農業用水路の摩耗量測定システムをアップグレード~操作性一新、扱いやすく~

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2021-08-24 農研機構

ポイント

農研機構は、農業用水路表面の摩耗量を高精度に測定する装置を2013年に開発しています。今回、測定装置をコンパクトにして現場作業を効率化するとともに、摩耗量を計算するまでの手間を大幅に省略する解析用プログラムを作成しました。これらによって、摩耗量調査の作業を一新することに成功しました。本技術によって、摩耗をより手軽にモニタリングすることが可能となり、より多くの水路での合理的維持管理の導入が進むと期待されます。

概要

老朽化した農業用水路は長寿命化のための補修がなされ、補修後の農業用水路の経年的な変化を定量的に評価する目的で摩耗1)量調査が行われます。農研機構は、摩耗量調査のための手法と高精度な摩耗測定装置2)を開発してきました。摩耗量は、ステンレスなどの固定標点を設置し、同じ標点から材料表面までの距離を経年的に測定することで調べます。しかしながら、測定装置は農研機構で研究用に開発したものであり、機器の構成が複雑で専門家でなければ扱いにくいものでした。今回、装置の構成機器を見直してコンパクトにし、装置全体の重量を7kg(従来の約半分)に軽量化しました。さらに、測定や解析を行うプログラムには、測定後の解析を自動で行う機能や、測定ミスを抑制する機能を設けました。

本技術の普及によって、国、都道府県、土地改良区の職員、また、委託を受けて調査を実施するコンサルタント会社の職員が、高精度、かつ容易に摩耗量をモニタリングすることができます。また、多くの水路における摩耗量データが蓄積されることにより、摩耗しにくい新たな補修材料や高度な劣化予測技術の開発が可能になり、農業用水路のさらなる長寿命化につながることが期待されます。なお、本装置は要請に応じ行政に提供できます。

関連情報

予算 : 運営費交付金

問い合わせ先

研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 所長藤原 信好

研究担当者 :
同 施設工学研究領域川邉 翔平

広報担当者 :
同 渉外チーム長猪いの井い 喜代隆

詳細情報

開発の社会的背景

国の農業用水路網は約40万km、地球10周分に相当します。これらの水路は長年にわたって営農に欠かせない用水を農地に送り続けてきましたが、近年、老朽化が大きな問題になっています。老朽化によって水路の性能が低下すると、必要な水を適切に送れなくなる、溢水して周辺被害を引き起こす、などのおそれがあります。

老朽化して摩耗した水路では、健全性を維持し、かつ農業用水を適切に送るために、摩耗の程度がひどくなる前に水路の表面を補修する必要があります。現在は、もとの水路と似た材料(モルタル)を水路内面に被覆する方法(無機系被覆工法3))が主要な補修工法です。しかしながら、無機系被覆工法は比較的新しい工法であるため、補修された後の水路でどのように摩耗が進行するかは未知の問題でした。

そこで、農研機構では2013年に、無機系被覆工法で補修された水路の摩耗を定量的かつ高精度に測定できる装置を開発し、実際の水路でモニタリングを継続することでデータ収集を行ってきました。

開発の経緯

2013年に開発した摩耗測定装置は農研機構で研究用に開発した機器であり、①装置の構成機器が多く複雑である、②専門家でないと操作やデータ処理が難しい、という問題がありました。今回、これらの問題を解決した測定装置と、測定結果の解析を誰でも簡単に行えるように、解析用プログラムを作成しました。

技術の内容・意義

経年的に材料表面がすり減る摩耗の程度をモニタリングするためには、基準となる標点が必要です(図1)。標点頂部を結んだ基準線から材料表面までの距離を測定し、経年の変化を比較することで摩耗量を求めます。
改良システムには以下の特徴があります(図2)。

1.適用範囲
水路のように摩耗を受ける構造物のすり減り量の測定に適用できます。測定できる摩耗量の最大値は40mmで、測定精度は±0.1mmです。測定の原理や精度は2013年に開発した装置と同様です。主な対象施設は、無機系被覆工法で補修された水路や、重要な幹線水路が想定されます。また、1~2年毎の比較的短期間で精緻なモニタリングを必要とする場合には本装置と同程度の測定精度が必要です。現在の測定範囲や精度は農業用水路の無機系被覆工法を対象に設定していますが、装置に接続するレーザー変位計を変更することで測定できる摩耗量の最大値や精度を変えることができるので、無機系被覆工法以外の摩耗量測定にも利用できます。

