若い星の周りで見つかった”稀な“分子~惑星形成過程に新たなヒント~

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2019-10-09 国立天文台

イギリス・リーズ大学のAlice Booth大学院生、Catherine Walsh フェロー、John Ilee研究員、オランダ・ライデン大学の野津翔太 日本学術振興会海外特別研究員、国立天文台の野村英子 教授らの研究グループは、アルマ望遠鏡を用いた観測を通じ、一酸化炭素の同位体分子種の中で最も量が少ない13C17Oという分子を、若い星を取り巻く塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)で初めて発見しました。この観測結果に基づくと、この原始惑星系円盤は実際には従来考えられていたよりも2倍から6倍程度も重いことが明らかになりました。このことは、円盤内で進む惑星形成過程の謎にも新たなヒントを与えると考えられます。

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アルマ望遠鏡で観測した若い星HD163296を取り巻く原始惑星系円盤。
緑色に着色した部分が今回新しく検出した13C17Oガスの分布。赤色は多重リング構造を示す塵の放射分布。青色は量が多い12C16Oガスの分布。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), University of Leeds

今回研究者らがアルマ望遠鏡を用いて観測したのは、地球から330光年程の距離にある形成途中の若い星HD 163296です。この星は周囲に塵とガスの円盤(原始惑星系円盤)を保持しています。
この星の円盤は、以前にもアルマ望遠鏡で様々な観測研究が行われています。例えば、塵が放つ電波の観測からは複数のリング構造が発見されていて、円盤内で誕生中の巨大惑星との関連が指摘されています。(参考:https://alma-telescope.jp/en/news/dsharp-201812)

今回研究チームは、この原始惑星系円盤をアルマ望遠鏡で高感度観測し、一酸化炭素の仲間(同位体分子種 [1] )の中で最も量が少ない13C17Oが放射する極端に弱い電波を検出することに成功しました。原始惑星系円盤で13C17Oが検出されたのはこれが初めてで、円盤のガス量を従来の観測より正確に求めることが可能になりました。その結果、円盤がこれまで考えられていたよりも重く、多くのガスを含むことが分かりました。

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若い星を取り巻く、原始惑星系円盤のイメージ図。
Credit: ESO/ L. Calçada

リーズ大学のAlice Booth氏は、「私達の観測によって、この原始惑星系円盤が従来の想定より2倍から6倍程度多くのガスを保持していることが示されました。この結果は円盤での惑星形成過程を考える上で、大変重要な発見になります。というのも、もし円盤がガスを大量に含んでいる場合、木星のような重い惑星をより大量に形成することができるからです。」 と語っています。

実はアルマ望遠鏡などによる近年の原始惑星系円盤観測の結果に基づき、惑星形成にまつわる一つの問題が指摘されていました。それは、円盤に含まれるガスと塵の量が少なく、太陽系の外で発見された系外惑星の質量分布を説明するには不十分なのではないかという問題です。

リーズ大学のJohn Ilee氏は、「惑星がいつ、どうやって形成されたのか。この問いに答える上でも、原始惑星系円盤と系外惑星の質量が一致しないという点は非常に深刻な問題でした。しかし、今回私達が観測したHD 163296と同様、他の天体の円盤でも同様に大量のガスが隠されていたとすれば、単に円盤のガスを少なく見積もりすぎていただけということになります。」

原始惑星系円盤において、一酸化炭素は一般的に水素分子の次に量が多く、また水素分子と比べて円盤の低温部まで簡単に観測できるため、円盤のガスの量や分布を調べる上でとてもよく使われる分子です。数ある一酸化炭素の同位体分子種の中でも、量が多い同位体分子種が放つ電波は強度も大きいため、よく観測されます。しかし量が多すぎるために、円盤の赤道面のような密度の高い領域では一酸化炭素分子自身が電波を吸収してしまい、地球から観測した時の電波が本来よりも弱くなった結果、ガスの量を少なく見積もってしまうという問題がありました。そこで今回の研究では、一酸化炭素の同位体分子種の中で最も量が少ない13C17Oが放つ電波をとらえることで、円盤の赤道面に隠されていたガスをもれなく観測することに成功し、円盤のガス量を正確に見積もることができました。

研究者らはアルマ望遠鏡を用いることで、他の原始惑星系円盤でも13C17Oという稀な一酸化炭素分子を観測できると期待しています。オランダ・ライデン大学の野津翔太氏(日本学術振興会 海外特別研究員)は、「原始惑星系円盤のガスの量を正確に測定することは、地球や木星のような惑星の材料となる物質の量を正確に測ることでもあり、惑星形成過程を明らかにする上で欠かすことができません。今後は今回用いた稀な一酸化炭素などを用いた観測を通じ、より多くの原始惑星系円盤で隠されたガスの量を見積もり、惑星形成の可能性を探っていきたいと考えています。」 と語っています。

関連するプレスリリース
“アルマ望遠鏡がシャープに捉えた惑星誕生20の現場”
https://alma-telescope.jp/news/dsharp-201812

論文・研究チーム
この観測成果は、Booth et al. “The first detection of 13C17O in a protoplanetary disk: a robust tracer of disk gas mass” として、天文学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に2019年9月12日に掲載されました。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/ab3645

今回の研究を行なった研究チームのメンバーは、以下の通りです。
Alice S. Booth (リーズ大学), Catherine Walsh (リーズ大学), John D. Ilee (リーズ大学), 野津翔太 (ライデン大学/京都大学), Chunhua Qi (ハーバード・スミソニアン天体物理学センター), 野村英子 (国立天文台/東京工業大学), 秋山永治 (北海道大学)

この研究は、日本学術振興会科学研究費補助金 (No. 16J06887, 17K05399, 19K03910), STFC (ST/R000549/1), 日本学術振興会 海外特別研究員制度 の支援を受けて行われました。
また本記事は、リーズ大学発行の以下のプレスリリース記事を元に、再構成・追記したものです。
http://www.leeds.ac.uk/news/article/4469/the_rare_molecule_weighing_in_on_the_birth_of_planets

[1]
分子を構成する原子には、わずかに重さの異なる仲間(同位体)が存在します。例えば炭素の場合、もっともありふれたものは6個の陽子と6個の中性子からなる炭素原子(12C)ですが、中性子を7個持つ13Cもわずかに存在します。また、酸素でもっともありふれているものは8個の陽子と8個の中性子からなる16Oですが、中性子を9個ないし10個持つ17O、18Oもわずかに存在します。こうした同位体からなる分子を、同位体分子種(アイソトポマー)と呼びます。

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