2021-11-09 物質・材料研究機構,京都大学,早稲田大学,豊田理化学研究所
NIMS、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。
概要
- 国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) 、京都大学、早稲田大学、豊田理化学研究所からなる研究チームは、新たに光電子分光データから人工ニューラルネットワーク(ANN)を活用して『自己エネルギー』と呼ばれる物理量を取り出す手法を開発し、高温超伝導解明の鍵となる引力の痕跡を発見しました。当該成果は今後、実験科学だけでは解決が困難な問題を解く革新的手法へと発展することが期待されます。
- 低温超伝導体では、電子の運動の履歴を示す自己エネルギーから、超伝導状態の形成に必要な電子のペア(クーパー対)を生み出す引力の存在が実験的に証明されました。しかしながら、銅酸化物高温超伝導体については、高い転移温度に見合う強い引力の痕跡が長年見つかっていませんでした。
- 今回、研究チームは、理論方程式 (エリアシュベルグ方程式) を用いて実験データを再現し説明する従来の方法に代わって、あらゆる関数を表現できるANNを用いた機械学習を考案し、銅酸化物高温超伝導体について、実験データを精密に再現する2成分の自己エネルギーを決定することに成功しました。自己エネルギーには『正常成分』と『異常成分』の2成分があり、後者に引力の痕跡が含まれていることがわかっています。得られた自己エネルギーの解析から、2つの成分に現れる強い電子間の散乱 (正常成分) と強い引力 (異常成分) の影響が、実験データでは見かけ上相殺するために隠れてしまい、引力の痕跡が観測されなかったことがわかりました。また、異常成分のさらなる解析から、強い引力が低温超伝導のような原子振動では説明できないことがわかりました。今回得られた成果は、高温超伝導の起源を解明する重要な手掛かりになります。
- 今後は、今回開発された実験データ解析手法を様々な物質に適用し、より高い超伝導転移温度を示す物質の設計に活かしていくことを目指します。また、これまでANNが活用されてきた機械学習では、多数のデータによる学習から未知のデータ予測を行うことが主流でした。今回得られた成果を嚆矢として、少数データから隠れた物理量を抽出する機械学習観測手法の確立を目指していきます。
- 本研究は、NIMSエネルギー・環境材料研究拠点 界面計算科学グループの山地洋平主任研究員と京都大学大学院人間・環境学研究科 吉田鉄平 教授、早稲田大学理工学術院 藤森淳 客員教授、豊田理化学研究所/早稲田大学理工学術院 今田正俊 フェロー/研究院教授からなる研究チームによって行われました。
- 本研究はJSTさきがけ(JPMJPR15NF)、日本学術振興会科学研究費助成事業基盤研究 (S) 「強相関物質設計と機能開拓—非平衡系・非周期系への挑戦—」、文部科学省「富岳」(9)成果創出加速プログラム「量子物質の創発と機能のための基礎科学 —「富岳」と最先端実験の密連携による革新的強相関電子科学」 (JPMXP1020200104) およびポスト「京」重点課題 (7) 「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」サブ課題C「超伝導・新機能デバイス材料」の一環として実施されたものです。また、本研究はスーパーコンピュータ「富岳」の計算資源による支援を受けています (課題番号 : hp180170, hp190145、hp200132、hp210163) 。
- 本研究成果は、米国物理学会Physical Review Research誌オンライン版に2021年11月8日付で公開されます。
プレスリリース中の図 : 銅酸化物についての1つの光電子分光データ(左図)から、足りない情報を普遍的な物理法則で補って人工ニューラルネットワークを最適化し、自己エネルギーの2つの成分(右図)を決定。
掲載論文
題目 : Hidden self-energies as origin of cuprate superconductivity revealed by machine learning
著者 : Youhei Yamaji, Teppei Yoshida, Atsushi Fujimori, and Masatoshi Imada
雑誌 : Physical Review Research
掲載日時 : 2021年11月8日
DOI : 10.1103/PhysRevResearch.3.043099