潮の満ち引きを利用した地下ダム機能監視手法の開発~沿岸域の貴重な地下水資源を塩水化から守るために~

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2023-01-12 農研機構

ポイント

農研機構は、沿岸域の地下水資源を塩水化から守るための「地下ダム」の機能を、潮の満ち引きの影響を受ける地下水位観測データを用いて監視できる手法を開発しました。本成果は、地下ダムの止水機能の連続的な監視を可能にし、貴重な農業用水源である沿岸域の地下水を塩水化から守るのに役立ちます。

概要

沖縄・奄美などの南西諸島では、地下に地下水の流れを遮る壁(地下止水壁)を造って地下水資源を貯める「地下ダム1)」が建設され、貴重な農業用水源として利用されています。沿岸域の海に接する地層中に造られた地下ダムの止水壁は、海水が内陸の地層に浸入するのを防ぐことで淡水の地下水資源を塩水化から守っています。

従来このような地下ダムの止水機能の点検方法として、地下水の塩分の目安となる電気伝導率2)(電気の通りやすさ)を測定する機器を現地に携行し、多数地点で測定して塩水の分布範囲を確認する方法がありました。この方法では測定時点の塩水分布状況は分かりますが、連続的な機能監視に利用することは困難でした。

今回農研機構は、沿岸域の地下水資源を塩水化から守る地下ダムの止水機能の連続的な監視に利用できる手法を開発しました。この手法では、止水壁を挟んで海側と内陸側の地下水位の時間変化データに含まれる潮の満ち引きの影響による周期的振動を分析します。二地点の振動の大きさの関係を分析した結果に異常がなければ、地下ダムの止水機能が正常に保たれていると考えられます。市販の地下水位観測機器を設置して得られる連続データを用いることで、地下ダムの止水機能の連続的な監視が可能です。これにより、仮に大地震などで止水機能の低下が発生した場合の速やかな発見と対策の必要性の判断を助け、地下ダムに貯えられた地下水の塩水化が最小限に抑えられることが期待されます。今後は開発手法について解説する説明会などを通じて、地下ダムの管理に関わる方々への普及に努める予定です。

関連情報

予算等 : 生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業」(JPJ007097)
特許 : 特許6368014号

また、本研究課題は、農林水産省が推進する産学連携研究の仕組みの「知」の集積と活用の場産学官連携協議会において組織された研究開発プラットフォームのうち「地下水資源利用・管理技術研究開発プラットフォーム」からイノベーション創出強化研究推進事業に応募された課題です。

「知」の集積と活用の場について
URL: https://www.knowledge.maff.go.jp

問い合わせ先など

研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好

研究担当者 :
同 水利工学研究領域 上級研究員白旗 克志

広報担当者 :
同 研究推進部 渉外チーム長猪井 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

沖縄・奄美などの南西諸島には、雨水がすぐに浸透する地層が広く分布していて河川ができず、水資源を地下水に頼る地域があります。そのうち、地質構造などの条件が適した地域では、地下水がある地層の中にその流れを遮るコンクリート製などの壁(地下止水壁)を造って地下水資源を貯める「地下ダム」が建設されています。南西諸島には貯水量数十万トンから数百万トンの大規模な地下ダムが10基あり、貴重な農業用水源として利用されています。

沿岸域の海に接する地層中に造られた地下ダムの止水壁は、海側の地下から海水が内陸に浸入するのを防ぐことで淡水である地下水資源を塩水化から守っています。大地震などで地下ダムの止水壁に亀裂や穴が出来るとその機能が損なわれ、海水が止水壁の内陸側に浸入して地下水資源が塩水化する可能性があります(図1)。

地下ダムの止水壁は、地下に埋設してあるため直接見たり触れたりして状態を知ることができません。従来このような地下ダムの止水機能の点検方法として、地下水の塩分濃度の目安となる電気伝導率を測定する機器を携行し、現場に設けられた地下水調査用の直径数cmの縦穴(地下水観測孔)に長いケーブル付きセンサーを挿入して深さごとに地下水の電気伝導率を測定することが行われています(図2)。この測定を多数地点で行うことでその時点の地下水の塩水化の有無や範囲が分かりますが、作業者が現地に赴いて行うこの調査は労力的に年数回が限度で、連続的な監視に利用することは困難でした。

研究の経緯

農研機構では、これまで、潮の満ち引きを利用して地層の水の通りやすさを推定する技術を開発していました(発表論文等1)。これは沿岸域の地下水資源の利用可能量の検討に役立つ技術です。この技術は、地下水を含む地層が水を通しやすい性質であるほど、地下水位の周期的振動が地層中を伝わるときに減衰しにくいことを利用していました。それを地下ダムの止水壁に応用する着想が、新たな手法開発の契機となりました。

