花崗岩内の物質移動経路に関する新知見~斜長石の熱水変質で生じる微小孔の役割と物質移動の解明~

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2019-04-12 山形大学,(株)蒜山地質年代学研究所,日本原子力研究開発機構,熊本大学

【本件のポイント】

  • 中部日本の土岐花崗岩を対象とした研究により,花崗岩(※1)中に多く含まれる斜長石(※2)の熱水変質現象(※3)で生じる花崗岩中の物質の移動経路としての微小孔(※4)の成因と役割を解明。
  • さらに,斜長石の熱水変質現象に関する検討を通じ,7,000万年前から5,000万年前の花崗岩冷却時の地下水の長期的な水質変化を把握するために有用な方法を提示。

【概要】

山形大学学術研究院の湯口貴史准教授(地球科学),(株)蒜山地質年代学研究所の八木公史博士,日本 原子力研究開発機構の笹尾英嗣博士,石橋正祐紀博士,熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)の 西山忠男教授らの研究グループは,中部日本の土岐花崗岩を研究対象とし,斜長石の熱水変質現象に伴い生じる数マイクロメートル程度の微小孔(図1)の成因と地下環境中での物質移動経路としての役割を解明しました。

花崗岩中に普遍的に観察できる斜長石では,熱水変質現象により斜長石中に微小孔が生じ,これが斜長石内部の変質を促進します。このことは微小孔が物質の新たな移動経路となり得ることを示しています。変質の幅と鉱物年代から,この微小孔を通路とした物質の移動速度は,土岐花崗岩中の割れ目を経路とする平均的な物質移動速度よりも一千億分の一程度小さい速度となることが分かりました。さらに,熱水変質現象でできた鉱物は物質を捕らえる機能も有するため,微小孔は,地質環境での物質の移動を評価する上で重要な要素の1つとなるという知見を得ました。

また,花崗岩中の斜長石の熱水変質現象のメカニズムを検討することにより,花崗岩冷却時(※5)(特に7,000万年前から5,000万年前の間)の地下水の水質変化を把握する方法を見出しました。

地質環境特性(地下水の流動経路や水質の長期的な変化)の把握は,深部地質領域(地下深部に分布する岩石領域)を活用する事業(天然ガス・石油の地下貯蔵)や研究開発(高レベル放射性廃棄物の地層処分など)において重要な知見となります。本研究成果は,国際学術雑誌の「American Mineralogist」に掲載されました。

花崗岩内の物質移動経路に関する新知見~斜長石の熱水変質で生じる微小孔の役割と物質移動の解明~

図1 土岐花崗岩体の岩石写真,斜長石中の変質を示す光学顕微鏡写真,電子顕微鏡写真(組成の違いを反映)左から右に向けてマクロからミクロへのスケールの変化を表しています。
斜長石の中心部において変質が生じています(光学顕微鏡写真の高輝度領域)。
電子顕微鏡写真の数マイクロメートル程度の黒色領域が微小孔(micropore)。

【背景】

現在,日本では深部地質領域(地下深部に分布する岩石領域)を活用した事業(天然ガス・石油の地下 貯蔵など)や活用に向けた研究開発(高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究など)が行われています。これらの事業や研究開発はマグマが固まった岩石(主に花崗岩)を対象に実施されているものが多く,花崗岩における地質環境特性(地下水の流動経路や水質の長期的な変化)の把握は,このような事業を安全に行う上で重要であり,研究開発の重要な課題です。

特に,高レベル放射性廃棄物の地層処分の安全評価においては,地下水によって廃棄物から漏れ出した 放射性物質が処分施設から人間環境に運ばれることを想定しており,その場合,地下水流動や物質移動の経路の把握,地下水の水質の数万年にわたる変遷の解明が重要となります。

以上のような課題を踏まえて,本研究グループでは新たな視点として,花崗岩冷却時に生じる斜長石の熱水変質現象に着目して調査研究を実施しました。花崗岩冷却時に熱水変質現象が生じることは既存研究により報告されていましたが,変質の際の鉱物への流入成分と鉱物からの流出成分の移動経路や,熱水変質現象に伴う鉱物の溶解と新たな鉱物形成に関しては未解明な点が残っていました。斜長石は花崗岩中で普遍的に観察される鉱物であることから,斜長石の熱水変質現象に伴う水質変化を明らかにすることで,花崗岩中の地質環境特性を把握することが可能となります。

【研究手法・研究成果】

研究対象とした土岐花崗岩は,岐阜県東濃地域に分布する白亜紀後期(約7,000万年前)にできた花崗岩です(図2)。一般的に地表で採取された岩石試料は風化の影響を受けますが,今回使用した岩石試料は,日本原子力研究開発機構の地下研究施設である瑞浪超深地層研究所(岐阜県瑞浪市:図2)の深度500mから採取しているため,風化の影響が少なく,花崗岩冷却時の初期的な変質現象のみを評価できます。

