『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.17
図1-8 ロボット試験用水槽
水中ロボット等の試験に必要な水中環境が構築できます。ロボットの動作を水面上からだけでなく、側面の観察窓からも確認できるほか、水温の調節や塩水などへの水質変更が可能です。また、水槽には80 t の水が入るため、水温調整に必要な時間を合理的に設定することが必要です。
図1-9 室温から 60 ℃まで昇温した際の実測値と計算値
実測値は 6 月時に測定したデータを示しています。また、計算値は実測時の条件に揃えたもの、夏季と冬季のそれぞれの気温、水温、湿度を考慮したものを示しています。開発したコードは実測値を良く再現することができ、これにより、季節ごとの温度設計が可能となりました。
楢葉遠隔技術開発センター(NARREC)は、東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置のための遠隔操作ロボット等の試験を行うモックアップ施設として、2016年 4 月の本格運用開始時から多くの利用者を受け入れています。その設備の一つにロボット試験用水槽があります(図 1-8)。
本水槽は円筒形(内径 4.5 m、水深 5 m)のステンレス鋼をポリスチレン断熱材で覆った構成となっており、付帯設備の温水器によって熱した温水を供給・循環させることで、水温を室温から 60 ℃まで調節することが可能です。満水状態では約 80 t の水温を調節することから、室温から 60 ℃に昇温するために約 1 日、60 ℃から 20 ℃に降温(自然放熱)するには約 10 日間を要することが実測されています。
このため、水温調節時間を考慮した利用スケジュールを組んで対応する必要があります。加えて、夏季・冬季の気温や湿度の違いにより、水槽の外壁、底面及び水面からの放熱挙動が変化し、水温調節時間が変動するため、これらの条件を踏まえた合理的な水温調節時間の評価を行うことが課題でした。この対策として、雰囲気条件と水槽の構造をもとに、水槽からの放熱挙動をモデル化した温度挙動評価法を検討し、水槽の昇温及び降温評価用コードを開発しました。
図 1-9 には、実際に本水槽を 20 ℃から 60 ℃まで上昇させた際の実測値と、開発したコードによる計算値、さらに夏季と冬季で 60 ℃まで昇温させた条件での計算値を示しています。計算の条件は、実測値は気温24.7 ℃、水温 20.8 ℃、湿度 50.0% とし、夏季は気温35.7 ℃、水温 30.0 ℃、湿度 80.0%、冬季は気温 5.0 ℃、水温 2.0 ℃、湿度 20.0% としています。以上のことから、本コードが実測値を良く再現することを確認できました。また、夏季と冬季で 60 ℃になるまで、それぞれ23 時間、35 時間半要すると評価されました。このほか計算においては、温度を保つためには水槽上部をシート等で覆うことで放熱が抑えられることや、降温する際は水槽付帯の排気ダクトを併用することで降温時間が約半分になることが定量的に分かりました。
以上のことから、本コードを用いることによって季節による昇温挙動の違いを評価できるようになり、施設利用の準備期間検討が可能となりました。なお、本件に係る詳細情報は JAEA-Technology 2018-009、2018-013及び 2019-018 にて閲覧できます。(荒川 了紀)
●参考文献
荒川了紀ほか, ロボット試験用水槽の温度挙動に及ぼす影響因子, JAEA-Technology 2019-018, 2020, 157p.