人工知能により材料の構造画像を生成し、物性を予測する技術を開発

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AI技術で扱える材料を広げ、材料開発加速へ

2021-10-19 産業技術総合研究所

ポイント

  • 今まで物性を予測することが難しかった材料に利活用可能なAI技術を開発
  • カーボンナノチューブのような複雑な構造をもつ材料のAI画像を生成し、物性を高精度に予測
  • 材料選定・加工・評価といった一連の工程をコンピューター上の仮想実験で再現

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 石村 和彦】(以下「産総研」という)ナノチューブ実用化研究センター【研究センター長 畠 賢治】CNT評価チーム 室賀 駿 研究員、中島 秀朗 研究員、岡崎 俊也 研究チーム長(兼)副センター長、畠 賢治 研究センター長らは、先端素材高速開発技術研究組合【理事長 北 弘志】(以下「ADMAT」という)本田 隆 研究員、日本ゼオン株式会社【代表取締役社長 田中 公章】(以下「日本ゼオン」という)と共同で、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構【理事長 石塚 博昭】(以下「NEDO」という)の超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト【プロジェクトリーダー 村山 宣光(産総研 副理事長)】において、人工知能(AI)によって材料の構造画像を生成し、物性予測を可能とする技術を開発した。

今回開発した手法は、カーボンナノチューブ(CNT)を用いて作製した膜について、その構造画像と物性値をAIに学習させたのち、コンピューター上で2~3種類のCNTを任意の割合で混合した膜のAI画像を生成することで、CNT膜の物性値を精度よく予測することを可能にした。これは、AI技術が扱える材料を従来よりも格段に広げる技術であり、CNTのような複雑な構造をもつ材料に対して組成選定から評価工程までをコンピューター上の仮想実験で再現できるようになった。

本研究成果は、2021年8月30日(英国時間10:00)に科学出版会社Springer Nature社Nature Researchの国際科学雑誌『Communications Materials』にオンライン掲載された。

図1 今回の技術によるCNT膜の仮想実験
(a)および総計1,716種類のCNT膜の物性予測結果
(b) (出典から一部改訂して転載)

開発の社会的背景

材料開発の分野では、開発段階での新規材料の探索において、高度化・高速化、材料組成の最適化、低コスト化が求められている。 そのため、マテリアルズ・インフォマティクスやプロセス・インフォマティクスにおけるディープラーニング(深層学習) など、AI技術の利活用が盛んに研究されている。これらの研究は、さまざまな材料のデータをコンピューターに学習させて材料設計を行うことで、従来の人の勘や経験に基づく材料開発を飛躍的に高度化させる新しい切り口として期待されている。一方、コンピューター上で取り扱える対象としては、比較的単純な化学構造を有する低分子化合物、周期構造を有する金属や無機化合物などに限定されていた。そのため、CNTに代表される複雑な構造の材料にも適用できるAI技術が求められていた。

研究の経緯

産総研ナノチューブ実用化研究センターは、CNT産業の創出を目指し、CNTの大量合成、構造分離、機能性複合材料作製、安全性評価などの基盤技術を開発してきた(産総研プレス発表2017年9月12日2018年4月19日2019年2月4日)。産総研は、ADMATおよび日本ゼオンと共同でNEDO「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」(2016~2021年度)において、マテリアルズ・インフォマティクスやプロセス・インフォマティクスといったデータ駆動的手法を活用し、CNT材料における物性値の最適化や低コスト化を実現する研究開発に取り組んでいる。

CNT材料はナノチューブが有する個別の直径や層数・化学構造からそれらが集積したネットワーク構造まで複雑な階層構造をもつ。また、製法や加工プロセスによってそれらの構造がさまざまに変化することから、AI技術の適用が難しく、適切な材料設計が困難であった。そこで、複雑な構造を持つ材料系にも適用できるように、ディープラーニングを用いた手法の開発に取り組んだ。

