希少な元素を使わずにアルミニウムと鉄で水素を蓄える~水素吸蔵合金開発の新たな展開を先導~

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2021-07-29 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

  • 従来のようにレアメタルを含むことなく、資源量が豊富なアルミニウムと鉄の合金で水素が蓄えられることを発見
  • 「水素と反応しにくい金属同士を組み合わせる」という新発想に基づき発見
  • 今後の水素吸蔵合金の材料探索の幅を飛躍的に広げ、レアメタルを含まない実用材料の実現に期待

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)(理事長 平野俊夫)量子ビーム科学部門関西光科学研究所の齋藤寛之グループリーダー、国立大学法人東北大学(総長 大野英男)の佐藤豊人助教(現 芝浦工業大学)、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 山内正則)物質構造科学研究所 池田一貴特別准教授らの研究グループは、資源量が豊富なアルミニウムと鉄を組合せた合金で水素が蓄えられることを発見しました。従来のように希少な元素を含むことなく、コンパクトに水素を蓄えられる水素吸蔵合金1)ができる可能性が示されました。

研究グループは2013年、アルミニウムと銅の合金で水素貯蔵が可能であることを確かめました。この結果を踏まえ、水素と反応しにくい金属(難水素化金属)同士でもその組合せ方でさらに水素を多く含む新規材料が得られるのではないかと考え、資源量が豊富な元素であるアルミニウムと鉄の合金に着目しました。この合金に水素を吸蔵させる条件について試行錯誤し、高温高圧の水素と反応させることにより、新しい金属水素化物(水素を吸蔵した合金)の合成に成功しました。合金が吸蔵した水素の量はアルミニウムと銅の合金に比べ数倍多く、レアメタルを使ったこれまでの水素吸蔵合金と同等のレベルであることが分かりました。さらに、その構造を詳細に調べたところ、従来の水素吸蔵合金における金属原子と水素原子の並び方の分類に当てはまらない、新しい並び方であることが分かりました。また、合金の表面の性質を変えることでより低い圧力でも水素を取り込めることも分かりました。

今後の研究により大気圧付近で水素を吸蔵する合金の開発が実現すれば、SDGs(持続可能な開発目標)の「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」の再生エネルギーの割合拡大の達成への貢献が期待できます。加えて、従来の定石に捉われない水素吸蔵合金開発の可能性を示し、新規材料探索の幅を飛躍的に広げるものと期待されます。なお、本成果に関連する特許は公開済みです(特開2019-199640)。

本研究の一部は、科学研究費補助金新学術領域研究「ハイドロジェノミクス」 (JP18H05513, JP18H05518, 領域代表:折茂慎一)、東北大学金属材料研究所GIMRT共同利用プログラム(18K0032, 19K0049, 20K0022)の支援を受けて実施しました。

本成果は7月29日(木)0:00(日本時間)で『Materials & Design』にオンライン掲載されました。

研究の背景

水素エネルギーは、使用後に水となり二酸化炭素を排出しないという特性があります。また、様々な一次エネルギーからの変換も可能です。そのため、温暖化対策とエネルギー安全保障の問題を同時に克服する切り札と考えられています。しかし、水素をエネルギーキャリアとして利用する場合、「どのように水素を蓄えるか?」が依然として課題となっています。それは、私たちが生活している大気圧・常温の条件では水素は気体であり、かさばるためです。それを解決する技術の一つが水素吸蔵合金です。水素吸蔵合金によって水素を蓄える様子の模式図を図1上段に示します。大気圧・常温の条件では水素分子間の平均距離は約33 Å(1 Åは10-10 m)です。これに対し、水素吸蔵合金中では金属原子間の隙間に原子状の水素が取りこまれ、水素原子間の距離は2 Å程度になるため、気体の水素と比べて体積で1,000分の1程度にコンパクトに水素を蓄えることが可能となります。

水素吸蔵合金の開発では、「水素と反応しやすい金属と反応しにくい金属(難水素化金属)を組み合わせる」という定石があり、「水素と反応しやすい金属」はレアメタルと呼ばれる希少な元素から選ぶことが典型です(図2。しかし、レアメタルは資源量が少なく、価格も高いため、低コストの合金を実現するためには定石にとらわれない新しい合金開発の指針が必要です。

そこで、研究グループは敢えて定石に疑問を呈し、難水素化金属同士の組み合わせで水素吸蔵合金を作れないか、その可能性を改めて確かめてみることにしました。そして、アルミニウムと銅という、いずれも水素と反応しにくい金属同士の組み合わせについて試したところ、アルミニウムと銅の合金は水素化が可能であることを発見しました(2013年プレスリリース)。得られたアルミニウムと銅の合金の水素化物は、典型的な水素吸蔵合金と比べて水素量が半分以下と低いものでしたが、その性質を詳しく調べて検討を重ねた結果、難水素化金属同士でもその組み合わせ方で水素の結合状態を変えることにより、さらに水素を多く含む新規材料が得られる可能性が見えてきました。産業の規模での金属による水素吸蔵を考えると、豊富で安価な金属が有利であることから、資源量が豊富な元素の代表格でありながら難水素化金属同士であるアルミニウムと鉄の合金に着目しました(図1下段)。

