樹木の放射性セシウム汚染を低減させる技術の開発へ

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―樹木施肥によるセシウム吸収抑制を確認―

2017年12月21日  国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所

ポイント

  • カリウム施肥によって樹木への放射性セシウムの吸収を抑制できることを福島原発事故後に植えたヒノキの苗木で実証しました。
  • 施肥を行った苗木の葉のセシウム137濃度は、施肥しない場合に比べて8分の1の低い値にとどまりました。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所(以下「森林総合研究所」という)は、福島原発事故後、新たに植栽したヒノキ林にカリウム施肥を行い、土壌から樹木への放射性セシウムの吸収が抑制されることを実証しました。
農作物では、土壌からの放射性セシウムの吸収を抑えるため、カリウムの施肥が効果を上げています。樹木においても同様の効果が期待されますが、事故前から生育している樹木では、既に原発事故の影響を受けているため、土壌からの放射性セシウムの吸収を正確に評価することが困難です。そこで、事故後の2014年より福島県内の水源林造成事業地において、カリウム施肥区と非施肥区を設定してヒノキの植栽試験を行い、土壌から樹木への放射性セシウムの吸収抑制効果を検証しました。その結果、植栽翌年の2015年秋の段階で、カリウム施肥区の針葉中の放射性セシウム137の濃度は、非施肥区に比べて8分の1、幹や根でも4分の1以下の低い値にとどまりました。このようにカリウムの施肥は、樹木の葉だけでなく、幹や根への放射性セシウムの吸収を抑制する効果があることを確認しました。

本研究成果は、2017年11月15日にScientific Reports誌でオンライン公開されました

背景

東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、環境中に大量の放射性物質が放出されました。とくに、放射性セシウム137は放出量が多いうえに半減期が約30年と長いことから、長期的な影響が懸念されています。森林に降下した放射性セシウムの大部分は一時的に葉や枝に付着した後、時間経過とともに落葉や雨水などによって林床に移行することが明らかになっています(森林総合研究所2017年9月20日プレスリリース)。林床に移行したセシウムの大部分は土壌表層の粘土鉱物に吸着され、樹木には吸収されにくい状態にあります。そのため、樹木中に含まれる放射性セシウムの割合はごく小さく(森林全体の2%以下)、今後もその割合が上昇する可能性は低いと考えられます。しかし、今後、林業生産活動を再開するためには、樹木の放射性セシウム濃度はできるだけ低い方が望ましいところです。そこで樹木の放射性セシウム濃度上昇を抑制するため、これまでイネなどの農作物で放射性セシウムの吸収抑制技術として広く用いられてきたカリウム施肥を樹木にも応用した、検証試験を行いました。

内容

福島県川内村にある森林整備センター水源林造成事業地(図1a,b)において、川内村の協力のもと事故後の2014年6月に事故による放射性物質の汚染が少ない(葉の放射性セシウム137濃度でキログラムあたり5ベクレル以下)3年生のヒノキ苗を植栽し(図2a)、カリウム施肥区と非施肥区をそれぞれ4つずつ設けて植栽木の成長と放射性セシウム濃度を調べました。カリウム施肥区では2014年の8月と2015年の4月にそれぞれカリウムとして1ヘクタールあたり83kg相当の塩化カリウム肥料(ヘクタール換算で2-3万円)を施肥しました(図2b-d)。

図1(a)福島県川内村調査地の位置の地図

図1(b)調査地で被害地を地拵えしてヒノキを植栽している様子の写真

図1.(a)調査地の位置。放射性セシウムの降下量は航空機モニタリングの結果を利用。 (b)2015年4月の調査地の様子。3年生ヒノキを植栽した。

図2苗木の写真、施肥作業の様子、肥料の写真、散布した林地の写真

図2.(a)試験に利用したヒノキ苗木。(b)施肥作業の様子。(c)施肥に使用した塩化カリウム肥料。(d)林地に散布したカリウム肥料(赤い粒)。

処理開始から1年2ヶ月後の2015年10月の苗木の放射性セシウム濃度を調べたところ、カリウムを施肥した苗木では、施肥しなかった場合と比べて各部位の濃度が統計的に有意に低く、カリウム施肥区の針葉の放射性セシウム濃度は非施肥区の約8分の1、また茎・枝や根でも4分の1以下の値でした(図3)。これは、カリウム施肥が土壌から樹木への放射性セシウムの吸収を抑制する効果があること示しています。カリウム施肥効果は農作物ではすでに知られていましたが、樹木でも同様の効果があることが福島原発事故後、初めて示されました。

