晩春~初夏の端境期に収穫できる大粒イチゴ新品種「そよかの」

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2019-09-05 農研機構

ポイント

農研機構は、青森県、岩手県、秋田県、山形県との共同研究により、イチゴ新品種「そよかの」を育成しました。「そよかの」は、寒冷地や高冷地における露地栽培1)、半促成栽培2)に向く品種です。晩春~初夏に収穫できる大粒のイチゴで、形の揃いが良く多収であり、果皮は明るい赤色です。

概要

イチゴは生食用、ケーキ等業務用として年間を通して需要がありますが、6月~11月にかけては端境期で生産量が落ち込みます。東北地方や北海道などの寒冷地や高冷地では、その冷涼な気候を生かして、6月前後に果実を出荷する露地栽培や半促成栽培が行われており、イチゴの周年供給に寄与しています。しかし、これらの栽培で用いられている品種は、収穫期後半の果実の小粒化や形の乱れ、果皮色の黒変などの問題点があり、それらの点を改良したイチゴ品種が望まれていました。

そこで農研機構東北農業研究センターは、青森県、岩手県、秋田県、山形県 との共同研究により、5月~7月頃に収穫できる大粒のイチゴ新品種「そよかの」を育成しました。

「そよかの」は、極晩生3)の一季成り性イチゴ4)で、果実は平均16g程度と大粒です。果実の形の揃いが良く、多収です。果皮は明るい赤色であり、収穫後の黒変は認められません。また、トヨタ自動車(株)との共同研究により、東北地方や北海道等で発生するうどんこ病レース0ゼロ5)に対して抵抗性を有することを確認しています。

東北地方などの寒冷地や高冷地で行われている露地栽培および半促成栽培への普及が期待されます。

関連情報
予算:

運営費交付金

品種登録出願番号:

第33721号 (令和元年7月4日出願公表)

お問い合わせ

研究推進責任者
農研機構東北農業研究センター 所長 湯川 智行

研究担当者
同 畑作園芸研究領域 主任研究員 本城 正憲

広報担当者
同 企画部産学連携室長 渡辺 満

詳細情報

新品種育成の背景と経緯

イチゴは生食用、ケーキ等業務用として年間を通して需要がありますが、6月~11月にかけては生産量が落ち込み、端境期となっています(図1)。東北地方や北海道などの寒冷地や高冷地では、その冷涼な気候を生かして、6月前後に果実を出荷する露地栽培や半促成栽培が行われており、イチゴの周年供給に寄与しています。しかし、これらの栽培で用いられている品種は、収穫期後半の果実の小粒化や形の乱れ、収穫後の果皮色の黒変や着色不良などの点で改良の余地がありました。

そこで、農研機構東北農業研究センターでは、青森県、岩手県、秋田県、山形県と共同研究を行い、大粒で形の揃いが良くて収量が多く、収穫後も果皮が黒ずみにくいイチゴ新品種「そよかの」を育成しました。

新品種「そよかの」の特徴
  1. 多収性で極晩生の「豊雪姫とよゆきひめ」6)を母とし、食味が良く果実が硬めであり、うどんこ病レース0抵抗性をもつ「さちのか」を父とした交配を2008年に行い、選抜により「そよかの」を育成しました。
  2. 寒冷地や高冷地における露地栽培や半促成栽培に適する極晩生の一季成り性品種です。
  3. 葉は大きく立ち上がって大株となり、ランナー7)も十分に発生します(表1、図2)。
  4. 露地栽培および半促成栽培の一種である低温カット栽培2)のいずれにおいても、平均1果重は16g程度と、同時期に収穫できる「北の輝きたのかがやき」8)や「豊雪姫」(いずれも1粒12g~14g前後)より大粒です。また「そよかの」は、乱形果や奇形果の発生が少ないことから、高い商品果率が期待できます(表2)。 商品果収量は「北の輝」より多く、「豊雪姫」と同程度です。
  5. 果実は円錐形で揃いに優れ(表3および図2、図3) 、果皮は明るい赤色で、収穫後の果皮色の黒変は認められていません。果実は「北の輝」より柔らかく、「豊雪姫」より硬くなります。果実糖度は中程度、酸度はやや高く、食味は中~やや良です。
  6. 東北地方等で発生がみられるうどんこ病レース0に対して、「北の輝」や「豊雪姫」は罹病性ですが、「そよかの」は抵抗性を示します(表1)。萎黄病いおうびょうに対しては罹病性です。
栽培適地と栽培上の留意点

