AIを活用し、フレキシブル透明フィルム開発の実験回数を1/25以下に大幅低減

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相反する複数の要求特性がある機能性材料開発への応用展開に期待

2020-04-13 産業技術総合研究所

NEDOは、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクトに取り組んでおり、今般、同事業で先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、産業技術総合研究所、昭和電工(株)と共同で、フレキシブル透明フィルムの開発に人工知能(AI)を活用し、透過率、破断応力、伸びの3項目の特性に優れたフィルムの開発実験回数を従来比25分の1以下に低減することに成功しました。

これにより、相反する複数の要求特性がある機能性材料への応用展開が期待できます。

今後、このAIをさらに高度化させ、要求特性を満たしながらより良い物性値となる分子構造、配合比を予測できるように開発を進めます。

図1

図1 フレキシブル透明フィルムの用途例(フレキシブルデバイス)

概要

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、誘電材料、コンポジット材料、ポリマーブレンド、触媒、ナノカーボン材料、半導体などの有機・高分子系機能性材料を対象に、高度な計算科学、高速試作・革新プロセス技術および先端ナノ計測評価技術によって作成したデータ群と、人工知能(AI)技術などの融合により、“経験と勘”に依存する従来の材料開発と比べて試作回数・開発期間を20分の1に削減・短縮することを目標とする「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(以下、超超PJ)※1」に2016年度から取り組んでいます。

有機・高分子系機能性材料は、日本の素材産業が高い競争力を有する分野であり、省エネ効果や複合化による多種類の機能発現などの性能向上が期待されています。しかし、従来の機能性材料開発は、開発者の“経験と勘”に基づく仮説の検証や多数の実験など時間と労力のかかる手法で進められてきました。

そこで、NEDOと先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)、昭和電工株式会社(昭和電工)は、超超PJでの研究開発モデル材料であるフレキシブル透明フィルムの開発に人工知能(AI)を活用することにより、相反する透過率、破断応力、伸びの3項目の特性が等しい割合で最高となる要求を満たすフィルム開発の実験回数を従来比25分の1以下に低減することに成功しました。

これにより、相反する複数の要求特性がある機能性材料開発への応用展開が期待できます。

なお本日、超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)成果報告資料で本件の詳細を下記ウェブサイトで公開しました。

2019年度超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)成果報告資料
URL:https://www.admat.or.jp/news

今回の成果

NEDOとADMAT、産総研、昭和電工は、モバイル機器(図1参照)などの開発に欠かせないフレキシブル透明フィルムの設計にAIを活用して要求特性を満たすポリマーの探索を行うこととし、まず、27種類のフィルムを作成し、その原料の分子構造、配合比※2などの化学的な情報を独自の手法※3に倣って説明変数※4に落とし込み、目的変数※5にはトレードオフの関係にあり並立の難しい物性である換算透過率※6、破断応力、伸びの3項目を選択し、その実測データをAIに学習させました。

その後、多数の説明変数(分子構造)データを用意して、偏差値概念※7を導入したAIにこれら3項目が等しい割合で最大となるフィルムの配合を予測させ、その配合の通りにフィルムを作成して物性値を評価しました。同様に27種のフィルムのデータを実測した熟練研究員が自己の知見に基づき作成したフィルムの物性値をAIの配合のものと比較しました(図2参照)。

その結果、AIが予測した配合で作成したフィルムの物性値は、初期データである27種のフィルムの物性値を超えるだけでなく、比較実験によって熟練研究員が作成した25種類のフィルムの物性値よりも優れていることが判明しました(図3参照)。

以上から、並立しにくい物性を求める開発にAIを用いることは、研究者の知見のみに基づく実験に比べて実験回数を25分の1以下と大幅に削減できるだけでなく、研究者の経験知を超える開発も可能とすることを実証しました。

図2

図2 計算とプロセスの連携イメージ、実験回数の評価フロー

図3

図3 AIにより高効率にフレキシブル透明フィルムを探索できることを実証

図4

図4 AI予測を行い作製したフレキシブル透明フィルム

今後の予定

本事業では、このAIをさらに高度化させ、要求特性を満たしながらより良い物性値となる分子構造、配合比を予測できるように開発を進めます。

注釈

※1 超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(以下、超超PJ)

事業期間:2016年度~2021年度

※2 配合比

ここではモル比を用いました。分子の数に対応する物質量(単位はモル)の比のことです。

※3 独自の手法

D. Rogers, M. Hahn, J. Chem. Inf. Model. 50, 742 (2010).
T. Minami, et al., MRS Advances, 3(49), 2975 (2018)
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ciqs/2018/0/2018_1P10/_article/-char/ja※4 説明変数
ポリマー原料のモル比や官能基の種類など、予測の手がかりとなる変数のことです。

※5 目的変数

ポリマー物性など、予測したい変数のことです。

※6 換算透過率

熟練研究員によって実測された屈折率を透過率に換算したものです。

※7 偏差値概念

平均値が50、標準偏差が10となるように変数を規格化したものです。本件では、3つの目的変数(換算透過率、破断応力、伸び)を偏差値に変換して規格化する処理を実施しています。
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0504高分子製品0505化学装置及び設備1600情報工学一般
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