エントロピーを用いた磁化のブラウン運動の新しい理解に基づき演算速度の向上に道筋
2021-03-18 東北大学,科学技術振興機構
ポイント
- スピントロニクス技術を用いた擬似的な量子ビット(確率ビット:Pビット)で1秒間に1億回以上状態を更新する重要技術を開発。
- エントロピーの概念を非平衡動的磁化過程へ導入することでPビットの高速動作原理を解明。
- Society5.0での活躍が期待される、複雑な計算問題の処理を得意とする「確率論的」コンピューターの開発を加速。
「量子コンピューター」や「確率論的コンピューター」など、「不確定性」や「確率性」を積極的に利用した従来にないコンピューターが注目を集めており、これらを実現するための、電子の持つ電気的性質と磁気的性質(スピン)の同時利用に立脚する「スピントロニクス」技術の活用が有望視されています。
東北大学 電気通信研究所の金井 駿 助教、早川 佳祐 博士前期課程学生、大野 英男 教授(現 総長)、深見 俊輔 教授らは、スピントロニクス技術を用いた擬似量子ビット(確率ビット:Pビット)素子を、1秒間に1億回(従来比100倍)動作(「物忘れ」)させるための重要技術を開発するとともに、これまで着目されてこなかった動的磁化状態の「エントロピー」を考慮することでその物理的起源が説明されることを示しました。本成果は、確率論的コンピューターの研究開発を加速するものです。加えて、「ゆらぎの定理」などの非平衡熱統計物理学の新概念とスピントロニクスをつなぐ革新的な手法を提供することが期待されます。
本研究成果は2021年3月17日付で米国の国際科学誌「Physical Review Letters」および「Physical Review B」で各1報ずつが連携論文として公開され、いずれの科学誌においても「編集者推薦論文」として高い評価を受けました。
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「スピンエッジコンピューティングハードウェア基盤」(研究代表者:佐藤 茂雄)JPMJCR19K3、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B)20H02178、基盤研究(S)19H05622などの支援を受けて行われたものです。
<論文タイトル>
- “Nanosecond Random Telegraph Noise in In-Plane Magnetic Tunnel Junctions”
(面内磁気トンネル接合におけるナノ秒ランダムテレグラフノイズ) - DOI:10.1103/PhysRevLett.126.117202
- “Theory of relaxation time of stochastic nanomagnets”
(確率論的ナノ磁性体の緩和時間の理論) - DOI:10.1103/PhysRevB.103.094423
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
金井 駿(カナイ シュン)
東北大学 電気通信研究所 助教
<JST事業に関すること>
舘澤 博子(タテサワ ヒロコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
<報道担当>
東北大学 電気通信研究所 総務係
科学技術振興機構 広報課