超越コーティング:防汚・抗菌効果を示す高機能保護膜

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2022-05-13 東京大学,総合科学研究機構 中性子科学センター(CROSS)

  • 紙に耐水性と適度な強度を与える、環境負荷の少ない「超越コーティング」において、酸化チタンナノ粒子が自発的に作られ、温和で持続的な光触媒効果を示すことを発見した。
  • コーティング皮膜は基材表面に強く固定されており、さらに光触媒効果による優れた汚れ防止効果・抗菌作用によって基材は長期間に渡って保護されることを確認した。
  • 超越コーティングは紙をプラスチックの代用品とするだけでなく、ガラス、セラミック、プラスチックなどの素材に適用することにより優れた高機能保護膜として働き、材料の可能性を大きく広げることが期待される。
発表概要:

株式会社超越化研代表取締役の岩宮陽子、総合科学研究機構中性子科学センター研究開発部副主任技師の阿久津和宏、同センター研究開発部研究員の有馬寛、同センター長の柴山充弘、東京大学物性研究所技術専門職員の浜根大輔、同教授の廣井善二は、紙に高い耐水性と適度な強度を付与する、環境負荷の少ないシリカコーティング「超越コーティング」内に光触媒効果を示す酸化チタンナノ粒子が自発的に作られること、光触媒効果により優れた汚れ防止効果・抗菌作用を発揮することを発見した。また本コーティングと光触媒効果の結果として、基材を長期間にわたって保護できる高機能保護膜が得られることがわかった。

「超越コーティング」は同研究グループにより開発されたコーティング技術([1] Ind. Eng. Chem. Res. 60, 355 (2021).)であり、コーティングを施した紙素材や紙製品はプラスチック製品の代用品として期待されている[2, 3]。

今回、超越コーティング層が無数の空隙を含むポーラス(注1)な構造を有し(図1)、その皮膜内部に2ナノメートル程度のアナターゼ型酸化チタン(注2)TiO2の微粒子が分散して存在することがわかった。この酸化チタンナノ粒子は、コーティング液剤に反応促進剤として微量添加した有機チタン化合物から生成したものであり、比較的温和な光触媒効果を示す。コーティングされたガラス試料を光の当たる場所に置くと有機物が分解され、表面に付着した黄色ブドウ球菌が死滅することを確認した。結果として、コーティング材料は長期間に渡って環境から守られ、安定に材料機能を果たすことができる。

本コーティングは紙だけでなく、ガラス、セラミック、プラスチックなどの素材にも有効であり、優れた高機能保護膜を形成する。例えば、コーティングされたガラスやプラスチックでは長期間に渡ってカビの発生が抑えられ、屋外におかれたセラミックタイルは汚れや菌類に覆われることも少なくなる。超越コーティングは環境に負荷を与えない、優れた高機能コーティング技術として、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たすと期待される。

本成果は、米国化学会出版のIndustrial & Engineering Chemistry Research誌の5月13日出版号に掲載された。

詳しい資料は≫

図1 超越コーティングにより基材表面に形成されるシリカ層の模式図。シリカ層は厚さ数ミクロンのポーラスな構造をもち、無数のアナターゼ型酸化チタンナノ粒子を含む。光触媒効果により酸化チタンナノ粒子から発生した活性酸素(オレンジ球)が付着した有機物や菌類を分解して、長期間に渡って安定に基材を汚染から保護する。

発表内容:
【研究の背景】

近年、多量のプラスチック製品使用に伴うゴミの増加による環境破壊が急速に進んでおり、大きな社会問題となっている。プラスチックは安価であり、化学的に安定で優れた機械的特性を有するが、その結果として自然に分解されにくい。特に海洋に半永久的に蓄積されるマイクロプラスチックは生態系を脅かす重大な環境汚染の原因となっている。さらなる環境汚染を食い止めるためには、プラスチックに代わる生分解性材料の開発が必要となるが、それは逆に化学的不安定性を意味し、安価で使いやすいプラスチックを置き代えることは容易ではない。

fig2

図2 超越コーティングされた紙で折った鶴は水中で2週間以上経過してもその形状を保つ。右写真の非コート紙の折り鶴は1日で形状が崩れた。


一方、古くから様々な用途に用いられてきた紙は、草や木から作られるセルロース繊維からなり環境に優しい材料であるが、特に水に弱いという欠点を持つためプラスチックの代用品にはなりにくい。岩宮らは紙をプラスチックの代用品として用いるために有効なシリカコーティング技術「超越コーティング」を開発した[1-3]。有機シラン化合物を主原料とする液剤を紙に塗布して乾燥させることにより、高い耐水性と適度な強度を有し、環境負荷の少ない材料が得られる(図2)。

【研究成果】

本研究では紙やガラスなどの基材表面において、超越コーティングにより形成された厚さ数ミクロンの層の性質を調べた結果、これが多くの空隙を含むポーラスな構造をもつこと、その中に大きさ2ナノメートル程度のアナターゼ型酸化チタンナノ粒子が均一に生成していることを発見した。図1にそのミクロな構造の模式図を、図3に透過型電子顕微鏡による観察結果を示す。酸化チタンナノ粒子は、有機シラン化合物を主成分とする液剤に反応促進剤として微量添加された有機チタン化合物に起因する。有機シラン化合物の脱水重合反応の過程で生成された酸化チタンナノ粒子がシリカ層に取り込まれたものと考えられる。

fig3

図3 コーティング液剤の固化体を粉砕して得られた試料の電子顕微鏡写真。数ミクロンの粒子(a)の薄片部分を拡大すると、2ナノメートル程度のナノ粒子がアモルファスのシリカ中に析出していることが分かる(b)。ナノ粒子にはアナターゼ型酸化チタンに特徴的な結晶の周期からくる縞が観測される(c)。


