。今回用いたSACLAのハイパワーレーザーは、パルス幅がナノ秒(10億分の1秒)のパルスレーザーです。

転位(dislocation)
結晶の内部に存在する線状の格子欠陥のことであり、結晶を構成する原子の規則的な配置における、原子レベルの位置ずれが線状に繋がったものです。塑性変形はこの転位が移動することで生じます。

X線自由電子レーザー (X-ray free electron laser)
光速に近い速度の電子ビームを磁場と相互作用させ、極めて高い周期で蛇行伝播させると、波長が短いX線領域の干渉性の高い光、すなわちX線レーザーを発生させることができます。日本のX線自由電子レーザー施設「SACLA」は世界有数の実験施設です。

音速 (Speed of sound)
音波が物質中を伝わる速度のこと。固体では一般に、波の進行方向と媒質の運動(疎密)が平行な縦波音速と、垂直な横波音速が存在します。また一般には物質にそれぞれ固有の音速があることが知られており、重要な物性値とされています。

X線ラジオグラフィ (X-ray radiography)
試料にX線を透過させてその内部の様子を調べるためのイメージング観察手法です。フェムト秒(1000兆分の1秒)パルスのX線自由電子レーザーを光源として用いることで、高速の転位の伝播を時間分解計測することができます。

塑性変形 (Plastic deformation)
物質に弾性限界を超える外力を加えた際に起こる永続的な変形です。物質中の転位が移動することで発生します。図1の塑性波はこの変形の波頭になります。

積層欠陥 (Stacking fault)
面状の拡がりを持つ格子欠陥の一種です。三次元の結晶は、二次元方向の広がりを持つ原子面が周期的に積み重なることで構成されており、その重なりの周期性の乱れが積層欠陥です。

脆性 (Brittleness)
物体が外力を受けた際に示す破壊しやすい性質のこと。例えばコンクリートやガラスなどの材料は大きく変形をする前に破壊してしまうので、脆性材料と呼ばれます。

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