木材由来、電気特性と3D構造を カスタマイズできるナノ半導体を創出~持続可能なエレクトロニクスの実現に道~

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2022-04-27 東京大学

【研究成果のポイント】
◆ 木材由来、電気絶縁性のナノセルロースをナノ半導体に変換することに成功
◆ 目的や用途に応じて、電気特性と3D構造を広範かつ系統的にカスタマイズ可能。ウェアラブルセンサやバイオ燃料電池発電用途における有用性も実証
◆ 全て木材由来、持続可能なエレクトロニクスに向けた端緒を拓く成果として期待

❖概要
大阪大学産業科学研究所の古賀大尚准教授、東京大学大学院工学系研究科の長島一樹准教授、高橋綱己特任准教授、九州大学大学院総合理工学研究院の末松昂一助教、岡山大学異分野融合先端研究コアの仁科勇太研究教授らの研究グループは、木材由来のナノセルロース※1を用いて、電気特性と3D構造を幅広く制御できるナノ半導体の創出に成功しました。
環境調和型の次世代エレクトロニクスに向け、持続可能な電子デバイスの開発が希求されています。古賀准教授らの研究グループは、持続可能な生物資源、木材ナノセルロース由来の紙「ナノペーパー※2」を用いて、紙の電子ペーパーや生分解性ペーパーメモリといった環境調和型の電子デバイスを世界に先駆けて開発してきました。しかし、ナノペーパーは電気を通さない完全な絶縁体であったため、これまでは主に基材としての利用にとどまっており、電子デバイスとして動作させるためには枯渇性資源由来の半導体※3が不可欠でした。
今回の研究では、ナノペーパーによる紙ならではの3D構造設計技術、および、段階的炭化※4・形態保持炭化技術を駆使し、絶縁体~準導体まで系統的な電気特性制御が可能、かつ、ナノ~マイクロ~マクロのトランススケールで3D構造制御が可能な新奇ナノ半導体を得ることに成功しました(図1)。これにより、目的や用途に応じた電子機能や3D構造のカスタマイズが可能になり、全て木材由来の電子デバイスを作製することも夢ではなくなります。持続可能なグリーン・エレクトロニクスの実現に向けた道を拓く成果として期待されます。

木材由来、電気特性と3D構造を カスタマイズできるナノ半導体を創出~持続可能なエレクトロニクスの実現に道~
図1 木材ナノセルロース由来、電気特性と3D構造をカスタマイズ可能な新奇ナノ半導体の作製戦略・概要図

本研究成果は、米国科学誌「ACS Nano」に、4月27日(水)午前0時(日本時間)に公開されました。

❖研究の背景
近年、電子デバイスの生産量が急増し、金属や石油など枯渇性資源の消費が加速しています。また、大量の電子ゴミ※5が発生し、環境への悪影響を招いています。そのため、持続生産可能な生物資源由来で、環境にも優しい電子デバイスの創出が希求されています。
これまでに、古賀准教授らの研究グループは、木材由来、持続生産可能、かつ、環境にも優しい夢の新素材「ナノセルロース」でつくる紙「ナノペーパー」を、ガラスやプラスチックに替わる基材として応用し、優れたデバイス性能とフレキシブル性・易廃棄性・生分解性を併せ持つ環境調和型電子デバイスを創出してきました。しかしながら、ナノセルロースは電気を通さない絶縁体であり、電子デバイスとして動作させるためには、枯渇性資源である金属や石油由来の電子材料に頼らざるを得ませんでした。

❖研究の内容
今回の研究では、ナノペーパーを段階的に炭化することによって、その電気特性を広範かつ系統的に制御できる半導体の創出に成功しました。本「ナノペーパー半導体」の電気特性制御範囲は、電気抵抗率:1012~10-2 Ω cm(絶縁体~準導体)、電荷キャリアタイプ:n型(電子リッチ) or p型(正孔リッチ)、キャリア移動度:0.235~2.59 cm2 V-1 s-1を網羅します(図2a)。さらに、ナノペーパーの構造設計技術(エンボス加工・折り紙・切り紙など)、および、形態保持炭化技術を併用することで、その3D構造をナノ~マイクロ~マクロに及ぶトランススケールで制御することにも成功しました(図2b)。
fig2
図2 ナノペーパーの段階的・形態保持炭化により得られる半導体(ナノペーパー半導体)の(a)広範かつ系統的に制御可能な電気特性、および、(b)ナノ~マイクロ~マクロのトランススケールで制御可能な3D構造


