超広視野多天体分光器 PFS の光ファイバーと分光器で夜空の観測に成功

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2021-04-21 国立天文台

すばる望遠鏡に搭載される超広視野多天体分光器 PFS (Prime Focus Spectrograph) の一部であるファイバーケーブルユニットと分光器を用いた試験観測が 2021年2月に実施され、夜空のスペクトルを取得することに成功しました。今後もこの観測を継続して装置の特性調査とソフトウェア開発を進め、すばる望遠鏡からの光を通した状態での試験観測本番に備えていきます。
PFS は、すばる望遠鏡の次世代の基幹観測装置の一つです。2023年からの本格観測運用開始を目指し、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 (Kavli IPMU) を中心とする国際チームが開発を進めています。
PFS は主に四つのシステムから構成されています。(1) 光ファイバーを使って天体の光を集める主焦点装置、 (2) 「赤」「青」「近赤外」三つのカメラで、380 ナノメートルから 1260 ナノメートル (可視~近赤外線) のスペクトルを一度に取得する分光器 (4台)、 (3) 光ファイバーの焦点面での位置を測定するメトロロジカメラ、 (4) 分光器と主焦点装置をつなぐ全長 55 メートルのファイバーケーブルユニット (4本) です (図1)。このうち、メトロロジカメラと1台目の分光器 (近赤外カメラを除く) が、それぞれ 2018年4月と 2019年12月にすばる望遠鏡に輸送され、組み上げと調整を終了しています (関連リンク参照)。これらのハードウェアに加え、取得したデータを解析するソフトウェアや、解析結果をまとめておくデータベースなどの開発も急ピッチで進められています。

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超広視野多天体分光器 PFS の光ファイバーと分光器で夜空の観測に成功

図1:PFS を構成する四つのシステム (クレジット:PFS Project/Kavli IPMU/NAOJ)

今回、ファイバーケーブルユニットの1本目がハワイに輸送され、すばる望遠鏡での敷設作業が 2021年2月に行われました。ファイバーケーブルは望遠鏡の鏡筒とドーム棟内に張り巡らされるので、望遠鏡が動いたり、ドーム内の気温が変化したりすることで光ファイバーにかかるストレスが大きく変化すると、分光器に安定した像を送ることができません (注1)。その為、ストレスがなるべくかからないように光ファイバーをチューブにまとめたり、ストレスがかかったとしてもそれを和らげるためのスペースを設けるなどの工夫がファイバーケーブルユニットに施されています (図2)。また、試作ケーブルを用いてストレスを最小化する固定方法を検討し、敷設手順にも工夫をこらしました。

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超広視野多天体分光器 PFS の光ファイバーと分光器で夜空の観測に成功 図2

図2:ファイバーケーブルユニットの構成図 (クレジット:PFS Project)

さらに、口径4センチメートルほどの試験用の小型望遠鏡 SuNSS (Subaru Night-Sky Spectrograph) を主焦点の近くに取り付け、ファイバーケーブルユニットで分光器とつなぎました (図3)。この試験用ユニットにより、2021年2月11日に、PFS の分光器が夜空のスペクトルを初めて捉えました (図4)。

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超広視野多天体分光器 PFS の光ファイバーと分光器で夜空の観測に成功 図3

図3: (左) すばる望遠鏡のスパイダー (主焦点を支える構造) に取り付けられたファイバーケーブルユニットと小型望遠鏡 (SuNSS;Subaru Night-Sky Spectrograph)。(b) は SuNSS、 (c) は SuNSSとファイバーケーブルユニットの接続部分を拡大した写真。 (右) 1台目の分光器に接続されたファイバーケーブルユニット。 (クレジット:PFS Project)

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超広視野多天体分光器 PFS の光ファイバーと分光器で夜空の観測に成功 図4

図4:試験観測で取得した夜空のスペクトル。上段の二つは分光器内の CCD 検出器で得られた元画像で、左が「青」カメラ、右が「赤」カメラの画像。下段の二つは、解析ソフトウェアを用いて抽出されたスペクトルで、左の図は「青」「赤」二つの画像から抽出したスペクトルを結合しています。赤線一本一本が大気にある OH (ヒドロキシ基) などからの輝線です (※図の縦軸は相対的な明るさ)。右の図は、波長 870 ~ 915 ナノメートルの波長域 (左図の青枠で囲まれた部分) を拡大したスペクトルで、緑色の線は OH の理論上の波長を示しています。 (クレジット:PFS Project)


分光観測において、撮られた画像を整形してスペクトルを取り出す際の大きな課題の一つが「スカイ引き」と呼ばれるプロセスです。大気中の OH (ヒドロキシ基) やオゾンが発する光は、「夜光 (やこう)」として地上から観測する天体のスペクトルにノイズとして含まれます。データ解析ソフトウェアで画像を処理するときに、この夜光を取り除かないといけませんが、難しいのは、夜光の強さが時間とともに変化し、また、観測する空の場所によっても違う点です。これを克服するには、夜光の時間変動や場所による違いが PFS ではどのように見えるのか事前によく理解しておく必要があります。また、PFS の本観測では一部の光ファイバーを使って夜光を観測し、ノイズとなるスペクトルを見積もる予定ですが、どの光ファイバーを使ってもこれが正確にできるようにするには、検出器内の場所に応じた像の特徴を事前に調べておく必要があります。
SuNSS を用いることで、実際に分光器で観測される夜光の状況を再現できるので、今回の成果はデータ解析ソフトウェアの開発にも大きな進展をもたらします。しかも、SuNSS は主焦点装置が付いていない間も夜空を観測することが可能です。PFS の主焦点装置が到着するまでの間も時間を有効に使って、今後はすばる望遠鏡サイトから見える夜空を長時間モニタリングして変化を調べ、そのデータを用いて装置の特性調査やソフトウェアの開発を引き続き進めていく予定です。
(注1) 光ファイバーは、荷重やねじりのストレスがかかると、光ファイバーへ入射する光と異なった焦点比の光が出射してしまいます。この現象を、Focal Ratio Degradation (FRD) とよびます。FRD が著しい場合は、分光器で結像する光の焦点位置やスポット形状が変わるので、スペクトルの切り出しや波長較正、スカイ引きなどのデータ処理が正確に出来なくなります。

1700応用理学一般
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