水を分析するだけで 特定外来生物のカワヒバリガイを高感度に検出

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貯水池などへの侵入の早期発見で、効果的な対策が可能に

2021-08-18 農研機構

ポイント

農研機構は、環境DNA1)を用いた特定外来生物2)カワヒバリガイの高感度な検出手法を開発しました。カワヒバリガイは水路や貯水池などに大量に発生し、通水障害や在来種の生態系に悪影響を及ぼすことが問題になっていますが、侵入初期の段階は個体密度も低く、発見が困難でした。本成果は、カワヒバリガイの分布と被害の拡大に対し、早期の発見と素早い対策の実施に役立ちます。

概要

農研機構は、水利施設などの通水障害の原因になるカワヒバリガイを、侵入後間もない低密度な段階で検出する技術を開発しました。

カワヒバリガイは農業用の通水パイプを詰まらせるなど、水利施設の運用に被害をもたらす特定外来生物の二枚貝です。国内では1992年に琵琶湖で初めて生息が報告され、その後、関東・東海・近畿の12都府県で生息が確認されています。近年、水路などを経由した分布拡大が報告され、早期の発見と素早い対策が求められています。

カワヒバリガイが貯水池などに侵入間もない段階では、カワヒバリガイの個体密度が低く、目視などの従来の調査ではその生息を見落とすことが問題となっていました。そこで今回、現地で採集した水サンプルに含まれるカワヒバリガイ由来のDNAを検知する調査手法を開発し、その有効性を通常の調査手法と比較・検討しました。その結果、環境DNAを用いた調査手法は従来の目視調査や幼生の密度調査に比べてカワヒバリガイを検出する効率が高いことが示されました。

この調査手法は、現地では少量の水を採集するだけで済むため、調査に伴う労力も少なく、貯水池などの施設の運用にもほとんど影響を及ぼしません。そのため、これまで調査の行われなかった、未侵入や侵入の初期段階の地域においても活用が期待されます。

関連情報

予算 : 農林水産省委託プロジェクト研究「平成31年度 戦略的プロジェクト研究推進事業 野生鳥獣及び病害虫等被害対応技術の開発」JPJ007966

問い合わせ先

研究推進責任者 :
農研機構農業環境研究部門 所長 岡田 邦彦

研究担当者 :
同 農業生態系管理研究領域 上級研究員 伊藤 健二、研究領域長 芝池 博幸

広報担当者 :
同 研究推進室(兼本部広報部) 杉山 恵

詳細情報

開発の社会的背景

カワヒバリガイ(図1)は中国・朝鮮半島が原産の固着性の二枚貝です。この貝は水路や貯水池で大発生して通水パイプなどを詰まらせるなどの問題を引き起こすとともに、侵入先の在来生態系に大きな変化を引き起こすことが知られています。農研機構のこれまでの研究から、カワヒバリガイは水路や貯水池などの水利施設を経由し、水系を超えた範囲まで分布の拡大をしていることも明らかになっています(農研機構2016年11月21日プレスリリース「特定外来生物カワヒバリガイが、水利施設を経由して他水系に侵入」、図2)。

カワヒバリガイによる被害の拡大を抑制するためには、水利施設などにおける侵入・定着をいち早く検知し、密度が低く分布が限られた段階で駆除対策(貯水池の水抜きによる貝の除去など)を実施することが重要です。しかし、従来の調査手法(図3)は調査に要する時間と労力が大きい上に発見効率が低く、侵入間もない少数の個体を見落とす場合があることが問題になっていました。

研究の経緯

近年、様々な生物が環境中に放出する生物由来のDNA(環境DNA)を検出する方法が開発されるようになりました。そこで、現地で採集した水サンプル中に含まれるカワヒバリガイ由来のDNAを検知する調査手法を開発するとともに、その手法と従来行われてきた調査手法の効率を比較・検討し、その有効性を明らかにしました。

研究の内容・意義

1.カワヒバリガイのDNAを特異的に増幅するプライマー対3)を新たに開発しました。このプライマー対を用いることで、カワヒバリガイに近縁な貝類の中から、カワヒバリガイ由来のDNAのみを高感度に検知することが可能になりました(図4)。

