中央アメリカにおける大地震と火山活動との関係に関する新発見

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国際地震工学研修の元研修員(コスタリカ共和国より)が同研修における研究成果として発表

2021-11-26 建築研究所

国立研究開発法人建築研究所では、国際地震工学研修のなかで、開発途上国の若手研究者と技術者を対象に、地震学・地震工学・津波防災の各分野に関する研修を実施しています。本研修は、独立行政法人国際協力機構及び政策研究大学院大学との連携により、政策研究大学院大学の修士課程プログラムとしても位置付けられています。
この度、「地震工学通年研修」に参加したコスタリカ共和国の元研修員、ゴンザレス ジーノ氏(2019-20通年コース)が中央アメリカにおける大地震と火山活動との因果関係に関する個人研修の成果を英国の国際学術誌「Scientific Reports」に発表しました。この成果は、国立研究開発法人防災科学技術研究所 藤田英輔総括主任研究員、国立研究開発法人建築研究所 林田拓己主任研究員 芝崎文一郎上席研究員らとの共同研究として取りまとめたものです。
地震の発生と火山活動との因果関係を解明することは、地球科学における重要な課題の1つです。中央アメリカでは、主に、グアテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカなどの国で、太平洋岸に多くの活火山が連なっていますが、2012 年に中央アメリカ沖で 10 週間の間に 3 回の大地震(Mw≥7.3)が発生した際、この地域の火山活動が活発化し、複数の火山が噴火しました。
本研究では、統計計算に基づく検証を行うことで、地震の発生と火山の噴火回数の増加に明らかな因果関係があることを示しました。また、これらの地震は、既に噴火の準備段階に入った火山にのみ、噴火を促す方向に作用した可能性が高いことも分かりました。これらの結果は、日頃から火山の活動を監視することの必要性を示すものであり、火山災害を軽減する上で重要な知見となります。
本研究成果は、2021 年 11 月 17 日にオンライン掲載されました。論文は以下の URL から自由に閲覧することができます。
http://www.nature.com/articles/s41598-021-01725-1

(内容の問合せ先)
国立研究開発法人 建築研究所
所属 国際地震工学センター
氏名 林田 拓己・芝崎 文一郎

研究成果の概要
「大地震が火山の噴火の引き金になるのか?」という問いは地球科学において非常に重要な問題です。ダーウィンは1835年にチリに遠征した際、同年2月にコンセプシオン地震を経験し、その後、火山活動が活発になったことを目撃し、地震と火山噴火との関係の可能性を提唱してきました。日本においては、1707年に南海トラフにおける宝永地震から49日後、富士山が噴火したことが知られています。今回の研究では、2012年に、中央アメリカ沖における3つの海溝型大地震の発生後に、この地域の火山活動が活発化したこと、さらに大地震と火山活動との間に因果関係があることを統計的に明らかにしました。

2012年、中央アメリカのプレート沈み込み帯で、わずか72日間のうちに3回の大地震が発生しました(図1)。サンクリストバル火山(ニカラグア)とフエゴ火山(グアテマラ)では、2つ目の地震発生後に大規模な噴火が発生しました(写真1、2)。地震前からすでに噴火を開始していた他の火山(サンタマリア山、フエゴ山など)でも、地震の後に噴火や爆発の回数が増加しました。長い間活動のなかった火山が、地震から数ヶ月〜数年後に大規模な噴火を起こした事例も観測されました(テリカ山、リンコン・デ・ラ・ビエハ山、ポアス山、トゥリアルバ山など)。

本研究ではまず、2012年に発生したこれらの大地震が、中米地域の火山活動の活発化を促したかどうかを調べました。中米における火山噴火数の増加が地震と無関係に起こりうるのか、それとも地震との因果関係があるのかを判別するために、モンテカルロシミュレーションによる検討を行ったところ、ランダムな過程で観測データに近い結果が得られるのはわずか0.12%(10,000回の計算の内12回)という極めて稀な確率であることが分かりました。この結果は、観測された火山噴火回数の増加が外的要因(地震)によって引き起こされたものであることを示唆しています(図2)。

次に、これらの地震が火山に及ぼす力学的な影響を調べるため、観測された地震波形記録や地震のメカニズム情報を用いて、各火山における動的・静的な応力の変化を計算しました。噴火に直接影響を及ぼすほどの大きな応力の変化は確認されませんでしたが、120秒間も続いた地震時の揺れが気泡の成長、溶存ガスの増加、マグマの移動などを促進し、地震後の噴火を誘発した可能性があることが分かりました。また、地震の揺れによって火山性流体の振動(スロッシング現象)が生じたことで噴火が促進された可能性も考えられます。地震発生後すぐに噴火しなかった火山や、応力の変化を受けたにも関わらず噴火に至らなかった火山もありますが、その理由としては、これらの火山が2012年の時点で噴火の準備段階に至っていなかったことが考えられます。本研究では、3つの地震が周辺の全ての火山活動を活性化させたのではなく、すでに噴火準備段階に入っていた火山にのみ、噴火を促す方向に作用した可能性を示しました。

本研究の結果は、大地震が発生する前に、全ての活火山の活動状況を常時監視しておくことの重要性を示しています。また、地震発生から短期的(数日)・長期的(数年)に火山活動が増加し、最終的に火山噴火に至るといったシナリオを想定する必要があることも示しており、災害リスクを軽減するための対策を検討する上で重要な知見になると考えられます。


図1:2012年に発生した3つの大地震(8月27日:エルサルバドル沖でMw=7.3、9月5日:コスタリカ沖でMw=7.6、11月11日:グアテマラ沖でMw=7.4)と研究の対象とした火山(赤い三角)の分布。海溝沿いの点線はココスプレートとカリブプレートの境界を示す。


図2:対象地域における2000年〜2019年間の火山の噴火積算回数。黄色い点線は3つの地震が発生した時期に対応する。地震を境に積算数の傾向が変化し、近似式の傾きが大きくなる。


写真1.2つ目の地震発生から3日後に噴火したニカラグア・サンクリストバル火山(ニカラグア国土調査院撮影:ジーノ氏提供)


写真2.2つ目の地震発生から8日後に噴火したグアテマラ・フエゴ火山(グアテマラ国立地震火山気象水文研究所撮影:ジーノ氏提供)

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1702地球物理及び地球化学
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