白化したサンゴの生死を決める新たな要因を発見 〜高温ストレスによる共生藻の共生能力の低下〜

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2020-08-25 基礎生物学研究所,総合研究大学院大学

サンゴ礁に棲息するサンゴは、体の中に藻類(共生藻)を共生させ、成育や生存に必要な栄養の多くを共生藻の光合成に依存しています。しかし、海水温が異常に高くなると、サンゴは共生する藻類を失います。これが、サンゴの白化と呼ばれる現象です。白化したサンゴは共生藻なしでもしばらくは生きていられます。そのため、その間に海水温が下がり、藻類を再共生させることができれば、白化から回復することができます。しかし、自然界では、白化した多くのサンゴが回復できず、餓死しています。これが、世界規模でサンゴが減少し、サンゴ礁生態系の崩壊が起きている主な原因となっています。今回、基礎生物学研究所および総合研究大学院大学の岸本 真理子大学院生と皆川純教授、高橋俊一准教授らは、東北大学大学院生命科学研究科の丸山真一朗助教、豪James Cook大学Andrew Baird教授らとの共同研究により、サンゴと同じく藻類と共生するモデル生物であるセイタカイソギンチャクを用いた実験から、白化からの回復が起こりにくい原因の一つが、「高温ストレスによる藻類の共生能力の低下」であることを発見しました。今回の発見は、藻類の共生能力の低下を抑えることで、白化したサンゴを救えることを示唆します。この成果は、微生物生態学に関する専門誌The ISME Journalに2020年8月21日に掲載されました。

【研究の背景】

サンゴ礁は生物多様性に富んだ生態系が築かれてきましたが、近年の地球温暖化に伴う海水温の上昇により、サンゴ礁生態系の崩壊が世界規模で起こっています。その主な原因がサンゴの白化です。白化は、高温ストレスによりサンゴが共生する藻類を失うことで起こります。過去30年の間に、世界規模の白化が度々起こっており、その都度、多くのサンゴが失われています。地球温暖化が進めば、白化の規模や頻度はさらに増すと予想されており、対策が急がれています。

自然界では、大規模な白化現象の後、多くのサンゴが死滅しました。そのため、白化するとサンゴは死滅するという考えが強くありますが、実際には白化直後のサンゴは共生する藻類を失っただけで、まだ生きています。そのため、その間に海水温が下がり、藻類を再共生させることで、白化から回復することができます。しかし、大規模白化の後に多くのサンゴが死滅したことからも分かるように、白化からの回復は容易には起こりません。これまで、その理由は不明でした。そこで、本研究では、白化からの回復が容易には起こらない原因を探りました。

【研究の成果】

今回の研究では、実験室内での維持や観察が難しいサンゴの代わりに、サンゴと近縁で、同じ藻類と共生関係を構築するモデル生物であるセイタカイソギンチャク(Aiptasia)を用いて実験を行いました。実験により、高温ストレスを一度受けると、共生藻の共生能力が低下することを発見しました(図1)。白化からの回復には、海水中や宿主動物(サンゴやイソギンチャク)の体内に残った共生藻が利用されます。今回の実験では、海水中でも宿主細胞に共生している場合でも、高温ストレスを一度受けると、共生藻の共生能力が低下することが分かりました。さらに、共生能力の低下は一時的で、高温ストレスを受けた時間が長くなると、共生能力の回復により時間がかかることも分かりました。これらの結果は、高温ストレスが緩和された後でも、藻類の共生能力が低下しているために、白化からの回復が抑制されてしまうことを示しています(図2)。また、本研究では、同様の高温ストレスの後でも、共生能力を失わない共生藻株が見つかっています。この結果は、利用可能な藻類の種(タイプ)の違いで、白化からの回復能力が異なることを示しています。

fig1.jpg図1:高温ストレスによる共生藻の共生能力の低下

高温ストレスを受けた共生藻類は、その後、高温ストレスが緩和された後でも、共生能力が低下している。セイタカイソギンチャクを宿主として用いた実験。写真は蛍光写真で、赤色の粒が共生藻を示す。

fig2.jpg図2:今回の結果から導き出された自然界で白化からの回復が起こりにくい要因

海水温が異常に高くなると、サンゴは共生藻を体外に放出し、白化する。異常な海水温の状態が終息すると、白化したサンゴは、共生藻を新たに共生させ、白化から回復することができる。しかし、高温ストレスにより共生藻の共生能力が低下すると、白化からの回復が抑制される。その結果、白化したサンゴが餓死する。

【今後の展望】

地球温暖化に伴う海水温の上昇がもたらすサンゴの白化や死滅は世界規模の問題となっていますが、いまだに解決の糸口が見つかっていません。今回の研究では、高温ストレスによる藻類の共生能力の低下が、白化からの回復を抑制し、死滅に導く要因の一つとなることが示されました。また、共生能力喪失の温度感受性が共生藻の種間で異なることから、利用可能な共生藻種の違いにより、白化からの回復力が異なることも示されました。これらは、高温ストレスによる藻類の共生能力の低下を抑えることで、白化したサンゴの死滅を防ぐことができる可能性を示しています。今後は、サンゴを用いた自然な環境で、藻類の共生能力の喪失が、白化回復に与える影響を調べていく必要があります。

【発表雑誌】

雑誌名: The ISME Journal

掲載日: 2020年8月21日

論文タイトル: Loss of symbiont infectivity following thermal stress can be a factor limiting recovery from bleaching in cnidarians

著者: Mariko Kishimoto, Andrew H. Baird, Shinichiro Maruyama, Jun Minagawa, Shunichi Takahashi

DOI: https://doi.org/10.1038/s41396-020-00742-8

【研究グループ】

本研究は基礎生物学研究所および総合研究大学院大学の岸本 真理子大学院生と皆川純教授、高橋俊一准教授らを中心として、東北大学大学院生命科学研究科の丸山真一朗助教、豪James Cook大学Andrew Baird教授らとの共同研究として実施されました。

【研究サポート】

本研究は、科学研究費補助金(20H0330、 18K19240、16H06552)、基礎生物学研究所共同利用研究 (18-321、19-332)、Gordon & Betty Moore Foundation’s Marine Microbiology Initiative (#4985)、ARC Centre of Excellence for Coral Reef Studiesのサポートにより実施されました。

【本研究に関するお問い合わせ先】

基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門

総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻

准教授 高橋 俊一(タカハシ シュンイチ)

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

1903自然環境保全
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