2.測定装置構成のコンパクト化
バッテリーや制御・記録プログラムなど、機器の構成を見直して、全体の重量を約7kg(PC除く)にしました。これは、従来の約半分の重量です。また、小構成化によって、1つのケースに入れて持ち運ぶことが可能になりました。

3.解析作業の自動化
データの読込み、標点位置の自動検出、計算、結果表示までをワンクリックで実行できます。標点を自動検出することで、測定者の技量に依存せずに同じ結果が得られ、作業の効率化と信頼性の高いデータが得られるようになりました。

4.現場作業の効率化
測定データは、連番付きのファイルでPCに自動保存されます。また、測定ミスがあれば、解析時に自動で検査し、エラーメッセージを表示する機能を追加しました。
これらにより、現場での作業時間を短縮しつつ測定ミスを防ぐことができます。現場では限られた時間で作業しなければなりません。測定作業にかかる時間短縮によって従来に比べて多点の測定が可能となり、より精緻なモニタリングが可能です。また、現場でデータを即座に確認することもできるので、再度現場に戻って測定するなどの手戻りを大幅に減少させることもできます。

5.使用者が準備する機器
測定装置の他に必要なものはPCのみです。測定データの分析にはMicrosoft Excelのマクロとアドインを使います。特別なソフトウェアは必要なく、導入が容易です。

今後の予定・期待

今回行った操作性の大幅な改良により、専門家ではないユーザーでも簡単に水路の摩耗量を測定できます。また、開発した解析用プログラムは測定装置と独立に利用することもできます。つまり、現地で取得したデータを事務所に戻ってから解析することや、自社開発した表面形状測定装置によるデータを摩耗量測定に活用することもできます。

本装置は、要請に応じ行政に提供できます。また、解析プログラムを使用する場合は、実施許諾が必要です。農研機構Webよりお申し込みください。

自分たちが管理する水路が摩耗しやすいのかを知ることは、どのような補修を行うことが効果的かを検討する一助となります。正確な摩耗データが得られれば、摩耗進行が遅い水路に対しては対策時期を先送りし、摩耗進行が早い水路では早期に対策するなど、水路の状況に応じた適切な維持管理ができます。これによって、膨大なストック量の水路を計画的に管理でき、点検や補修などを含めた維持管理コストの低減が可能となります。

また、多くの水路の摩耗データを収集・分析することで、長寿命な新材料や新工法の開発、高度な摩耗予測技術の開発も促進されます。今後も全国規模での摩耗データの収集を進め、水路の維持管理技術の開発に努めて、安定した営農環境の維持に貢献します。

用語の解説
1)摩耗
農業用水路の主要な劣化の一つ。農業用の鉄筋コンクリート製開水路では、流水や一緒に流れる砂などによって、構成材料(コンクリートや補修材)の表面が削られます。表面は摩耗によって、完成時(計画、設計時)とは性質(通水性能や耐久性)が変わってしまいます。
2)高精度(な)摩耗測定装置
農研機構が開発した無機系被覆工法で補修された水路の高精度な摩耗測定装置。レーザー変位計によって±0.1mmの精度で測定でき、1測点当たりの測定にかかる時間は約3分。今回の改良版も測定原理と性能は同様。短時間で多点の測定が可能で、施設管理者などの精緻な監視業務を助けます。
3)無機系被覆工法
構造物の表面を覆って保護する工法を表面被覆工法といいます。表面被覆工法のうち、モルタルなどセメントを主体とした材料を用いる工法を無機系被覆工法といいます。

※ Microsoft Excelは、米国Microsoft Corporationの米国およびその他の国における登録商標または商標です。

発表論文

摩耗量の測定値に基づく無機系表面被覆工の摩耗進行予測手法(2016農研機構成果情報)

参考図

図1 摩耗モニタリングの概要
約10cm間隔で2本設置したステンレス製のアンカーピンを標点として、その頂点を結んだ基準線(赤線)から水路表面までの距離(緑矢印)の平均値を測定します。摩耗が進行すると水路表面までの距離(緑矢印)が大きくなります。数年ごとの平均値の差が摩耗量です。


図2 従来システムと改良システムの比較

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