コーティングが施されたガラス基板に対してメチレンブルーの脱色試験を行ったところ、暗所ではポーラスな構造にメチレンブルー分子が吸着されること、明所では加えて分解反応が起こることが分かった(図4a)。さらに、黄色ブドウ球菌を用いて除菌効果を調べた結果、特に明所で顕著な滅菌作用が観測された(図4b)。その原因は、コーティング層中のアナターゼ型酸化チタンナノ粒子の光触媒効果にあると考えられる。結果として、コーティングされた基材は自然環境中で汚れや菌類から保護され、長期間に渡って安定に存在することができる。

fig4

図4 (a)メチレンブルー水溶液濃度の時間変化。超越コーティングしたガラス基板では、非コートガラス(参照)と比較して、メチレンブルー濃度に大きな減少が見られる。暗所に置かれた試料での減少は主にポーラス膜への吸着によるものであり、明所(1 mW cm–2の紫外線照射下)では光触媒効果によるさらに大きな減少がある。(b)抗菌実験結果。超越コーティングしたガラス基板表面に滴下した黄色ブドウ球菌量(コロニー形成単位)は、非コートガラス基板(参照)では時間とともに増加したのに対して、コートガラス試料では8時間後に暗所で約1/10に、明所では約1/100に減少した。2種類の試料は異なる成分の液剤による。

【社会的意義、今後の展望】

通常のアナターゼ型酸化チタン微粒子を用いた光触媒材料は極めて高い光触媒効果を示す。これを材料のコーティングに用いるためには、微粒子の凝集による不活性化を防ぐための添加剤や微粒子を基材に固定するための接着剤が必要となる。これに対して超越コーティングでは、液剤を塗布して乾燥するだけという極めて簡単な方法により、アナターゼ型酸化チタンナノ粒子を含むシリカ保護膜が基材に強固に固定されて生成する。

一方、超越コーティング膜は、通常の光触媒材料と比べて温和な光触媒効果を示す。その主な原因は酸化チタン量が少ないことにあると考えられる。よって、強力な光触媒効果は期待できない。しかしながら通常の光触媒材料では、強すぎる光触媒効果のために基材や接着剤自身が分解され、結果として起こる経時劣化がしばしば問題となる。これに対して超越コーティングでは、酸化チタンナノ粒子が極めて化学的に安定なシリカ層に保護されて基材に固定されているために、温和な光触媒効果が長期間に渡って持続する。結果として、超越コーティングには基材の持続的な保護に利点があり、優れた保護膜として働くことになる。

超越コーティングは紙だけでなく、ガラス、セラミック、プラスチックなどの素材にも有効であり、優れた高機能保護膜を形成する。例えば、コーティングされたプラスチックでは長期間に渡ってカビの発生が抑えられ、屋外におかれたセラミックタイルは汚れや菌類に覆われることも少なくなる。さらに、鶴見大学歯学部教授の里村一人らの最近の研究により、ヒノキチオールなどの殺菌作用のある物質を添加した液剤を不織布マスクに塗布することにより、優れた抗菌作用が得られることが分かった[4]。超越コーティングは環境に負荷を与えない、優れた高機能コーティング技術として、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たすと期待される。

[1] Y. Iwamiya, M. Kawai, D. Nishio-Hamane, M. Shibayama and Z. Hiroi, Ind. Eng. Chem. Res. 60, 355 (2021).

[2] 2020年東京大学発表プレスリリース「超越コーティング — 紙をプラスチックの代わりに使う —」

[3] カミは地球を救うプロジェクト

[4] C. Tsutsumi-Arai, Y. Iwamiya, R. Hoshino, C. Terada-Ito, S. Sejima, K. Akutsu-Suyama, M. Shibayama, Z. Hiroi, R. Tokuyama-Toda, R. Iwamiya, K. Ijichi, T. Chiba and K. Satomura, Int. J. Environ. Res. 19, 3639 (2022).

発表雑誌:

雑誌名:「Industrial & Engineering Chemistry Research」(5月13日オンライン版)
論文タイトル:Photocatalytic Silica-Resin Coating for Environmental Protection of Paper as a Plastic Substitute
著者:Yoko Iwamiya, Daisuke Nishio-Hamane, Kazuhiro Akutsu-Suyama, Hiroshi Arima-Osonoi, Mitsuhiro Shibayama, and Zenji Hiroi
DOI: https://doi.org/10.1021/acs.iecr.2c00784

用語解説
(注1)ポーラス:
多孔質。スポンジのように無数の小さな空孔を持つ構造のこと。
(注2)アナターゼ型酸化チタン:
酸化チタンTiO2の一種であり、もっとも安定なルチル型とは異なる原子の配列を持つ結晶。
ルチル型は高温で安定であり、アナターゼ型は低温、または微粒子にすることで安定となる。アナターゼ型はルチル型と比べて高い光触媒活性を示すことが知られており、光触媒材料として用いられている。
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