アルマ望遠鏡がとらえた、連星系を成す星の最期

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2020-02-06  国立天文台

アルマ望遠鏡によって、連星系 [1] を成すふたつの星が織りなす美しいガスの広がりが撮影されました。ひとつの星が年老いて大きく膨らんだことで、もう一方の星がそのガスの広がりに取り込まれてしまい、この星の動きによって年老いた星のガスが大量に宇宙空間にまき散らされてしまったのです。

ALMA image of HD101584

アルマ望遠鏡が撮影した、連星系HD 101584周囲のガスの広がり。色はガスの動きを表していて、赤が地球に対して遠ざかるガス、青が地球に対して近づくガス、緑はその中間の速度を持つガスです。中心の星から画像左右方向には、細長いガスの流れ(ジェット)が見えています。連星系は中心の明るい緑色の部分にあります。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Olofsson et al. Acknowledgement: Robert Cumming


人間と同じように、星にも一生があり、宇宙に輝いている星もいつかは最期の時を迎えます。星は年齢によって姿を変えていきますが、太陽のような星の場合、中心部にある水素を核融合反応で燃やし尽くしたときに最初の変化が訪れます。星は大きく膨らみ、赤くて明るい赤色巨星へと進化するのです。やがて、赤色巨星の外層部分のガスが宇宙空間に流れ出して惑星状星雲 [2] と呼ばれる星雲を形作り、星の中心部は白色矮(わい)星と呼ばれる高温高密度な天体として残されます。

しかし、ふたつの星がお互いに回りあう連星系の場合、一生の最後のようすは異なるようです。「今回観測したHD 101584という星は、特殊な星です。というのも、質量の小さい伴星が赤色巨星に取り込まれることによって、星の最期が普通の星とはまったく違うものになってしまっているのです。」と、この研究をリードしたスウェーデン・チャルマース工科大学のハンス・オロフソン氏はコメントしています。

オロフソン氏らの研究チームは、アルマ望遠鏡とその隣で欧州が運用する口径12m電波望遠鏡APEXによる観測を組み合わせ、連星系HD 101584を観測しました。その結果、この連星系に起きていることは、星どうしの激しいケンカのようなものだと明らかにしました。この連星系では、質量の大きい主星が先に赤色巨星へと進化し、質量の小さい伴星を取り込むほどに大きく膨らみました。その結果、伴星はらせん軌道を描きながら主星の中心へと落下していきますが、現在のところ主星の中心部と衝突するには至っていないようです。しかし、この伴星の動きが引き金になって、主星は短時間に大量のガスを宇宙空間に放出し、星の芯が外からも見える状態になってしまっています。単独の赤色巨星が白色矮星になるのに比べ、ずっと早く進化の最終段階に到達してしまっているのです。

今回の観測で写し出された星のまわりの複雑な模様は、伴星の動きによってかき乱され吹き飛ばされた赤色巨星のガスの他、左右方向に細く噴き出したガスによっても作り出されていることが明らかになりました。複雑なガスの動きによって、星のまわりにこの美しい構造が作られているのです。

今回描き出された赤色巨星のまわりのガス雲は、星々の重力的な争いによって生み出されたものですが、太陽のような星の最期の姿をよりよく理解するための手がかりを天文学者に与えてくれています。「太陽のような星が一生を終える様子は、一般論として大まかなシナリオを説明することはできますが、そこで起きることの具体的な理由やその過程を詳しく理解することはできていませんでした。今回観測したHD 101584は、赤色巨星と惑星状星雲というよく研究されたふたつの進化段階のちょうど中間に位置していて、進化の過程を解き明かすための重要なヒントを与えてくれます。HD 101584の構造を詳しく写し出すことで、元の巨星と惑星状星雲の間をつなぐことができるのです。」と、共同研究者であるスウェーデン・ウプサラ大学のソフィア・ラムステッド氏は語っています。

共同研究者で欧州南天天文台に勤めるエリザベス・ハンフリー氏は、動的なガス雲の物理と化学を研究するのにアルマ望遠鏡が重要な意味を持つと考えていて、「HD 101584の周囲の環境を写し出したこの驚くべき画像は、アルマ望遠鏡の素晴らしい感度と解像度無くしては得られないものです。」と語っています。

論文・研究チーム
この観測成果は、H. Olofsson et al. “HD 101584: circumstellar characteristics and evolutionary status”として、ヨーロッパの天文学専門誌「アストロノミー・アンド・アストロフィジクス」に掲載されました。

今回の研究を行った研究チームのメンバーは、以下の通りです。
H. Olofsson (Department of Space, Earth and Environment, Chalmers University of Technology, Onsala Space Observatory, Sweden [Chalmers]), T. Khouri (Chalmers), M. Maercker (Chalmers), P. Bergman (Chalmers), L. Doan (Department of Physics and Astronomy, Uppsala University, Sweden [Uppsala]), D. Tafoya (国立天文台), W. H. T. Vlemmings (Chalmers), E. M. L. Humphreys (European Southern Observatory [ESO], Garching, Germany), M. Lindqvist (Chalmers), L. Nyman (ESO, Santiago, Chile), and S. Ramstedt (Uppsala)

この解説記事は、欧州南天天文台が2020年2月5日に発表したプレスリリース “ALMA catches beautiful outcome of stellar fight”をもとに作成しました。

[1]
ふたつ以上の星がお互いの重力によって引き付けあい、お互いのまわりを回りあっているものを連星系と呼びます。天の川銀河に存在する星の半分以上は、連星系を成しています。

[2]
有名な惑星状星雲としては、こと座のリング星雲(環状星雲)などがあります(参考:すばる望遠鏡で撮影したリング星雲)。丸い形のものが多く、昔の望遠鏡で見た時に惑星のように見えたことからこの名がありますが、実際には惑星とは何の関係もありません。

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