生食用および業務用として、東北地方などの寒冷地・高冷地における露地栽培や半促成栽培に適します。萎黄病に対しては罹病性であるため、育苗期を含め予防的な防除に努めるとともに、健全な親株から増殖を行う必要があります。果実硬度は中程度のため、適期収穫に努めることが重要です。

品種の名前の由来

初夏に、そよかぜの吹き渡る野で収穫できるイチゴとのイメージから「そよかの」と命名しました。

今後の予定・期待

青森県、秋田県、岩手県、福島県などの寒冷地・高冷地での栽培が予定されています。冬~春に収穫される促成栽培の果実が少なくなる晩春~初夏の需要に貢献することが期待されます。

原種苗入手先に関するお問い合わせ

農研機構東北農業研究センター 企画部 産学連携室 産学連携チーム

利用許諾契約に関するお問い合わせ

農研機構本部 知的財産部 知的財産課 種苗チーム

用語の解説

1)露地栽培

作物を屋外の畑で栽培することを「露地栽培」と呼びます。日本におけるイチゴ生産は1960年代頃まで露地栽培が主流でした。露地栽培によるイチゴは、晩春~初夏に収穫されます。その後、ビニールハウスや暖房設備の普及により、イチゴの収穫期間は拡大し、今ではそれらの設備を用いて冬~春(12月~5月頃)に果実を生産する「促成栽培」が主流となっています。その結果、冬場に生産のピークが移る一方、晩春~初夏の生産量はかつてより落ち込み、端境期となっています。

2)半促成栽培、低温カット栽培

「半促成栽培」は、主に4月から7月頃にかけて果実を収穫する作型で、北海道や東北地方などの寒冷地や高冷地で行われています。半促成栽培では、畑への苗の植え付けを前年の晩夏~秋に行いますが、冬季における加温の有無により、加温半促成栽培、無加温半促成栽培などに細分化されます。
「低温カット栽培」は無加温半促成栽培の一種で、冬季に灯油等を用いた加温をせず、トンネル被覆やべたがけ等による保温のみで栽培します。

3)極晩生(ごくばんせい)

作物の品種には、収穫時期が早いもの(早生)から遅いもの(晩生)まで様々あり、中でも特に遅いものを極晩生といいます。極晩生のイチゴ品種は、主に5月から7月にかけて果実を収穫する露地栽培や半促成栽培に利用されます。

4)一季成り性イチゴ(いっきなりせいイチゴ)

イチゴには、一季成り性と四季成り性があります。一季成り性イチゴは、低温、短日条件で花芽を作り、主に冬から春にかけて収穫されます。代表的な品種に、「とちおとめ」「福岡S6号(商標名:あまおう)」「恋みのり」などがあります。
一方、四季成り性イチゴは、夏季の長日条件下でも花芽を作り、夏や秋でも果実を収穫できます。四季成り性イチゴは、主に夏秋期のケーキ用に利用されています。

5)うどんこ病レース0(うどんこびょうレースゼロ)

うどんこ病はイチゴの重要病害の1つで、うどんこ病菌の感染により発症します。発症すると、葉や果実がうどんこ(小麦粉)をかけたように白くなり、収量や商品価値が低下します。イチゴのうどんこ病菌には2つのタイプ(レース0とレース1)が知られており、それぞれ感染するイチゴ品種が異なります。レース0は、東北地方や北海道でも発生が認められています。

6)豊雪姫(とよゆきひめ)

農研機構東北農業研究センター育成の極晩生の一季成り性品種です。北東北地域における露地栽培、半促成栽培に利用されており、収量が多いことが特徴です。

7)ランナー

イチゴは株からランナー(匍匐枝、匍匐茎ともいう)とよばれる”つる”を伸ばし、その”つる”の先に子株をつけます。これらの子株は親株と同じ遺伝子をもつクローンであり、これを利用して苗を増やします。

8)北の輝(きたのかがやき)

農研機構東北農業研究センター(旧野菜・茶業試験場盛岡支場)育成の極晩生の一季成り性品種です。促成栽培用品種の収穫が終わった頃から収穫が始まり、主に北東北地域における露地栽培、半促成栽培に利用されています。果実が硬く輸送性に優れます。

参考図

図1

図1日本における月別イチゴ卸売数量と価格(H30農林水産省青果物卸売市場調査より)

「そよかの」は、寒冷地・高冷地における露地栽培や半促成栽培において、イチゴの流通量が減る6月前後に収穫できます。

表1「そよかの」植物体特性

表1

表2「そよかの」収量特性

表2

表3「そよかの」果実特性

表3

図2

図2「そよかの」植物体

株の中心部から葉が立ち上がり、草姿は立性です。

図3A図3B

図3「そよかの」果実

果実は円錐形で、揃いが良く、果皮は明るい赤色です。

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