既設の空調システムと比較して運用コスト73%削減を確認
2019-02-07 新エネルギー・産業技術総合開発機構,岐阜大学
NEDO事業において、岐阜大学は、東邦地水(株)、ゼネラルヒートポンプ工業(株)、(株)テイコクとともに、通常地域とは異なり、地下水温度が夏季に低下、冬季に上昇する特性を持つ岐阜県の長良川扇状地を実証エリアとして特定し、岐阜市内の公民館建屋に地下水を直接活用するオープンループ型地中熱利用空調システムを導入し、実証運転を行い、既設の吸収式冷温水機空調システムと比べて運用コストを73%削減できることを確認しました。
今後、岐阜大学は稼働データモニタリングおよびシステム効率などの検証を行うとともに、本システム普及に向けて、地中熱の採熱可能量を可視化するためのポテンシャルマップの作成を進めます。
図1 岐阜市内の公民館建屋に導入したオープンループ型地中熱利用空調システム
図2 長良川扇状地図
1.概要
地中熱利用空調システムは、地中の熱を取り出し、ヒートポンプで効率よく熱を輸送して、室内で冷・暖房に利用するシステムです。地中熱は、他の再生可能エネルギーと比較してシステム機器の設置場所の制約が少なく、安定供給が見込めるなどのメリットがあることで知られています。しかしながら、コストの問題により利用が十分には進んでおらず、システム全体の高効率化などによりコスト低減を図ることが、地中熱利用を促進するために必要不可欠となっています。
通常、多くの地域では、地下10m以深における地下温度がその地域の年平均気温とおおよそ一致しますが、地下水温度が季節変動する条件有利地域※1では地下温度が夏季に下がり、冬季に上がるため、より高効率な熱利用が期待されます。しかし、これまでは、長良川北部のような複数の河川や旧河川が存在する地域では、地下水の流れが複雑であり、精度の高い条件有利地域の抽出が困難でした。また条件有利地域で地中熱利用空調システムを導入・実証した事例はありませんでした。
そこで、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業※2で国立大学法人岐阜大学は、東邦地水株式会社、ゼネラルヒートポンプ工業株式会社、株式会社テイコクとともに、条件有利地域の抽出手法の確立とシステム全体の高効率化による運用コスト低減を図るために、夏季の温かい河川水や冬季の冷たい河川水が地下に浸透して地下水となり、温水塊や冷水塊として帯水層※3内を移動する岐阜県の長良川扇状地を実証エリアとして特定し、岐阜市内の公民館建屋にオープンループ型地中熱利用空調システム※4を導入し、実証運転を行いました。
その結果、夏季には半年前に形成された冷水塊の影響で地下水温度が低下、冬季には半年前に形成された温水塊の影響で地下水温度が上昇する地下水のこうした特性を活用することにより、既設の吸収式冷温水機※5による空調システムと比較して、運用コストを73%削減できることを確認しました。
図3 条件有利地域(長良川扇状地)での地下水特性利用イメージ
2.今回の成果
本事業では、岐阜大学が条件有利地域を抽出する地下温度観測方法の確立と実証運転システムの稼働データモニタリングおよびシステム効率などの検証、東邦地水(株)が地下水逆洗運転システム※6の開発、ゼネラルヒートポンプ工業(株)が地下水熱交換ユニットの開発、(株)テイコクが浸透ます※7設置の適地選定技術の開発の役割を担いました。
【1】条件有利地域における高効率空調システムの実証
これまで実証事例のない条件有利地域に、クローズドループ型システム※8と比較して設置コストが低く、地下水の熱を直接利用するオープンループ型地中熱利用空調システムを導入した結果、既設の吸収式冷温水機による空調システムと比較して、ヒートポンプによる高効率化で31%、地下水熱交換ユニットによるポンプ動力削減の効果で42%、合計73%の運用コスト削減を達成しました。
【2】条件有利地域を抽出する地下温度観測方法の確立
複数の河川や旧河川が存在する地域での、これまでの観測方法では、条件有利地域の正確な抽出が困難でした。今回、観測箇所を増やし、地下水の流れを正確に把握することで、精度よく条件有利地域を抽出することが可能となりました。
<利用機器>地中熱利用空調システム
- 地下水熱交換ユニット(インバーター仕様、1基)
- ヒートポンプ(冷暖房出力50kW級、インバーター仕様、1基)
- 地下水逆洗運転システム
構成内訳:循環井戸(口径φ150mm 深さ20m、2本)
地下水揚水ポンプ(定格出力2.2kW、インバーター仕様、2基)
3.今後の予定
NEDOと岐阜大学は、条件有利地域におけるオープンループ型地中熱利用空調システムの稼働データモニタリングおよびシステム効率などの検証を行うとともに、システム普及に向けて地中熱の採熱可能量を可視化するためのオープンループ型地中熱利用システムを対象としたポテンシャルマップの作成を進めます。さらに2019年度以降、東邦地水(株)とゼネラルヒートポンプ工業(株)は、ポテンシャルマップを活用し、地下水逆洗運転システム、地下水熱交換ユニットを備えたオープンループ型地中熱利用システムの事業化を計画しています。
【注釈】
- ※1 条件有利地域
- 通常地域とは異なり、地下水温度が夏季に低下、冬季に上昇する特性を持つ地域のことです。
- ※2 NEDO事業
- 事業名:再生可能エネルギー熱利用技術開発/再生可能エネルギー熱利用のポテンシャル 評価技術の開発/オープンループ型地中熱利用システムの高効率化とポテンシャル評価手法の研究開発
事業期間:2015年度~2018年度
実施体制:(委託先)国立大学法人岐阜大学、東邦地水株式会社、株式会社テイコク
(再委託先)国立大学法人信州大学、ゼネラルヒートポンプ工業株式会社、
ヤマカトラス トホームズ株式会社 - ※3 帯水層
- 地下水で満たされた砂層や礫層など透水性が高い地層です。
- ※4 オープンループ型地中熱利用空調システム
- 汲み上げた地下水の熱を地表にあるヒートポンプで、空調熱源として活用する方式です。このシステムは他の方式と比べ、設置コストが安く、経済性に優れています。
- ※5 吸収式冷温水機
- 水を冷媒とした空調システムであり、「蒸発」「吸収」「再生」「凝縮」の4作用を利用して冷水および温水を得る装置です。
- ※6 地下水逆洗運転システム
- オープンループ型地中熱利用システムで、汲み上げた地下水の流れ方向を変えることで、汲み上げ配管内部のストレーナ周囲に付着したゴミなどを除去する運転のことです。
- ※7 浸透ます
- 地表に設置して、水を地下に浸透させる設備です。一般には、雨水に対して用いられます。
- ※8 クローズドループ型システム
- 地下に埋設した専用の熱交換器から、間接的に取り出された熱を、地表にあるヒートポンプで活用するシステムです。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 新エネルギー部 担当:藤田、増田
岐阜大学 工学部 担当:大谷
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、藤本、佐藤