光変換を起こすナノ粒子による新しい光遺伝学法の開発

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近赤外線を用いて非侵襲的に神経細胞の活動を制御する

要旨

理化学研究所(理研)脳科学総合研究センター神経回路・行動生理学研究チームのトーマス・マックヒュー チームリーダー、シュオ・チェン基礎科学特別研究員らの国際共同研究グループ※は、低エネルギーの光を高エネルギーの光に変換する「アップコンバージョン-ナノ粒子(UCNP)[1]」を用いて、マウスの脳組織に損傷を与えずに脳深部の神経細胞の活動を制御する、新しい非侵襲的[2]「光遺伝学法」を開発しました。

光遺伝学は、光で活性化されるイオンチャネル[3]やイオンポンプ[4]を神経細胞に発現させ、青色光や緑色光を照射することで、その神経細胞の活動を活性化したり抑制したりする技術で、近年の脳科学の進展に大きく貢献してきました。しかし、青色光や緑色光は脳組織を透過する際に減衰するため、脳深部の神経細胞の制御には、光ファイバーを脳組織に挿入する必要があります。そのため、ファイバー挿入による脳組織の損傷が避けられないという問題がありました。

今回、国際共同研究グループは、低エネルギーの近赤外線[5]を吸収し、高エネルギーの青色光や緑色光を放出するUCNPに着目しました。近赤外線は生体透過性が高く、体表に照射すると体の深部まで到達します。また、生体への影響はほとんどありません。国際共同研究グループはまず、ウイルスベクター[6]を用いて光活性型イオンチャネルであるチャネルロドプシン2(ChR2)[3]をマウス脳の特定領域に発現させ、同じ領域に青色光放出UCNPを注入しました。その後、頭上から近赤外線を照射すると、脳深部で近赤外線はUCNPにより青色光に変換され、近くの神経細胞のChR2を活性化し、その神経細胞の活動を活性化しました。また、同じ手法を使って、マウスの脳内で記憶を保持している海馬[7]の神経細胞を、脳組織を損傷させることなく活性化し、人為的に記憶を思い出させることに成功しました。さらに、近赤外線を緑色光に変換するUCNPを作製し、神経細胞の活動を抑える光活性型イオンポンプのアーキロドプシン3(Arch)[4]と組み合わせて、非侵襲的に脳深部の神経細胞の活動を抑制する方法も開発しました。

現在、精神疾患の治療などに用いられている経頭蓋磁気刺激法[8]は、活性化させる神経細胞を特定できません。今回、開発したUCNPを用いた非侵襲的光遺伝学法を応用することによって、標的の神経細胞だけを対象にした、より効率的で副作用の少ない治療法の開発が進むと期待できます。

本研究は、米国の科学雑誌『Science』(2月9日号)に掲載されるのに先立ち、オンライン版(2月8日付け:日本時間2月9日)に掲載されます。

※国際共同研究グループ

理化学研究所 神経回路・行動生理学研究チーム
チームリーダー トーマス・マックヒュー(Thomas J. McHugh)
基礎科学特別研究員 陳 碩 (シュオ・チェン)
研究支援パートタイマーアダム・ザカリー・ワイテマイヤー(Adam Zachary Weitemier)
研修生 何 林孟 (カ・リンモン)
研修生 王 希宇 (オウ・キウ)
研修生(研究当時) 陶 硯楸 (エンチュウ・トオ)
テクニカルスタッフI アーサー・ファン (Arthur J.Y. Huang)

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