植物免疫の歴史的難問「生長と防御のトレードオフ」を解決
2018/09/18 東北大学,理化学研究所
【発表のポイント】
- 世界の生産食糧の10-15%程度は病原菌感染による被害を受けている
- 病原菌感染に対抗して分泌される植物の免疫ホルモンは、植物生長を犠牲にして免疫応答を活性化する(「生長と防御のトレードオフ」)
- 新たに開発した植物ホルモン受容体「バイアス型アゴニスト(注1)」は、植物生長に影響せず、病原菌感染耐性のみを活性化する
【概要】
世界の農作物生産量の10-15%(5億人分)は病害によって失われており、その解決は世界的課題です。植物は、病原菌に感染すると「免疫ホルモン」を分泌して様々な防御応答を活性化しますが、防御に必要なエネルギーを作るため、副作用として植物の生長を停止させます(「生長と防御のトレードオフ」)。このトレードオフを解消できれば、病原菌感染を防ぐ強力な手段となります。
東北大学大学院理学研究科(兼務 同大学院生命科学研究科)の上田実教授らが開発した植物ホルモン受容体「バイアス型アゴニスト」は、植物の生長に影響せず、病原菌感染防御応答のみを活性化します。この研究成果は、植物の病原菌感染耐性を強化する画期的な植物免疫活性化剤の開発に繋がると期待されます。本成果は、英国科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』において9月7日午後6時(日本時間)に発表されました。
【用語解説】
(注1)バイアス型アゴニスト
アゴニストとは、受容体作動薬とも呼ばれ、生体内で、ホルモンや薬物の受容体に結合して、細胞内のシグナル伝達を引き起こす化合物のこと。バイアス型アゴニストはバイアスアゴニストとも呼ばれ、特殊な機能をもつアゴニストである。創薬標的として注目される膜受容体GPCRなど、ひとつの受容体が複数のシグナル伝達機構を活性化する例は多い。バイアス型アゴニストは、複数のシグナル伝達機構のうち、ひとつあるいは少数を選択的に活性化できるアゴニストである。バイアス型アゴニストは、作用に関連するシグナル伝達を選択的に活性化することで作用と副作用を分離できる。このため、副作用を伴わない薬剤となり得ると考えられており、薬の開発の面から注目されている。
問い合わせ先
<研究に関すること>
東北大学大学院理学研究科化学専攻
教授 上田 実(うえだ みのる)
<報道に関すること>
東北大学大学院理学研究科
特任助教 高橋 亮(たかはし りょう)