すなわち、緻密で平滑なナノ構造や高比表面積のナノ細孔構造、ハチの巣状のマイクロ細孔構造やドット状のマイクロピラー構造、マクロな折り鶴やワッフル状ドーナツ構造など、幅広く作り分けることができます。ナノペーパー半導体の広範な電気特性制御範囲とトランススケールの3D構造制御性は、従来の半導体材料を凌駕する特長であり、目的や用途に応じた機能と構造のカスタマイズを実現します。実際に、ウェアラブル水蒸気センシングによる飛沫モニタリング(図3a)からバイオ燃料電池発電(図3b)まで、幅広い用途において優れた電子デバイス性能を確認することができました。
fig3
図3 ナノペーパー半導体を用いたデモンストレーション
(a)ウェアラブル水蒸気センシングによる飛沫モニタリング
ウォッシャブルマスク:呼吸に合わせて電気抵抗値が脈動⇒飛沫が漏れている、サージカルマスク:飛沫を吸着したマスク表面の湿度が上がり徐々に電気抵抗値低下⇒飛沫は漏れていない
(b)グルコースバイオ燃料電池発電
グラファイトより14倍高いパワー密度、LED点灯に十分な発電性能

❖本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究成果は、木材由来のナノセルロースに半導体としての新たな価値を生み出し、電子デバイスへの適用性を拡大させるものです。将来、間伐材などの未利用木材を原料にしたオールナノセルロース・電子デバイス、さらには、金属や石油資源に依存しない生物資源由来の持続可能なエレクトロニクスの実現に繋がることが期待されます。

❖特記事項
本研究成果は、2022年4月27日(水)午前0時(日本時間)に米国科学誌「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Nanocellulose Paper Semiconductor with a 3D Network Structure and Its Nano–Micro–Macro Trans-Scale Design”
著者名:Hirotaka Koga, Kazuki Nagashima, Koichi Suematsu, Tsunaki Takahashi, Luting Zhu, Daiki Fukushima, Yintong Huang, Ryo Nakagawa, Jiangyang Liu, Kojiro Uetani, Masaya Nogi, Takeshi Yanagida, Yuta Nishina
なお、本研究は、JST 創発的研究支援事業(JPMJFR2003)、JST さきがけ(JPMJPR19J7)、JST CREST(JPMJCR18R3)、JSPS科研費「基盤研究B」(JP18H02256)・「新学術領域研究(水圏機能材料)」(20H05224)、物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスにおける共同研究「COREラボ」(20186002)、日本国際賞平成記念研究助成、MEXTナノテクノロジープラットフォーム事業(JPMXP09S21OS0029)の支援を受けて行われました。

❖用語説明
※1 ナノセルロース
樹木細胞壁から抽出できる非常に細いナノ繊維で、セルロースナノファイバーとも呼ばれます。軽量、高強度、高耐熱、高透明かつ持続生産可能なナノ材料として注目を集めており、工場での量産や実用化も進んでいます。
※2 ナノペーパー
ナノセルロースを用いて作られる紙。エレクトロニクス分野においては、フレキシブル性や生分解性を有する電子デバイス基材として注目を集めています。
※3 半導体
自身の電気特性を制御可能で、電子デバイスの動作に不可欠な電子材料です。現代のエレクトロニクスを支える重要な役割を果たしています。
※4 炭化
高温処理によって有機物質が熱分解し、炭素に富んだ物質に変化すること。本研究では、温度制御による段階的炭化処理により、ナノセルロースの分子構造を細かく変化させることで、広範かつ系統的な電気特性制御を実現しています。
※5 電子ゴミ
電子デバイス廃棄物の総称で、Electronic waste(E-waste)とも呼ばれます。全世界の電子ゴミは年々増加しており、2030年には7400万トンにも達すると予測されています(The Global E-waste Monitor 2020)。現在、そのリサイクル率は20%以下にとどまっており、特に途上国において、人体や環境への悪影響を招いています。

❖発表者のコメント(古賀准教授)
木材由来のナノセルロースをはじめ、自然界には魅力的な生物素材がたくさん存在します。しかし人類は、生物素材の優れた機能や構造をまだ使いこなせていません。
本研究成果は、生物素材の電子機能・用途開拓への端緒になるものと考えています。今後も、さらなる電気特性・機能制御やプロセスの改良に取り組み、地球上に普遍的に存在する生物素材を用いた持続性エレクトロニクスの創成を目指していきます。

ACS Nano:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.1c10728

0403電子応用
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