止水壁を挟んで地下水位の周期的振動が伝わるときに大きく減衰することは、止水壁が水を通しにくい性質であることの表れであり、「地下水の流れを遮る」という機能が保たれていることの証拠になります(発表論文等2)。なお地下の壁を挟んで設置した観測機器で得られたデータを用いて水の流れに関わる壁の性質を推定することは、農研機構が特許を取得しています(発表論文等3)。

開発した技術の内容・意義

1.地下止水壁を挟む海側と内陸側の地下水観測孔に地下水位を自動で連続観測し記録する機器(自記水位計)を設置して得られるデータを利用します(図3)。両地点の水位観測データについて、フーリエ解析3)と呼ばれる方法を応用して、潮の満ち引きの影響による特定周期の振動の大きさを分析します。

2.止水機能が正常に保たれていることが分かっている地下ダム止水壁の結果と比較して、内陸側の地下水位の潮の満ち引きによる振動の幅が明らかに大きい(図4)などの結果が得られれば、止水機能が損なわれている可能性があると判断します。その場合は、さらに詳細な調査や補修対策の必要性を検討することが推奨されます。

3.開発した手法は、これまで難しかった、地下水を塩水化から守る地下ダムの機能の連続的な監視を可能にするものです。大地震など不測の事態が起きた後の地下ダムの機能の点検にも使えます。

今後の予定・期待

1.今回開発した手法は、①塩水浸入阻止型と②貯留型のうち主に①の地下ダムの機能監視に用いられるものですが、②の地下ダムであっても、止水壁の海側の地層が海に接し、地下水位が潮の満ち引きの影響で振動していれば本手法が適用できる可能性があります。

2.既に水源として利用されている地下ダムだけでなく、建設中の地下ダムの機能の確認に用いることも考えられます。地下ダム建設開始前から自記水位計による観測を始めれば、建設中の地下ダムの止水機能が発現していく状況をリアルタイムにモニタリングできる可能性があります。

3.今後は開発手法を説明した技術資料の公表、地下ダムの管理に関わる方々への説明会の開催を計画しています。

用語の解説
1)地下ダム
地下水の利用を増進させることを目的として地下に建設される、水を通しにくい物質でできた堤体または壁(地下止水壁)。それによって作られる地層中の貯水域や地下水を利用・管理するための施設を含めて指すこともある。主な目的によって①塩水浸入阻止型と②貯留型の二つのタイプに分けられる。①は海側の地下からの海水の浸入による地下水塩水化を防ぐことを目的とし、②は地上のダムが河川水を堰き止めるのと同じように地下水を堰き止め水位を高くして貯めることを目的とする。
2)電気伝導率
物質の電気の通りやすさを表す数値。値が大きいほど塩分濃度が高く電気を通しやすい。
3)フーリエ解析
数学においてフーリエ級数、フーリエ変換などの方法・原理に基づいて関数の性質を分析する方法。時間変化データの分析への応用ではデータを色々な周期の正弦振動成分に分解、あるいは一定周期の振動成分を抽出することにも用いられる。
発表論文等

1.白旗ら(2017):沿岸域地下水位データの分析による帯水層水理定数の推定手法、地盤工学会誌、65、24-25.

2.Shirahata et al.(2022):A method for evaluating coastal underground barrier wall using groundwater tidal response、Groundwater、60、774-783.

3.国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(2018):地下埋設壁材の評価方法,特許第6368014号(2018年7月13日登録).

参考図


図1 地下水の塩水化を防ぐ地下ダムにおける潮の満ち引きを利用した機能監視の概念図


図2 地下ダム地区における地下水電気伝導率の測定作業(従来の機能点検)
いずれの写真でも、先端に電気伝導率センサーが付いたケーブルを地下水観測孔内に挿入して地下水中の固定深度に置き、ケーブルの地上側に接続したパソコン画面に表示される電気伝導率の値が安定するのを待って記録した後、センサーを次の深度に降下させることを繰り返し、多数深度の地下水電気伝導率を測定している。左は2名、右は1名での作業。


図3 開発手法を用いるための地下水位観測機器と観測配置の例


図4 現地実証調査で得られた観測と分析の結果の例と観測地点の位置関係
地点A、B、Cにはそれぞれ止水壁の海側と内陸側の地下水観測孔のペアがあり、グラフは海側の水位振動の振幅に対する内陸側の水位振動の振幅の比。各地点のグラフでプロットが三つあるのは分析した水位観測データの期間が異なるもので、水位データに含まれるノイズが原因でばらつきがある。

※地点Cでは地下ダム下流の海岸にある自然の湧水を維持・保全するために止水壁に人工的に穴があけられています。穴は内陸側の地下水の塩水化が起きないような位置に作られています。

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