図1. 従来の水素吸蔵合金による水素吸蔵とその課題、および、本成果のアルミニウム鉄合金

周期表の一部と水素化物の形成しやすさの関係

図2. 周期表の一部と水素化物の形成しやすさの関係。赤色で塗られた金属は水素と反応しやすく、緑色で示された金属は水素と反応しにくい。6族(クロム族元素)から13族(ホウ素族元素)の金属は水素化されにくい難水素化金属である。(Pdは除く)。

研究成果

研究グループはアルミニウムと鉄の合金に水素を吸蔵させる条件である、合金の組成や水素化する温度・圧力などについて試行錯誤を重ねました。その結果、Al13Fe4という組成の合金を7万気圧以上の高圧力下で650℃以上の高温水素と反応させると、新しい金属水素化物(水素を吸蔵した合金)Al3FeH4が合成できることを発見しました。高圧下で合成されたAl3FeH4は大気圧下に取り出すことができ、加熱すると水素を放出することが分かりました(図3)。水素の放出にともなう重量減少から、合金の重量に対する吸蔵された水素の重量(重量水素密度)を算出したところ2.9重量%でした。この量は、アルミニウムと銅の合金の場合の3倍に達し、現在、定置型の水素貯蔵システムに利用されているレアメタルを使った典型的な水素吸蔵合金であるLaNi5 (1.4重量%)やTiFe (1.9重量%)などと同等のレベルであることが分かりました。

Al3FeH4中の金属原子と水素原子の並び方(結晶構造)を放射光X線回折3)、および、大強度陽子加速器施設J-PARC 物質・生命科学実験施設MLF4における中性子回折5)で分析したところ、従来の水素化物における結晶構造の分類に当てはまらない、新しい結晶構造を持つことが分かりました(図4)。鉄と水素の結合に着目すると、従来の水素化物の分類の一つである錯体水素化物においては、鉄と共有結合した水素が正八面体の形に6個配位した構造を持ち、[FeH6]4-という陰イオンを形成します。一方、今回新たに発見されたAl3FeH4中では鉄のまわりに水素が入る場所(水素サイト)が6箇所あることは同じでしたが、その形状は正八面体から歪んでおり、さらに、この6箇所すべてに水素が入るわけではなく、そのうちのどこか2箇所にランダムに入る、という従来にない特徴がありました。この特異な結晶構造を取ることによって、難水素化金属の組み合わせによる合金であるにも拘らず、多くの水素を蓄えられることが明らかになりました。

なお、本研究において、アルミニウムと鉄の合金の水素化条件を調べるにあたっては、大型放射光施設SPring-86のQST専用ビームラインBL14B1に設置された高圧装置を使いました。通常、高温高圧容器内の反応を直接観察することは困難ですが、この装置を使うことによって、高温高圧下でアルミニウムと鉄の合金が水素化し結晶構造が変わっていく様子をその場で観察することができます(図5)。研究グループは、この装置を用いて、アルミニウムと鉄の合金の水素化条件を効率的に探索することにより、本成果に結び付けることができました。

Al3FeH4を常圧下に取り出し加熱した時の水素放出を測定した結果

図3.  Al3FeH4を常圧下に取り出し加熱した時の水素放出を測定した結果。約150℃から水素放出が始まっていることが分かりました。水素放出時の重量減少量から、Al3FeH4中に2.9重量%の密度で水素が含まれていることが明らかになりました。

Al3FeH4中には錯体水素化物中の[FeH6]4-とは別の中間体のような構造ユニットができていることがJ-PARC MLF BL21で実施された中性子回折実験の結果

図4. Al3FeH4の結晶構造の模式図。Al3FeH4中のFe原子(図中緑の球)のまわりには、八面体の形状で水素が入ることができる場所(水素サイト)が6箇所あり(図中青の球)、そのうちのどこか2箇所に水素がランダムに入っています。一方、従来の水素化物で報告されている結晶構造の構成ユニットである[FeH6]4-では水素サイトは鉄のまわりに正八面体の形状で存在し、全ての水素サイトに水素が入っています。Al3FeH4中には錯体水素化物中の[FeH6]4-とは別の中間体のような構造ユニットができていることがJ-PARC MLF BL21で実施された中性子回折実験の結果から分かりました。

