日本周辺の地震規模も再評価する必要性を示唆
2018/11/20 京都大学
エマニュエル・ソリマン・ガルシア 防災研究所特定研究員、ディエゴ・メルガー オレゴン州立大学助教らの、日本、アメリカ、中国、メキシコからなる国際共同研究グループは、2017年メキシコ・チアパス州沖合で発生したマグニチュード8.2の地震について、周囲で観測された地震動や地殻変動記録を用いた地震の震源モデルについて再解析を行ったところ、沈み込むプレート内のほぼ全部を破壊する地震であった可能性が示されました。
本研究成果は、日本周辺で沈み込むプレート内部で発生する地震の規模が、従来のプレート内部の応力場および温度モデルから推定されていたものよりも大きくなりうる可能性を示しています。今後沈み込み帯の地震発生ポテンシャルと、それに伴う津波被害の評価を行う上で重要な成果です。
本研究成果は、2018年10月1日に、国際科学誌「Nature Geoscience」のオンライン版に掲載されました。
図:2017年メキシコ・チアパス州沖合で発生した地震の模式図
書誌情報
【DOI】https://doi.org/10.1038/s41561-018-0229-y
Diego Melgar, Angel Ruiz-Angulo, Emmanuel Soliman Garcia, Marina Manea, Vlad. C. Manea, Xiaohua Xu, M. Teresa Ramirez-Herrera, Jorge Zavala-Hidalgo, Jianghui Geng, Nestor Corona, Xyoli Pérez-Campos, Enrique Cabral-Cano & Leonardo Ramirez-Guzmán (2018). Deep embrittlement and complete rupture of the lithosphere during the Mw 8.2 Tehuantepec earthquake. Nature Geoscience.
詳しい研究内容について
―日本周辺の地震規模も再評価する必要性を示唆― 概要京都大学防災研究所のエマニュエル・ソリマン・ガルシア特定研究員およびオレゴン州立大学のディエゴ・ メルガー助教らからなる国際共同研究グループ( 日本、アメリカ、中国、メキシコ)は、2017 年メキシコ・チ アパス州沖合で発生したマグニチュード 8.2 の地震について、周囲で観測された地震動や地殻変動記録を用い た地震の震源モデルについて再解析を行ったところ、沈み込むプレート内のほぼ全部を破壊する地震であった 可能性が示されました。この結果は日本周辺で沈み込むプレート内部で発生する地震の規模が、従来のプレー ト内部の応力場および温度モデルから推定されていたものよりも大きくなりうる可能性を示します。今後沈み 込み帯の地震発生ポテンシャルと、それに伴う津波被害の評価を行う上で極めて重要な成果です。本成果は、2018 年 10 月 1 日に国際科学誌「Nature(Geoscience」のオンライン版に掲載されました。
図.2017 年メキシコ・チアパス州沖合で発生した地震の模式図
2017 年 9 月8日にメキシコ・チアパス州沖合でマグニチュード 8.2 の地震が発生しました。この地震によ り、メキシコ国内では、地震動による建物等への被害に加えて、沿岸部では津波による被害も報告されていま す。地震発生直後の解析では、震源は沈み込むプレート内部で発生する正断層型の地震であり、沈み込むプレ ート内部の上部で発生した地震であると考えられていました。
研究グループは、震源域周辺の広帯域地震計や強震動地震計の記録、GPS による地殻変動記録に加えて、検潮所や沖合の津波計による津波記録を収集し、地震の震源モデルの再解析を行ないました。その結果、推定さ れた断層の広がり、特にその深さは、従来プレート内部の応力場および温度場から予測されていた地震破壊の可能な深度よりもかなり深くまで到達していたことがわかりました。破壊が深くまで到達した原因として、脱水脆性化にともなう深部の岩石の破壊強度の低下が考えらます。プ レートの沈み込みに伴い、その沈み込み口である海溝よりも海側で正断層型の地震が発生しています。その断層( 亀裂)に沿って、海水がプレート内部に移動しプレート内部で含水鉱物が生成されます。含水鉱物がプレ ートの沈み込みにより深部に運ばれ、高温高圧環境下では、鉱物から脱水することで岩石の強度が十分に低下したために、深部まで破壊が進展した可能性が考えられます。
日本沿岸部でも、今回発生した地震と同様に沈み込むプレート内で大きな地震が発生しています。また、そ れに伴い津波も発生しています( 例えば 1933 年昭和三陸地震( マグニチュード 8.1))。本研究によって、沈み 込むプレート内で発生する地震の規模の推定では、従来の応力場と温度場から予測される断層モデルよりも、 深部まで破壊が到達する可能性を検討する必要があることが示されました。また、これにより想定する津波の 規模も見直す必要があると考えられます。
エマニュエル・ソリマン・ガルシア特定研究員は、国立研究開法人科学技術振興機構 JST)と独立行政法 人国際協力機構(JICA)が共同で実施する地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム( SATREPS)の枠組み を利用し研究を実施しております。このプロジェクトでは、メキシコ太平洋沿岸部の地震(・津波災害軽減に向 けた国際共同プロジェクト( 5 カ年)として、メキシコ国立自治大学地球物理学研究所を中心とするメキシコ 側研究グループと実施しています。
正断層型の地震: 傾いた断層面の浅い側を上盤、深い側を下盤とした場合、断層面を境として上盤側がずり下 がる地震が正断層型の地震です。脱水脆性化: 深部で発生する地震の発生メカニズムを説明する有力な仮説の一つ。沈み込み帯の浅部で水がプ レート内に取り込まれると、プレートの沈み込みに伴い水は含水鉱物として地下深部に運ばれます。その際、 沈み込みに伴い、周囲の温度圧力が上昇すると、含水鉱物中の水分子が流体として岩石の結晶粒間に放出され ます 脱水)。結晶粒間に取り込まれた水は粒間の有効応力を低下させるため、鉱物の強度を低下させ地震を 起こすことが可能となります。
タイトル :Deep(embrittlement(and(complete(rupture(of(the(lithosphere(during(the(Mw 8.2(Tehuantepec( earthquake( 2017 年チアパス地震( マグニチュード 8.2)から明らかにされた深部の脆性化とリソ スフェアの全体破壊))著 者: Diego(Melgar,(Angel(Ruiz-Angulo,(Emmanuel(Soliman(Garcia,(Marina(Manea,(Vlad.(C.(Manea,( Xiaohua(Xu,(M.(Teresa(Ramirez-Herrera,(Jorge(Zavala-Hidalgo,(Jianghui(Geng,(Nestor(Corona,( Xyoli(Pérez-Campos,(Enrique(Cabral-Cano(&(Leonardo(Ramirez-Guzmán掲 載 誌: Nature(Geoscience
DOI: 10.1038/s41561-018-0229-y