2.貯水池の表層から採集した水サンプルを実験室に持ち帰り、グラスファイバー製の濾紙を用いてサンプル中の環境DNAを捕捉します。この濾紙に含まれるカワヒバリガイ由来のDNAをリアルタイムPCR法により定量しました(図5)。

3.環境DNAによる調査の有効性を検証するために、カワヒバリガイの生息する水源を利用している15箇所の貯水池を対象に①目視観察と②カワヒバリガイの浮遊幼生調査(100~200Lの水をプランクトンネットで濾過し、実体顕微鏡下で幼生を計数する)(調査の様子は図3)、③環境DNA調査を行い(調査の様子は図5 右上)、カワヒバリガイの有無を比較しました。その結果、③では①および②でカワヒバリガイが確認された貯水池以外にも複数の地点からカワヒバリガイのDNAが検出されました。これら地点のDNA濃度は低く、低密度のカワヒバリガイが生息している可能性があります(表1)。

今後の予定・期待

この調査手法は、多様な条件下でカワヒバリガイの侵入・定着の可能性を高感度に把握することができるうえ、貯水池などの運用にほとんど影響を及ぼしません。調査に要する時間も短いため、広い範囲での網羅的な侵入状況の調査を行うことができます。そのため、環境DNAの調査結果にもとづいて生息・被害状況の調査を重点化する、より早い段階での駆除に着手するなど、より早く効率的な対策の実施に貢献することが期待されます。

用語の解説
1)環境DNA
水中や土壌など、環境中に存在する生物に由来するDNA。環境DNAを抽出、解析することを通じ、そこに生息する生物の種類やおおよその生物量などの把握が可能となります。
2)特定外来生物
『特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (外来生物法)』で指定され、規制・防除の対象となっている侵略的外来種。侵略的外来種とは、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすおそれのある外来生物。
3)プライマー対
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に用いる数十塩基対程度の短い核酸の断片。
参考資料

1.Ito K and Shibaike H. (2021) Use of environmental DNA to survey the distribution of the invasive mussel Limnoperna fortunei in farm ponds. Plankton and Benthos Research 16(2) 100-108

2.農研機構2016年11月21日プレスリリース「特定外来生物カワヒバリガイが、水利施設を経由して他水系に侵入」
https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/072437.html

参考図

図1 水利施設に大量発生したカワヒバリガイ 図2 水源に発生したカワヒバリガイの分布拡大(イメージ)
6-10月の繁殖期、カワヒバリガイが生息している水源の水にはカワヒバリガイの浮遊幼生が含まれています。カワヒバリガイは、その水源から取水する貯水池や周辺河川などに分布を拡大し、一部の施設で通水障害等の被害をもたらします。カワヒバリガイの被害拡大を抑制するためには、その侵入・定着をいち早く検知することが重要です。 図3 カワヒバリガイのモニタリングに用いられてきた従来の手法
①目視観察、②浮遊幼生調査。これらの手法は簡便ではあるものの、低密度な侵入初期の見落としが問題となっていました。


図4 本研究で開発したプライマー対の種特異性。
(1)マガキ、(2)ミドリイガイ、(3)タイワンシジミ、(4)ムラサキイガイ、(5)コウロエンカワヒバリガイ、(6)と(7)カワヒバリガイ、(8)蒸留水。新たに開発したプライマー対は、同所的に確認される貝類や近縁の貝類等からカワヒバリガイを特異的に識別することができました(矢印)。 図5 環境DNA調査の手順(左)と採水・分析の様子(右) 表1 異なる調査手法によるカワヒバリガイの検出効率の比較
①目視観察と②幼生の密度調査の結果を合わせると、15ヶ所中5ヶ所の貯水池でカワヒバリガイの生息が確認されました。一方、③環境DNA調査の結果では、①と②で生息の確認された5ヶ所以外の4ヶ所からも、カワヒバリガイのDNAが検出されました(黄色背景:各手法で生息が確認された地点)。

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