再生可能エネルギーを利用したアンモニア合成に期待

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エネルギー問題、食糧問題の解決に寄与する高活性触媒を開発

2020-01-23 名古屋大学,科学技術振興機構(JST)

ポイント

  • 再生可能エネルギーで実現が可能な条件の下、高い活性を示す触媒(工業化に適した調製方法で容易にハンドリングが可能)を開発した。
  • 従来の触媒よりも、重量あたりで5倍のアンモニア生成速度を達成した。
  • 高いアンモニア生成活性の原因である特殊な表面構造の形成メカニズムとその作用を解明した。

名古屋大学 大学院工学研究科の佐藤 勝俊 招へい教員(京都大学 特定講師)、宮原 伸一郎 派遣職員、小倉 優太 博士研究員、永岡 勝俊 教授らの研究グループは、再生可能エネルギーの利用に適した温和な条件下で、極めて高いアンモニア合成活性(生成速度)を示す新型触媒(Ru/Ba/LaCeO)を開発しました。

アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり、エネルギーキャリア注1)としても近年注目されています。今回開発した触媒は既報の活性を大きく上回り、ルテニウム系の酸化物担持型触媒注2)として世界最高レベルの活性を実現しました。また、反応が起きる活性点(ルテニウムナノ粒子)の表面が強い塩基性を持つ酸化物のナノサイズの破片に覆われた特徴的な構造をしていること、この構造を構築するためには、従来は非常識と考えられていた高温での還元処理が重要であるということを、電子顕微鏡観察を中心とした最新の解析手法を駆使して明らかにしました。

本研究で開発した触媒は簡単に調製でき、取り扱いも容易なため、工業化にも適しており、再生可能エネルギー利用型アンモニア生産プロセスの実現が望まれます。また、今回の触媒設計を応用することで、さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。

この研究成果は、2020年1月14日付け米国科学雑誌「ACS Sustainable Chemistry and Engineering」オンライン版に掲載されました。

本研究は、JST CREST「エネルギーキャリアとしてのアンモニアを合成・分解するための特殊反応場の構築に関する基盤技術の創成(研究代表者:永岡 勝俊)」の支援のもとで行われたものです。

<研究背景と内容>

アンモニアは化学肥料の原料として重要な化学物質であり、世界の食糧生産の根幹を担っています。また、アンモニアは再生可能エネルギーの貯蔵、輸送を担う、水素・エネルギーキャリアとしても近年注目されています。このため、再生可能エネルギーの利用を目指したアンモニア合成触媒の開発が世界的に盛んとなっています。

現在主流の工業的アンモニア合成プロセスでは、鉄を主成分とする触媒を用い、非常に高い温度と圧力下(>450℃、>200気圧)でアンモニア合成が行われています。これに対して再生可能エネルギーの利用に適した、小型の分散型プロセスでは、再生可能エネルギーの供給状況に合わせてアンモニアを製造する必要があるため、温和な条件(325~400℃、10~100気圧)でアンモニアを効率的に生産できる高性能な触媒の開発が求められてきました。さらに、簡単に調製でき、安定で、取り扱いも容易な触媒であることも工業化を目指す上での重要な要素でした。

同研究グループでは、希土類注3)の酸化物にルテニウム(Ru)注4)を担持した触媒に注目した開発を進め、これまでにいくつかの高性能触媒を報告してきました。例えば、希土類の一種であるランタン-セリウム(La-Ce)の耐熱性複合酸化物にルテニウムを担持した触媒(Ru/La0.5Ce0.5)は当時世界最高レベルのアンモニア合成活性を示す触媒でした。今回、このRu/La0.5Ce0.5に強塩基性元素であるバリウム(Ba)を加え、これまでの常識よりも高い温度(700℃)で還元処理することによって、さらに高活性なRu/Ba/LaCeO(図1)を開発することに成功しました。開発した触媒は重量あたり生成速度換算で従来の高性能ルテニウム触媒のベンチマークとして知られているCs/Ru/MgOの5倍以上という、非常に高いアンモニア合成活性を示し、高効率でアンモニアを得ることができます(図2)。

さらに研究グループでは、球面収差補正走査透過電子顕微鏡(Cs-STEM)注5)を用いた高分解能観察とエネルギー分散型X線分光器(EDS)注6)による解析を行った結果、開発した触媒は以下の特徴を備えていることを明らかにしました。

①活性点であるルテニウムナノ粒子が微細な酸化物の破片で覆われている

図3のSTEM像から、ルテニウムのナノ粒子の表面が微細な酸化物の破片(ナノフラクション)で覆われていること、またEDSによる分析からナノフラクションにはバリウム、ランタン、セリウムといった強塩基性の元素が含まれていることが分かります。

