ヒントは粘土 有機ナノ構造を自在に作るカルボニルひもを開発

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機能性ナノ材料への貢献に期待

2018/04/19 北海道大学 科学技術振興機構(JST)

ポイント
  • タンパク質などの巨大分子には多様な機能を付与できるため、その精密な合成法が求められている。
  • 粘土のひもで器を作るように、有機分子のひもからさまざまな巨大分子の合成に成功。
  • ナノ構造が精密に制御された巨大分子は、発光体や電子素子など機能性材料への応用が期待される。

北海道大学 大学院工学研究院の吉岡 翔太 助教、猪熊 泰英 准教授らの研究グループは、柔軟な構造を持つ炭素の鎖に多数のカルボニル基注1)を導入した「カルボニルひも」化合物の合成に成功し、さまざまな形のナノ構造体を作り出す新たな手段を開発しました。タンパク質のように巨大な構造の分子は、分子の変換や発色など多様な機能を持たせられるため、その精密な作成方法が世界中で精力的に研究されています。しかし、有機化学で扱う分子の大きさは典型的な化合物であるベンゼンで約1nm注2)しかなく、10nm以上の巨大分子を作り上げることは容易ではありません。

今回、猪熊准教授らの研究グループは「巻き上げ技法」に着目しました。巻き上げ技法とは、壺や水瓶などの3次元的な形を1次元的なひも状の粘土を巻き上げながら作る方法です。分子の世界にも、柔軟な構造を持ったひも状のものは数多く知られていましたが、粘土のように自在に扱うことは非常に難しく、課題とされていました。本研究では、柔軟なひも状分子に「互いにペタペタくっつく」粘土のような性質を与えるため、カルボニル基という官能基注3)を多数導入しました。

カルボニル基が多数導入された「カルボニルひも」は、水素結合などの分子間相互作用注4)がひものさまざまな箇所で働き、固体状態で直線状、S字、コの字型などの形を作り出すことができます。さらに、カルボニル基をイミン注5)と呼ばれる官能基に変換することで、金属イオンを留め金としてグリッド構造注6)と円筒型構造の巨大分子集合体を構築することに成功しました。これらには、従来の手法では産み出しにくかった柔軟なひも由来の曲線部が多く存在し、画期的な構造体となっています。

今後は、これまで以上に精密で柔軟なナノ構造体や分子集合体の合成に応用することで、分子の変換触媒や分離・吸蔵など機能性材料への応用展開が期待されます。

本研究成果はNature Researchグループの新刊雑誌「Communications Chemistry」誌に、英国時間2018年4月19日(木)に掲載される予定です。

本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究事業(さきがけ)研究領域「超空間制御と革新的機能創成」(研究総括:黒田 一幸)研究課題「細孔性結晶を用いた微量薬物の分解・代謝過程の可視化」(研究者:猪熊 泰英)の一環として行われました。

<研究の背景>

自在に形を作ることができる材料は、ものづくりにおける基本素材となります。大きさがnmという単位で表される目に見えない分子の世界でも、このような素材は非常に重要とされています。

近年、さまざまな合成反応が開発されたおかげで、ベンゼンのように単純な分子であれば精密な作成が可能になってきました。しかし、長さが1nm程のベンゼンの何十倍、何百倍にも相当する数十〜数百nmの巨大分子構造体を作り上げることは、依然として困難な課題として知られています。このような巨大分子構造体は、タンパク質のように高度な機能をいくつも持ち合わせることが可能なため、現在、世界中の研究者が活発に作り方を研究しています。

これまで開発されてきた巨大分子の作り方に「分子パネリング法」があります。これは、床や壁にパネルを貼り合わせて建物を作るように、ベンゼン環が複数連なった平面状の剛直な分子を材料として、それらをつなぎ合わせるものです。しかし、この方法では、滑らかな曲面を持つ構造や入り組んだ形を作り出すことが困難で、最終的に得られる巨大分子の形や大きさに制約がありました。

<研究の内容>

この分子づくりの難題に解決の糸口を与えたのは、子どもの粘土遊びでした(図1)。柔軟な粘土で形を作るとき、粘土を板の上で転がして「ひも」を作り、そこから成形するという方法があります。

この方法は、古代から壺や水瓶を作り上げる方法の1つ「巻き上げ技法」として知られていました。この技法の特徴は、1次元的なひもを繋ぎ合わせたり重ねたりすることによって、最終的には巨大な3次元構造を作成できる点です。猪熊准教授らの研究グループは、この巻き上げ技法を分子づくりに応用することで、柔軟な分子から巨大な構造を作り上げることを考案しました。

アルカンやポリエーテルなどの分子は、柔軟な1次元(ひも状)分子として古くから知られています。しかし、これらを粘土のように何本もつなぎ合わせようとすると、柔軟な分子はすぐに形を変えてしまい、1つの決まった形や集合体として留まってはくれません。そこで、このような柔軟なひも状分子に、粘土のように「互いにペタペタくっつく」性質を付与するため、カルボニル基という官能基を多数導入することにしました。カルボニル基が多数あることから、ここでデザインした分子を「カルボニルひも」化合物と命名し、その合成と巨大分子の構築に挑戦しました。

