2019-04-09(ハワイ現地時間) 国立天文台
NASA ジェット推進研究所、東北大学、国立天文台、情報通信研究機構などの研究チームは、太陽風によって木星の極域で生じるオーロラが、従来考えられていたよりも深い部分まで木星大気を加熱していることを、すばる望遠鏡の中間赤外線カメラ COMICS による観測から明らかにしました。さらに、太陽風が木星にぶつかると、木星大気の様子が速やかに変化することもわかりました。
観測データからこの結果を導いたジェームズ・シンクレアさん (NASA ジェット推進研究所) は、「太陽風がもたらす『宇宙天気』現象の最も顕著な例が、木星に与える影響です。太陽から吹き付けられるプラズマが、これまで考えられていたよりも木星大気の深い所まで影響を及ぼしている様子が、今回まさに観測されたのです」と、発見の意義を強調します。
図1: すばる望遠鏡の中間赤外線カメラ COMICS で撮影された木星の中間赤外線画像。この波長での画像は木星の成層圏の温度をよく反映しています。太陽風が木星の磁気圏と相互作用するとオーロラが生じ、木星の極域における大気の加熱に寄与すると考えられます。これらの画像は2017年1月11-12日にわずか数時間おきに撮影されたものですが、太陽風の影響で木星大気の輝度分布が素早く変化しているのがわかります。(クレジット:国立天文台/NASA/JPL-Caltech)
地球のオーロラは、太陽から吹き出されたプラズマである「太陽風」が地球大気中のガスと相互作用するときに起こります。こうして生じたオーロラは地球大気を加熱します。木星でも同じことが起こりますが、今回のすばる望遠鏡による新しい観測から、木星のオーロラが、木星大気の深い部分、つまり成層圏までも加熱に影響を与えていることが明らかになったのです。
「木星の成層圏が太陽風の変動に対してどのように応答するのかを、初めて関連付けることができました。そしてその応答が非常に素早いということが明らかになりました。これは驚くべき結果です」と述べるのは、研究チームのグレン・オールトンさん (NASA ジェット推進研究所) です。研究チームは、太陽風が木星にぶつかってから1日以内に、木星大気中の化学的性質が変化し大気の温度が上昇したことを、今回の観測で明らかにしました。 2017年1月、2月、5月に行われた観測キャンペーンの間に撮影された中間赤外線画像は、木星のオーロラが生じる極域に現れた「ホットスポット」をはっきりと写し出しています。
研究チームの藤吉拓哉さん (国立天文台ハワイ観測所) は、「すばる望遠鏡による今回の観測は、米国 NASA の木星探査機『ジュノー (Juno)』を地球から支援する国際協調観測キャンペーンの一環として行われました。すばる望遠鏡と『ジュノー』の協調観測により、木星オーロラやその太陽風との関係の全貌が見えてきそうで楽しみです」と語ります。
さらに、すばる望遠鏡を使った木星観測プログラムの研究代表者の一人である笠羽康正さん (東北大学) は、「この成果は、太陽活動によって宇宙空間から降り注ぐ高エネルギー粒子が、木星大気の加熱や化学反応を引き起こすことを明確に示しました。このような現象は、強い太陽・恒星活動にさらされる過酷な環境を持つ惑星、例えば若かりし頃の地球や、他の恒星を巡る系外惑星の大気中で起きえる複雑な有機化学反応について、手がかりを与えてくれるものでもあります」と、さらなる展開について期待を語っています。
本研究成果は、英国の天文学誌『ネイチャー・アストロノミー 』に2019年4月8日付でオンライン出版されました (J. A. Sinclair, G. S. Orton, J. Fernandes, Y. Kasaba, T. M. Sato, T. Fujiyoshi, C. Tao, M. F. Vogt, D. Grodent, B. Bonfond, J. I. Moses, T. K. Greathouse, W. Dunn, R. S. Giles, F. Tabataba-Vakili, L. N. Fletcher & P. G. J. Irwin, “A brightening of Jupiter’s auroral 7.8-micron CH4 emission during a solar-wind compression”)。また本研究成果の元になった観測の一部は、すばる望遠鏡とケック天文台との時間交換プログラムによって実行されたものです。