Al13Fe4合金を高温高圧水素と反応させたときのその場放射光X線回折 測定の結果

図5. Al13Fe4合金を高温高圧水素と反応させたときのその場放射光X線回折測定の結果。この図はAl13Fe4合金を9万気圧の水素と反応させたときの測定結果を示しています。SPring-8、QST専用ビームラインBL14B1に設置された高温高圧装置を用いると、結晶構造の変化を見ながら温度や圧力を変えることができるため、未知の水素化物を合成する条件を迅速に決定することができます。この実験ではAl13Fe4合金を9万気圧の水素中で加熱すると、約670℃付近から変化が始まり、750℃で保持後4分程度でAl3FeH4への水素化反応が完了することが分かりました。

今後の展開

本成果はアルミニウムと鉄という安価で身の回りに溢れている金属で、水素吸蔵合金が実現できる可能性を示すものです。今回は金属水素化物の合成には7万気圧以上の高温高圧の水素が必要でしたが、得られた水素化物の安定性を調べたところ、合金の表面の性質を変えることでより低い圧力でも水素を取り込むことができることも分かりました。

今後の研究により合金の表面の性質を変えて大気圧付近で水素を吸蔵する合金が実現されれば、水素社会実現に貢献できると期待されます。水素社会の実現はSDGs(持続可能な開発目標)の「7. エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「13. 気候変動に具体的な対策を」の達成にもつながるものです。

加えて、本成果は従来の定石に捉われない水素吸蔵合金開発の可能性を示し、新規材料探索の幅を飛躍的に広げるものと期待されます。難水素化金属とは図2に示すとおり6族(クロム族)から13族(ホウ素族)の元素が該当し、とても多くの金属元素を含みます。今回の知見は今後の材料探索の幅を飛躍的に拡げるものです。それにより、例えばコンパクトながらも水素量が多くレアメタルを含まない合金といった、高性能な水素吸蔵合金の実現に貢献することが期待できます。

用語解説

1)水素吸蔵合金
水素吸蔵合金は、一般的には金属の原子が作る隙間に水素を取り込み、100℃程度の比較的低温で加熱することにより取り込んだ水素を放出することができる材料です。金属原子間に取り込まれた水素は原子状になっているため、水素吸蔵合金中の水素が占める体積(体積水素密度)は、液体水素よりも高くなります。典型的な水素吸蔵合金としてLaNi5やTiFeなどが挙げられます。

2)難水素化金属
水素化とは、水素と反応して水素との化合物(水素化物)になることです。周期表において1族(アルカリ金属)から5族(バナジウム族)の元素は常圧付近で水素と反応し水素化物を形成します。これに対して6族(クロム族)から13族(ホウ素族)の元素は水素化のために1万気圧以上の水素が必要な水素化しにくい金属です。ただし、パラジウムは例外的に常圧で水素化物を形成します。

3)放射光X線回折
物質にX線を照射すると原子の並び方に応じた回折X線が発生します。この回折X線を詳細に調べることで物質中の原子の並び方(結晶構造)を調べることができます。さらに、実験室のX線と比べて高輝度で指向性が高い放射光X線を使うことで、小さな試料でも高精度な解析が可能になります。

4) 大強度陽子加速器施設J-PARC 物質・生命科学実験施設MLF
大強度陽子加速器施設J-PARCは、高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が茨城県東海村で共同運営している大型研究施設で、素粒子物理学、原子核物理学、物性物理学、化学、材料科学、生物学などの学術的な研究から産業分野への応用研究まで、広範囲の分野で世界最先端の研究が行われています。J-PARC内の物質・生命科学実験施設MLFでは、世界最高強度の中性子及びミュオンビームを用いた研究が行われており、世界中から研究者が訪れて利用しています。

5) 中性子回折
X線回折と同様に物質に中性子を照射すると結晶構造を反映した回折が生じます。中性子回折では、X線回折では調べるのが難しい水素(実験では水素の同位体である重水素を使うことが多い)などの軽元素を調べることができます。本研究では放射光X線回折と中性子回折の結果を組み合わせて解析することで、Al3FeH4中の金属原子と水素原子の並び方を決定することができました。

6) 大型放射光施設SPring-8
兵庫県の播磨科学公園都市にある超強力なX線を生み出す施設です。SPring-8の名前は、Super Photon ring 8Gevに由来しています。放射光は、光速近くまで加速された電子の軌道を磁場で曲げた際に生じる指向性の高い光であり、赤外線からX線までの広い波長範囲に渡る白色光です。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用に渡る幅広い研究が行われています。

研究グループ

量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門

関西光科学研究所
グループリーダー 齋藤寛之(さいとう・ひろゆき)兼 兵庫県立大学 客員准教授
QSTリサーチアシスタント 谷上真惟(たにかみ・まい)兼 兵庫県立大学 大学院生(研究当時)
上席研究員 町田晃彦(まちだ・あきひこ)
センター長 綿貫徹(わたぬき・てつ)兼 兵庫県立大学 客員教授

高崎量子応用研究所
上席研究員 田口富嗣(たぐち・とみつぐ)
上席研究員 山本春也(やまもと・しゅんや)
次長 八巻徹也(やまき・てつや)

東北大学

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