2021-05-28 東京大学
ポイント
- 2050年等長期の温室効果ガス削減目標の評価を世界各国で実施できる枠組みを提案
- 今後の機動的な政策変更、社会情勢等の様々な不確実性に対応した柔軟なシナリオを作ることで、世界全体の気候政策の前進を後押し
1.はじめに
2015年に採択されたパリ協定は、産業革命前から今世紀末までの地球の平均気温の上昇を2℃より十分低く保つとともに、1.5℃以下に抑えるような努力をすることで合意しました。この気候変動の抑制に求められる温室効果ガス(GHG)排出の大幅な削減については、日本でも2050年に100%のGHGの排出を削減することが首相より明言されており、他のいくつかの国も類似の長期目標を現在宣言しています。気候変動問題はその問題の特性上、長期的な視野に立った目標設定とそれに向けた施策実行が必要であり、その長期的な見通しとして研究者が作成する長期的なシナリオが用いられてきました。しかし、パリ協定では目標を5年毎に更新する仕組みができており、さらに近年、国が宣言する長期目標は2030年目標も含めると高頻度で改訂されるようになり(例えば2,3年に1度)、作成したシナリオがすぐに使えなくなるということが頻繁に起きるようになってきました。また、各国が気候政策をより真剣に考えるようになってきた今日、各国間での気候政策目標の違いやその意味、実現可能性や困難性、さらにエネルギーシステムや土地利用システムのマネジメント戦略等を比較評価分析することは必須と考えられます。そこで、本研究は、従来考えていなかったような、政策の不確実性に柔軟に対応できるようなシナリオの設計・フレームワークを提案しました。本提案は日本だけでなく世界のどの国でも使うことができ、今後の世界の気候政策を後押しするのに有用であると考えられます。
本研究成果は、2021年5月27日に国際学術誌「Nature Climate Change」のオンライン版に掲載されました。京都大学藤森真一郎准教授、大城助教らが主導し、東京大学未来ビジョン研究センター杉山昌広准教授はシナリオ設計の概念化、国立環境研究所の研究員はモデルの設定、日本のシナリオ結果のまとめに貢献しました。
2.結果
提案するシナリオのフレームワークは以下のようなものです。2030年の目標は現行の国が決定する貢献(日本の場合は26%削減)*1 とし、2050年の目標削減率を30%から100%まで10%刻みで仮定する複数のシナリオとなります。下の図1はそれを日本に適用したケースで、日本の気候変動対策に関して分析するモデルとしてよく用いられるAIMモデルを使用した結果を表示しています。このAIMモデルは将来の人口、GDPやエネルギー技術に関する想定などを入力し、エネルギー供給、消費量、GHG排出量、並びにマクロ経済影響等を出力するモデルです。エネルギー供給が70%削減くらいまでは大きく変わりませんが、80%から100%のあたりで省エネの強度と再生可能エネルギーの割合が急激に増えていく様子などがわかります。図2はアジアの5か国に適用した時の例で、CO2排出削減の基本的な戦略である電化率の向上とエネルギー源の低炭素化がCO2削減率の上昇と明瞭な形で相関関係にあることがわかります。
*1菅首相が2021年4月22日に2030年目標を46%排出削減にする方針を打ち出しましたが、本プレスリリース時点では日本がUNFCCCに提出している数値は26%です。
図1 日本のGHG排出量目標に応じたGHG排出量推移(左)、および2050年のエネルギー供給の変化(右)。
図2 CO2排出量目標とそれに応じた電化率、低炭素エネルギー源(再生可能エネルギー、原子力、CCS付き化石燃料)のシェア
3.今後の展望
今後は世界各国で本研究の提案を実装していくことで、1)世界全体の長期的目標の評価、2)国間での気候政策目標の比較評価をしていくことが課題であると考えています。
4.研究プロジェクトについて
本研究は:(独)環境再生保全機構環境研究総合推進費課題2-1908(アジアにおける温室効果ガス排出削減の深掘りとその支援による日本への裨益に関する研究)、1-2101(世界全域を対象とした技術・経済・社会的な実現可能性を考慮した脱炭素社会への道筋に関する研究)、日本学術振興会科研費基盤B(研究課題番号: 19H02273)、住友財団の支援を受けて実施されました。
論文情報
Shinichiro Fujimori, Volker Krey, Detlef van Vuuren, Ken Oshiro, Masahiro Sugiyama, Puttipong Chunark, Bundit Limmeechokchai, Shivika Mittal, Osamu Nishiura, Chan Park, Salony Rajbhandari, Diego Silva Herran, Tran Thanh Tu, Shiya Zhao, Yuki Ochi, Priyardarshi R. Shukla, Toshihiko Masui, Phuong V.H. Nguyen, Anique-Marie Cabardos, Keywan Riahi, “A framework for national scenarios with varying emission reductions (様々なGHG排出目標に対応した国別シナリオ評価のフレームワーク),” Nature Climate Change: 2021年5月27日, doi:https://doi.org /10.1038/s41558-021-01048-z.
論文へのリンク (掲載誌)
お問い合わせ先
<研究に関するお問い合わせ>
京都大学大学院工学研究科 都市環境工学専攻 大気熱環境工学分野・准教授
藤森 真一郎(ふじもり・しんいちろう)
東京大学 未来ビジョン研究センター・准教授
杉山 昌広(すぎやま・まさひろ)
国立環境研究所 社会システム領域・主任研究員
SILVA HERRAN Diego(すぃるばえらん・でぃえご)
<報道・取材に関するお問い合わせ>
京都大学 総務部広報課国際広報室
東京大学 未来ビジョン研究センター事務局 広報・国際チーム
国立研究開発法人 国立環境研究所 企画部広報室