光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いた岩石試料のマイクロメートルレベルの詳細な観察の結果から,

変質でできた鉱物の領域(変質領域)と,変質領域中に分布する数マイクロメートル程度の微小孔(図1)の間には正の相関があることが分かりました(図3)。つまり,微小孔の面積が大きいと,変質領域の面積も大きくなることを示しています。このことは,斜長石中の微小孔は熱水変質現象によって生じ,微小孔同士がお互いに連結することでネットワーク構造を形成し,このネットワーク状の微小孔が新たな物質移動の経路となることで,斜長石内部の変質が促進されたことを示しています。また,鉱物年代の検討の結果,熱水変質現象をもたらす物質の移動速度は,非常に遅いことが分かりました(3.8 × 10-11 ~ 6.8 × 10-11m/年:斜長石中の微小孔が連結し,物質移動が生じた長さを変質が生じる期間で割った値)。この微小孔に伴う物質の移動速度は,土岐花崗岩中の割れ目を経路とする平均的な物質移動速度よりも一千億分の一程度の低い速度となります。加えて,既存研究において,変質領域にできた鉱物は物質を化学的に捕まえる機能が高いことが報告されています。すなわち,微小孔が物質の移動を遅らせる機能があると言えます。

また,花崗岩中の斜長石の熱水変質現象に関する検討結果に基づき,花崗岩冷却時(7,000万年前から5,000万年前の間)の地下水の水質の長期的な変遷を把握する方法について,以下の知見を得ました。

花崗岩冷却時における地下水の水質の長期的な変遷を復元するためには,水質の変化を記録しつつ,形成された変質鉱物の物質移動特性を把握することが有効であること。

その上で,斜長石の熱水変質現象に伴って生じる鉱物に着目した詳細な観察,化学分析,年代測定の結果を併せて議論することが重要であること。

図2 土岐花崗岩の位置図(A),土岐花崗岩が位置する東濃地域の地質図(B:赤色部分が土岐花崗岩の分布領域を示す),岩石種の違いを示す断面図(C:BのXからX’までの断面図であり,色の相違は岩石種の違いを表す)(Yuguchi et al., 2018を一部改編)

図3 変質領域と微小孔領域の面積の関係
両者の間には正の相関を有する。

【用語解説】

1.花崗岩:

地下に貫入したマグマが地表まで到達せずに,地殻中にマグマ溜りとしてゆっくりと冷え固まった岩石(深成岩)のうち,主に石英と斜長石,カリ長石で構成される岩石。深成岩の一種。日本列島の地下には基盤岩として広い領域に分布。

2.斜長石:

マグマ溜りが冷却固化した深成岩や,火口近くで急激にマグマが冷えて固まった火山岩に広く観察される鉱物。シリカ,アルミニウム,カルシウム,ナトリウムなどを含む。

3.熱水変質現象:

熱水とはマグマの冷却に伴い,鉱物が晶出した後に残る深成岩体中の高温(数百度程度)の水溶液。深成岩体内を循環するこの熱水と深成岩体中の鉱物が接することで,元々の鉱物が異なる鉱物に変化,あるいは岩石組織が変化する現象を熱水変質現象という。

4.微小孔:

斜長石などの鉱物中に観察される孔状の微小(数マイクロメートル程度)な空隙。

5.花崗岩冷却時:

マグマが地表に到達すると,ゆっくり冷え固まり岩石(花崗岩)に変化する。その時の温度は約700℃。花崗岩はこれ以降も冷却され,この冷却されている時期を「花崗岩冷却時」という。この花崗岩冷却時に熱水変質現象が生じる。

【論文情報】

雑誌名:American Mineralogist,104, 536-556(2019)

論文タイトル:Role of micropores, mass transfer, and reaction rate in the hydrothermal alteration process of plagioclase in a granitic pluton

著者名:湯口貴史1,菖蒲澤花穂2,小北康弘2,八木公史3,石橋正祐紀4,笹尾英嗣4,西山忠男5

所属:1. 山形大学学術研究院 2. 山形大学理学部 3. 蒜山地質年代学研究所 4. 日本原子力研究開発機構 5. 熊本大学先端科学研究部理学系

DOI:https://doi.org/10.2138/am-2019-6786

公表:2019年4月2日号(2019年1月11日オンライン公開)

【特記事項】

本研究は2016年度から2019年度の科学研究費補助金(若手研究A 16H06138)の支援を受けて行われました。

参考部門・拠点:東濃地科学センター

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