カルボニルひも化合物は、アセチルアセトンと呼ばれる有機化合物の誘導体を用いて合成しました。既存の反応だけでは長いカルボニルひもを作れなかったため、末端位置選択的シリル化法注7)と酸化銀によるホモカップリング法注8)の条件を精査し、1nmから最長で6nm(アセチルアセトン単位が8つ分)のカルボニルひもを合成することに成功しました(図2)。単結晶X線構造解析の結果から、これらのひも状分子は、その柔軟さを反映して結晶状態ではS字型やコの字型の構造を取ることがわかりました。さらに、カルボニルひもを高度に集積させるため、カルボニル基をイミンへと変換したひも状化合物も合成しました。このイミンでできたひもは、亜鉛イオンやニッケルイオンと錯体注9)を形成し、それぞれ1nm四方の正方形が無限に並んだグリッド構造と、ひもが馬蹄型に曲がって巻き上げられた直径0.8nmほどの円筒型構造が作り出されました(図3)。

<今後の展開>

柔軟なひも状分子を素材に使った分子づくりは、nm単位で巨大分子を精巧に作り上げる新たな手法をもたらしたと考えられます。それ以上に重要なのは、この分子が多くの研究者に柔軟な分子づくりの発想を与える点です。有機化学の研究の世界でも、手法や素材の制約から「作りたくても作れない分子構造」、「もし作れたら凄い機能が期待される分子構造体」の多くが今も手つかずのままです。粘土をこねるように自由に分子を作り出すことができれば、カルボニルひも化合物のような画期的な分子が多く作り出されていくことでしょう。そのような分子を作ることができれば、発光体や電子素子、吸蔵・分離材料などさまざまな応用研究に利用でき、多くの研究分野の発展に寄与することが期待されます。

<参考図>

図1 粘土の巻き上げ技法

図1 粘土の巻き上げ技法
  • (左)粘土を細長くひも状に伸ばし、グルグルと巻き上げながら繋いでいくことで器を作っている。
  • (右)同じ巻き上げ技法をカルボニルひも分子で行うと、分子変換のための触媒やガス分子を取り込むための容器を作ることができる。

図2 本研究で合成したカルボニルひもの合成経路

図2 本研究で合成したカルボニルひもの合成経路

図3 カルボニルひもから誘導したイミンひも化合物で作られた分子集合体

図3 カルボニルひもから誘導したイミンひも化合物で作られた分子集合体
  • 上:亜鉛イオンを用いて作られたナノサイズのグリッド構造。
  • 下:ニッケルイオンによる巻き上げ技法を用いて作られたナノサイズの円筒型構造。左は上部から見た図、右は横から見た図を示す。円筒型構造の中で馬蹄型に曲がったカルボニルひも化合物に対応する部分は、球形表示(灰色部分)で強調してある。

上下の図ともに灰色は炭素、白は水素、水色は窒素、赤は亜鉛、緑はニッケルを示す。

<用語解説>
注1)カルボニル基
炭素と酸素の二重結合(C=O)の構造を持つ官能基のこと。水素結合や配位結合などさまざまな分子同士の相互作用が働くため、分子同士を互いに引きつける駆動力となる。
注2)nm
10億分の1メートルのこと。髪の毛の太さ(約0.1mm)のおよそ10万分の1の長さに相当する。
注3)官能基
有機化合物の性質を特徴付ける原子団のこと。カルボニル基以外にも、水酸基やアミノ基などがあり、これらの官能基を持つ化合物には共通した化学的性質が見られることが多い。
注4)分子間相互作用
分子と分子の間に働く相互作用のこと。静電相互作用(+とーが引きつけ合い、+と+や、ーとーは反発し合う)や双極子—双極子相互作用(分極を持った分子同士の相互作用)などが知られている。
注5)イミン
炭素と窒素の二重結合(C=N)の構造を持つ有機化合物の総称。ケトンやアルデヒドといったカルボニル基を持つ化合物から簡便に誘導でき、カルボニル基よりも強く金属イオンと相互作用することができる。
注6)グリッド構造
格子状の構造のこと。
注7)末端位置選択的シリル化法
カルボニルひもに多数導入されているカルボニル基の中でも、末端の位置にあるカルボニル基だけにケイ素を導入する反応手法。ここで導入されたケイ素を起点として、次のホモカップリング反応を行うことができる。
注8)ホモカップリング法
同じ分子を2つ結合させる反応のこと。
注9)錯体
金属イオンと金属ではない化合物(主に有機化合物)が配位結合という結合を作ることで形成される分子のこと。
<論文情報>

タイトル:“Oligoacetylacetones as shapable carbon chains and their transformation to oligoimines for construction of metal-organic architectures”
(柔軟に形を変えられるオリゴアセチルアセトンの合成と有機-金属巨大構造体を指向したオリゴイミンへの変換)

著者名:上坂 光晴、齋藤 結大、吉岡 翔太、堂本 悠也、藤田 誠、猪熊 泰英

doi:10.1038/s42004-018-0021-3

<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

猪熊 泰英(イノクマ ヤスヒデ)
北海道大学 大学院工学研究院 准教授

<JST事業に関すること>

中村 幹(ナカムラ ツヨシ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部

<報道担当>

北海道大学 総務企画部 広報課

科学技術振興機構 広報課

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