世界最細、直径15マイクロメートルの超極細MgB2超電導線を開発~液体水素の冷熱を利用した超電導応用機器の実用化で温室効果ガスの排出量削減に貢献~

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2022-11-29 新エネルギー・産業技術総合開発機構,物質・材料研究機構 (NIMS),明興双葉株式会社

NEDOが実施する「エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」において、今般、NIMSと明興双葉(株)は、世界最細となる超電導線全体の直径が15マイクロメートルの超極細MgB2(二ホウ化マグネシウム)超電導線の開発に成功しました。導線を構成する超電導フィラメントについては、直径が5.5マイクロメートルと超極細です。化合物超電導線は一般的に脆(もろ)く壊れやすいものですが、今回開発した超極細MgB2超電導線は、銅線のようなフレキシブルなハンドリングが可能で、コイルなどに巻くための耐曲げひずみ性の改善と、変動磁場による交流損失の大幅な低減に向け、大きく前進しました。

今後、本技術の採用により、小型で大出力を可能にする超電導モーターなどの研究開発が加速されれば、液体水素を搭載した電動航空機や超電導発電機など超電導応用機器の実用化にも一歩近づくこととなり、将来的には移動体分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献します。

なお、今回の成果についてNIMSは、11月30日(水)の国際会議「The 35th International Symposium on Superconductivity (ISS2022)」の招待講演で発表します。

図1 650℃の反応熱処理後に作った結び目の電子顕微鏡の写真

図1 650℃の反応熱処理後に作った結び目の電子顕微鏡写真

1.概要

2050年カーボンニュートラル実現のため、現在、水素社会の構築が進められています。中でも、水素ガスを-253℃の極低温で液化させた液体水素は、水素を効率的に貯蔵・運搬できる水素キャリアです。一方、水素は常温のガスに戻して使用する際、大気に放出される-253℃の冷熱が無駄になっているため、この水素冷熱を有効活用できる技術開発が、エネルギー効率や経済性を高めるために極めて重要です。

こうした技術開発の一つに超電導関連技術があります。液体水素を搭載した「電動航空機」や「超電導発電機」では、小型で大出力を可能にする超電導モーターなどの開発が不可欠であるため、超電導モーターなどの冷却用冷媒として、液体水素冷熱の利用が期待されます。超電導モーターの実現の鍵となる超電導線には、液体水素温度で超電導を示す「酸化物高温超電導体」あるいは「MgB2(二ホウ化マグネシウム)超電導体※1」が候補と考えられていますが、(1)コイルなどに巻くための耐曲げひずみ性(可とう性・フレキシブル性)の改善と、(2)変動磁場による交流損失の大幅な低減の二つの課題の克服が極めて重要なポイントとなり、現状は両方とも解決されていません。

そこで、これらの課題克服に向け、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の2022年度の「エネルギー・環境新技術先導研究プログラム※2」(以下、本事業)で、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、明興双葉株式会社は、水素社会構築に向けた水素冷熱を利用した超電導関連技術の開発に取り組んでいます。

今般、NEDOとNIMS、明興双葉(株)は、世界最細となる直径15マイクロメートルの超極細MgB2超電導線の開発に成功し、前述の二つの課題の克服に向けて大きく前進しました。なお、今回の成果は、11月30日(水)、愛知県名古屋市で開催される国際会議「The 35th International Symposium on Superconductivity(ISS2022)※3」において、NIMSの菊池章弘グループリーダーより招待講演として発表します。

2.今回の成果

従来、MgB2超電導線は粉末を金属管に充填(じゅうてん)する方法で製造されていましたが、本技術ではこれに加えて、ワイヤーハーネス※4やボンディングワイヤー※5などに用いられる超極細金属線のための最先端の伸線加工技術を合わせて適用しました。これにより、断面デザインの最適な設計と伸線加工パラメーターの制御が可能となり、これまで報告されていたMgB2超電導線の直径50マイクロメートルの記録※6を大きく更新し、直径15マイクロメートルの超極細化に成功しました。