図3.ヒノキ苗木各部位の放射性セシウム137の濃度の推移

図3.ヒノキ苗木各部位の放射性セシウム137の濃度(施肥:オレンジ、非施肥:白)。*は処理区間に統計的に有意な差が認められたことを示す。

放射性セシウムの土壌から樹木への吸収されやすさは、放射性セシウムの凝集移行係数(注1)からわかります。植物が利用可能な土壌中の交換性カリウム濃度(注2)との関係をみると(図4)、非施肥区の苗(白丸)は、交換性カリウム濃度が低いほど針葉の移行係数が高くなることがわかります。これは土壌中の交換性カリウムが少ないと、樹木は放射性セシウムをより多く吸収してしまうことを示しており、カリウム施肥の有効性を裏付ける結果となりました。このような樹木の放射性セシウム濃度と土壌の交換性カリウム濃度の関係を明確に示したのは本研究が初めてです。なお、施肥区の土壌の交換性カリウム濃度は非施肥区と大きな違いは認められませんでしたが、これは成長が終了した秋に採取した土壌の値です。施肥区では夏の成長期に交換性カリウム濃度が上昇し、施肥の効果が認められたと考えられます。

図4.交換性カリウム濃度と2年目サンプル針葉の凝集移行係数の関係

図4.交換性カリウム濃度と2年目サンプル針葉の凝集移行係数の関係(施肥:オレンジ、非施肥:白)。

ヨーロッパでもチェルノブイリ事故前後に行ったカリウム施肥により、ヨーロッパアカマツ成木への放射性セシウムの吸収が抑えられたという報告例がありますが、今回の結果は、それに比べてカリウム施肥の頻度が高く、事故当時の直接汚染がない植栽苗を用いたことから、より高い抑制効果が示されたと考えられます。

今後の展開

本研究では、カリウム施肥が土壌から樹木への放射性セシウムの吸収を抑制することが示されました。土壌中の交換性カリウム濃度が低く、土壌から樹木へと放射性セシウムが吸収されやすい条件では、樹木の放射性セシウム吸収抑制策としてカリウム施肥は有効であると考えられます。今回設定した調査区は長期的な追跡試験を念頭に置いた設計になっており、引き続き調査を行って施肥効果の持続性を検証する予定です

論 文

タイトル:Potassium fertilisation reduces radiocesium uptake by Japanese cypress seedlings grown in a stand contaminated by the Fukushima Daiichi nuclear accident (カリウム施肥は福島第一原発事故後に植栽したヒノキ苗木の放射性セシウム吸収を抑制する)

著者:小松雅史(きのこ・森林微生物研究領域)・平井敬三・長倉淳子(立地環境研究領域)・野口享太郎(東北支所)

掲載誌:Scientific Reports, 7巻15401(2017年11月15日)(外部サイトへリンク)

研究費:林野庁事業「森林内における放射性物質実態把握調査事業」、所内交付金プロジェクト「森林の放射性セシウム動態解明による将来予測マップの提示」

共同研究機関

国研 日本原子力研究開発機構(一部)

用語解説

(注1)凝集移行係数
樹木の葉や材、きのこや野生動物などの重量あたりの放射性セシウム濃度を土壌の単位面積あたりの放射性セシウム濃度で割った値。森林土壌から樹木や動物などへの放射性セシウムの移行のしやすさを示す指標となる。面移行係数とも呼ばれる。

(注2)交換性カリウム濃度
土壌中に含まれるカリウムのうち、植物などの生物に吸収可能な性質のものを交換性カリウムと呼ぶ。実際の交換性カリウム濃度とは、酢酸アンモニウム水溶液中で振とうして溶出したカリウムの濃度を指す。

お問い合わせ先
研究推進責任者:森林総合研究所 研究ディレクター 大丸裕武

研究担当者:森林総合研究所 きのこ・森林微生物研究領域 きのこ研究室、震災復興・放射性物質研究拠点 併任 主任研究員 小松雅史

広報担当者:森林総合研究所 広報普及科 広報係 Tel:029-829-8372 E-mail:kouho@ffpri.affrc.go.jp

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