研究の内容

今回開発した手法は、画像データの特徴を学習し、疑似的な画像(AI画像)として生成する条件付き敵対的生成ネットワーク(C-GAN) を用いる。CNT膜は、巨視的な集合体から微視的な束状構造まで、いくつかの階層構造をもち、この構造をコンピューターで取り扱えるようにするため、低倍(2,000倍)から高倍(100,000倍)まで観察倍率の異なる4つの走査型電子顕微鏡(SEM) 画像を組み合わせ、C-GANに学習させた(図1(a))。この画像のタイリング手法により、CNTのもつ複雑な構造を精度よく学習し、忠実なAI画像として生成することが可能となった。図2に示すように、製法によって長さや集合状態の異なる7種のCNT構造(CNT1~7)がAI画像において再現されており、観察倍率ごとの階層構造を適切に学習したことがわかる。

図2

図2 今回の技術によって生成したCNT膜の構造画像(実験およびAI画像)
(出典から一部改訂して転載)

つぎに、種類の異なるCNTを任意の割合で混合したCNT膜について、物性予測を検証した。学習には、製法別7種類のCNT膜に加えて、そのうち2種類を混合させたCNT膜を作製し(計17種類)、それらのSEM画像および物性値を学習データとして用いた。それにより、2~3種類のCNTの選択(材料選定)から、配合比率を任意に変えて混合させたCNT構造の画像生成(加工)、物性値の予測(評価)まで、一連の実験作業がコンピューター上で可能となった。図1(b)は、合計1,716種類の混合膜について、比表面積を電気伝導率に対して表示した予測結果である。この結果から、CNTを任意の比率で配合することで、さまざまな物性値をもつCNT膜が作製できることが示された。たとえば、CNT1を含む2種混合膜(赤色の三角)によって、高い電気伝導率~200 S/cmと高い比表面積~600 m2/gを併せもつCNT膜が作製できることがわかる。得られた予測結果を実験値と比較したところ、AI構築に利用したデータについて、その信頼性(決定係数:R2) は、電気伝導率・比表面積ともに0.99であった。また、AI構築に利用していないデータを用いてAIの予測性を検証したところ、決定係数は電気伝導率で0.85、比表面積で0.42であった。学習に使わなかったデータに対する成績の向上、他の材料への適用がこれからの課題である。

開発した技術によって、CNT膜の物性をもたせつつ、最小の材料コストで作製するための最適な組成が得られることがわかった。仮想実験で得られたCNT膜の電気伝導率と経済性( 材料コストの相対値を表す指標 )の関係を図3(a)に示す。縦軸の1目盛りは材料コストが10倍異なること を表し、値の大きい方がより低コストである。図内の三角形が各電気伝導率において材料コストが最小となる条件に相当し、その際のCNT組成を図3(b)に示す。従来は網羅的な実験データと長期間の解析を要していた経済性の分析についても、本技術が有効であることを示している。

今回開発した技術によって、化学構造や原子の周期配列のみに頼ることなく、材料の物性や最適な組成を予測することが可能となった。この予測技術は、マテリアルズ・インフォマティクスの適用範囲を従来よりも格段に広げ、複雑な構造をもつさまざまな材料に利活用できるAI技術として材料開発を加速化する。

図3

図3 今回の技術によって得られた材料コストに関するプロット(a)と各電気伝導率での材料コストが最小となるCNTの配合割合(b)
(出典から一部改訂して転載)

今後の予定

今後は、CNTをはじめ、プラスチックやゴム複合材、ファインセラミックス、マルチマテリアルといったさまざまな実用部材を対象にAI技術の開発に取り組む。また、マテリアルズ・インフォマティクスのみならず、それら材料の製造工程へと応用したプロセス・インフォマティクスにも取り組むことで、ハイスループットな機能性材料開発へと貢献する。

出版物

・論文

著者:Takashi Honda, Shun Muroga, Hideaki Nakajima, Taiyo Shimizu, Kazufumi Kobashi, Hiroshi Morita, Toshiya Okazaki and *Kenji Hata
†These authors contributed equally to this manuscript, * Corresponding author
タイトル:Virtual experimentations by deep learning on tangible materials
掲載先:Communications Materials, Vol. 2, Issue: 88, Pages: 1-8, DOI: 10.1038/s43246-021-00195-2
掲載日:2021年8月30日
Link: https://www.nature.com/articles/s43246-021-00195-2

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