絹糸の直径(約20マイクロメートル)を下回るほどの超極細線は、MgB2超電導線としてのみならず、粉末と金属管で構成される異種材料の複合線としても前例がありません。これによりMgB2超電導線の可とう性が格段に向上して、銅線のようなフレキシブルなハンドリングが可能となりました。さらに超電導線を構成するMgB2超電導フィラメントの直径は約5.5マイクロメートルとさらに超極細で、交流損失のひとつであるヒステリシス損失※7も大きく低減されます。

今回は、導線の外皮の材質として銅(Cu)とニッケル(Ni)の合金であるモネルを使用しました。また、熱処理時に外皮のモネルと中央のMgB2超電導体が反応しないよう、間にニオブ(Nb)の拡散障壁を設けました(図2左)。伸線加工直後は、中央の黒い部分はマグネシウム(Mg)とボロン(B)の混合粉末が充填されている状態ですが、650℃程度の温度で熱処理を行うことでMgとBが反応してMgB2超電導体となります。超電導転移曲線からも、臨界温度が約34ケルビン(K)でゼロ抵抗を示し、超電導状態であることが分かります(図2右)。

化合物超電導線は一般的に脆く壊れやすいものですが、今回開発した超極細MgB2超電導線は、直径で約300マイクロメートル程度の結び目を作れるほどのフレキシブル性を持っており、大きな特性劣化もありません(図1)。

図2 直径15マイクロメートルの超極細MgB<sub>2</sub>超電導線の断面と超電導転移曲線の図

図2 直径15マイクロメートルの超極細MgB2超電導線の断面と超電導転移曲線

3.今後の予定

今後、本事業では、さらなる極細化を追求するとともに、キロメートル級の長尺化や一層の特性改善などにも取り組み、さらに多数本の超極細MgB2超電導線を束ねて集合化したフレキシブルな大電流容量ケーブルの開発を進めます。これにより、超電導モーターなどの開発を加速させ、液体水素を搭載した電動航空機や超電導発電機など超電導応用機器の実用化を実現し、移動体分野における温室効果ガスの排出量削減に貢献します。

【注釈】
※1 MgB2(二ホウ化マグネシウム)超電導体
J. Nagamatsu, N. Nakagawa, T. Muranaka, Y. Zenitani, J. Akimitsu, “Superconductivity at 39 K in magnesium diboride”, Nature 410 (2021) 63-64.
※2 エネルギー・環境新技術先導研究プログラム
※3 The 35th International Symposium on Superconductivity (ISS2022)
※4 ワイヤーハーネス
電源供給や信号通信に用いられる複数の細い電線の束と、端子やコネクタで構成された集合部品です。自動車の車内配線など、高性能かつ多機能な機械装置の内部に数多く張り巡らされています。
※5 ボンディングワイヤー
半導体の集積回路などの電極とプリント基板やパッケージの電極を接続する極細の金属線で、導電性に優れる金、銀、銅、アルミニウムなどが用いられます。
※6 MgB2超電導線の直径50マイクロメートルの記録
S.I. Schlachter, A. Frank, B. Ringsdorf, H. Orschulko, B. Obst, B. Liu, W. Goldacker, “Suitability of sheath materials for MgB2 powder-in-tube superconductors”, Physica C 445-448 (2006) 777-783.
A. Kikuchi, Y. Iijima, M. Yamamoto, M. Kawano, M. Otsubo, “Ultra-Fine Superconducting Composite Wires and Cables”, Presented at Applied Superconductivity Conference 2022 (Hawaii Convention Center, Oct. 23-28, 2022) Presentation ID: 1MPo2D-06.
※7 ヒステリシス損失
外部磁界が変化する際の、磁束のピン止めに基づいた超電導体の磁化変化に伴うエネルギー損失です。
4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:赤城、木下、萬木(ゆるぎ)
NIMS 機能性材料研究拠点 低温超伝導線材グループ 担当:菊池
明興双葉(株) 技術部

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:根本、坂本、橋本、鈴木

0400電気電子一般
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