②高温で還元処理することでバリウムの炭酸塩や水酸化物が完全に破壊される

これまでのアンモニア合成触媒の研究では、できるだけ低温で還元することで触媒の焼結を避けることが常識でしたが、本研究で開発した触媒は優れた耐熱性を持つため焼結が起こらず、これまでの常識よりもはるかに高い温度(700℃)で水素還元処理をすることができます。このため、炭酸塩や水酸化物を完全に破壊してバリウムの持つ優れた電子供与能を引き出すことに成功しました。また、図3に示したような特殊な表面像構造は高温での還元処理後にだけ形成されていることも明らかとなりました。

③強塩基性元素の酸化物を含むナノフラクションからの強力な電子供与によってアンモニア合成反応の律速段階である窒素分子の解離が促進される
<成果の意義>

ルテニウム、バリウム、ランタン、セリウムは比較的安価で入手でき、工業的にも広く利用されている元素です。また、開発した触媒は簡便な手法で調製でき、大気中で安定なため取り扱いも容易です。開発した触媒によって、再生可能エネルギーを利用したアンモニア生産プロセスが実現できれば、世界規模でのエネルギー問題、食糧問題の解決に寄与することができます。

また、今回の触媒設計を発展することで、さらに高活性なアンモニア合成触媒が創製できると期待できます。

<参考図>

 

再生可能エネルギーを利用したアンモニア合成に期待
図1 開発したRu/Ba/LaCeO触媒の模式図

ランタンとセリウムの複合酸化物上に担持された微細なルテニウムナノ粒子の表面を、バリウム、ランタン、セリウムを含む微細な破片状の酸化物が覆っている。


図2 開発した触媒と従来型の酸化物担持ルテニウム触媒のアンモニア生成速度の比較

開発したRu/Ba/LaCeO触媒は反応温度:350℃、空間速度:72Lgcat−1−1、反応圧力:10気圧という、再生可能エネルギーの利用を想定した温和な条件でも非常に高いアンモニアの生成速度を示した。また、現在の工業プロセスで用いられている鉄触媒は同様の条件(反応温度:340℃、空間速度:36Lgcat−1−1、反応圧力:9気圧)では十分なアンモニア生成速度が得られないことが分かる。

図3
図3 Cs-STEMによって観察した700℃還元後の開発触媒の表面状態とEDSによる元素マッピング

<用語解説>
注1)エネルギーキャリア
エネルギーの輸送、貯蔵のための担体となる化学物質。特に、アンモニアや有機ハイドライド、ギ酸など、海外など再生可能エネルギーが豊富な地域で得た電気エネルギーを化学的に変換して消費地まで貯蔵、輸送するのに用いられる化学物質を指す。
注2)酸化物担持型触媒
酸化物粉末の表面に、金属の微粒子や添加物を分散、析出させて担持させた触媒。酸化物粉末は担体とも呼ばれる。自動車触媒などの工業的に利用される固体触媒のほとんどは酸化物担持型触媒である。本研究では金属としてルテニウムを使用した。
注3)希土類
レアメタルの一種であり、周期表上では、第3族のうちアクチノイドを除く第4周期から第6周期までの元素を指す。セラミックス、触媒、磁石などに利用され工業的に重要な材料である。ランタン、セリウムなどの軽希土類は資源が世界的に広く分布しており、埋蔵量も比較的多いとされている。
注4)ルテニウム(Ru)
貴金属の一種であるが白金族元素の中では比較的安価であり、工業的にもさまざまな用途で利用されている。東京工業大学の尾崎 萃、秋鹿 研一らがアンモニア合成触媒として温和な条件で優れた特性を示すことを見いだし、1970年頃から先駆的な研究成果を発表している。
注5)球面収差補正走査透過電子顕微鏡(Cs-STEM)
試料にプローブとなる電子線を走査させながら、透過した電子や反射した電子を結像させナノスケールの観察を行う電子顕微鏡。近年の技術開発により対物レンズの収差を補正することでプローブ径を絞り、原子レベルでの高分解観察が可能な装置も登場している。
注6)エネルギー分散型X線分光器(EDS)
電子顕微鏡観察時に試料から放出される元素に固有なエネルギー値のX線を検出することで、試料内の元素の分布を解析することができる装置。
<論文タイトル>
“Surface dynamics for creating highly active Ru sites for ammonia synthesis: accumulation of a low-crystalline, oxygen-deficient nano-fraction”
DOI:10.1021/acssuschemeng.9b06299
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

永岡 勝俊(ナガオカ カツトシ)

名古屋大学 大学院工学研究科 教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)

科学技術振興機構 戦略研究推進部 グリーンイノベーショングループ

<報道担当>

名古屋大学 総務部 総務課 広報室

科学技術振興機構 広報課

0501セラミックス及び無機化学製品
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