『原子力機構の研究開発成果2020-21』P.47
図4-2 原子核のγ線吸収と光子強度関数の関係
原子核に高エネルギーのγ線を照射すると、原子核はγ線を吸収し、基底状態から励起します。この吸収のしやすさを表すのが、光子強度関数です。この模式図では、低いエネルギーのγ線よりも高いエネルギーのγ線の方が原子核により吸収されやすい、つまり断面積が大きいということを表しています。
図4-3 139La の異なる中性子多重度を持つ断面積の比較
中性子多重度は 1 核反応で放出される中性子の個数を表しています。中性子多重度が(a)1 と(b)2 の場合について、評価値 (IAEA ライブラリ 2019)と測定値との比較を示しています。ニュースバル放射光施設で取得された最新の測定値を、本評価値はよく再現していることが分かります。
光核反応は原子核に高エネルギーの γ 線を照射したときに起こる現象であり、この現象の起こりやすさ(断面積)をまとめた光核反応データベースは科学研究のみならず実用研究においても利用される基盤データです。
このように重要なデータであるにもかかわらず、1960から 80 年代にかけて光核反応研究をリードしたグループらが異なる施設で測定した断面積には、大きな差異がありました。この差異は、例えば電子線加速器施設などの廃止措置において、計算される放射化量に不確かさを生じさせます。その結果、放射性廃棄物の処分に大きな余裕を持たせることが必要になり、廃棄物の量が増大してしまいます。そこで国際原子力機関(IAEA)は、信頼性を高めた光核反応データを提供するため、2016 年に光核反応データベース開発の研究プロジェクトを開始し、15 か国が参加しました。
多様な応用の観点からデータベースには、核種や γ 線エネルギーの範囲を幅広く包含していることが要請されます。しかし、実験のみではこの要請を満たすことが困難なため、核反応モデルによる計算値で補う必要があります。本研究では、原子力機構が開発している核反応モデル計算コード「CCONE」を用い、このコードに4 種類ある最新の光子強度関数モデルを組み込みました(図 4-2)。これらの光子強度関数を使い、多くの核種や広いエネルギー範囲に対して断面積を計算し測定値と比較することで、測定値への再現度が高い光子強度関数モデルを決定しました。
光核反応データの評価では、塩素(原子番号 Z=17)からプルトニウム(Z=94)までの 140 核種についてCCONE コードで評価計算を行い、1 ~ 200 MeV のγ線エネルギーに対して光吸収断面積や光中性子断面積、核分裂断面積などのデータを整備しました。特に大きな断面積を持つ巨大双極子共鳴領域(10 ~ 20 MeV)において光中性子断面積の再現性を高めることで、実用研究での利用に対する信頼性を向上させました。
図 4-3 にはランタン 139(139La)の光中性子断面積のうち、中性子多重度 1 と 2 の断面積に対する評価値と測定値との比較を示しています。評価値は異なる多重度を持つ断面積に対して、研究プロジェクトの実験グループによって提出された測定値をよく再現しています。本評価から光核反応で放出される中性子量は従来よりも多いことが分かりました。
国際協力で開発した「IAEA 光核反応データライブラリ2019」には重水素(2H)からプルトニウム 241(241Pu)までの219核種が収録されています。このうち既存の7核種を含む 147 核種が原子力機構から提出されており、これは本データベース開発において顕著な貢献となっています。
信頼性が高まった光核反応データベースの利用により、電子線加速器施設の廃止措置における放射性廃棄物量の低減や放射線治療における人体への γ 線照射の最適化が可能になると期待されます。(岩本 信之)
●参考文献
Kawano, T., Iwamoto, N. et al., IAEA Photonuclear Data Library 2019, Nuclear Data Sheets, vol.163, 2020, p.109–162.