患者被ばく線量評価システムWAZA-ARIv2がもっと使いやすく
2018-04-11 量子科学技術研究開発機構
【発表のポイント】
- 患者被ばく線量評価システム「WAZA-ARIv2」1)に、各医療施設のCT装置やCT撮影記録装置などと接続することで、撮影条件の送信と被ばく線量評価結果の受信を自動化できる機能を追加
- この機能により、医師や診療放射線技師などのユーザーはWAZA-ARIv2に対して撮影条件の入力等をせずに、CT撮影時の患者の被ばく線量を評価することが可能
- CT検査の患者全員分の被ばく線量管理の実現に向けて、より多くの医療施設への普及を目指し、本機能の接続に必要なソフトウェア等の開発促進のための取組を開始
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)放射線医学総合研究所(放医研)放射線防護情報統合センターの古場裕介主任研究員及び同所臨床研究クラスタ病院医療情報室の奥田保男室長は、X線コンピュータ断層(以下「CT」という。)撮影による患者の被ばく線量を評価するWebシステムWAZA-ARIv2をより使いやすくするため、撮影条件の送信と患者の被ばく線量評価結果の受信を自動化できる機能を開発しました。より多くの医療施設への普及を目指し、本機能の接続に必要なソフトウェアやツール開発を促進するため、開発企業を対象にした説明会を実施します。
CT撮影は診断法として広く普及していますが、撮影による患者の被ばく線量は胸部レントゲン撮影等と比較して高いため、特に若年層や繰り返し撮影を受ける患者が過剰な被ばく線量を受けないように注意を払うことが必要です。また、日本は稼働しているCT装置の台数やCT撮影による被ばく線量が世界的に見ても多く、その実態を把握することが課題とされています。
このような背景から放医研では、CT撮影による患者の被ばく線量を医療施設に提供するWebシステムWAZA-ARIv2を2015年1月30日から本格的に運用しています(2015年1月30日プレスリリース)。WAZA-ARIv2は、被ばく線量計算のために入力された情報や計算結果を収集する機能もあるため、各医療施設および全体の被ばく線量の実態を把握することが可能です。現在、ユーザー数は約1,500名となり、医療施設だけでなく、教育、研究機関などで広く利用されています。
しかし、医療施設によっては日々の大量の患者のCT撮影が行われ、その全ての撮影についてインターネットブラウザでWAZA-ARIv2をひらいて1件ごとに撮影条件を入力したり、被ばく線量の計算結果を手動でダウンロードして自施設のデータサーバなどに受信したりする必要があり、多くの作業時間と手間が生じることや誤入力などの問題点がありました。
そこで、より効率的且つ正確に情報の入力と計算結果の受信ができるよう、Web API(Application Programming Interface)2)を利用できる機能をWAZA-ARIv2に実装しました。このWeb API機能を用いると医療施設のCT装置や撮影結果を格納したデータベースにアクセス可能なソフトウェアやツールを準備することにより、装置やデータベースとWAZA-ARIv2システムが接続されるので、医師や放射線技師などのユーザーは撮影条件の入力や、被ばく線量評価結果の受信などの作業が不要になります。CT検査の患者全員分の被ばく線量管理の実現に向けて、より多くの医療施設への普及を目指し、平成30年4月11日より本機能の運用を開始します。
本機能を有効的に活用するためにはWAZA-ARIv2のWeb APIに接続可能なソフトウェアやツールが各医療施設に必要となります。これらソフトウェアやツールの開発を促進するため、開発企業向けにWeb API機能の接続仕様の説明会を平成30年4月27日に開催する予定です。接続仕様の説明会に関する詳細についてはWAZA-ARIv2ホームページ(https://waza-ari.nirs.qst.go.jp/)に掲載いたします。
図1. WAZA-ARIv2の登録ユーザー数の推移とユーザーの職業割合
WAZA-ARIv2は被ばく線量の計算結果をサーバに蓄積することにより、被ばく線量の頻度分布など各医療施設の被ばく線量の実態を把握することが可能な機能が実装されており、医師や診療放射線技師などの各ユーザーはインターネットブラウザを用いた撮影条件の入力と計算結果のサーバへの登録を行うことができます。しかし、医療施設によっては日々大量の患者のCT撮影を行うことがありますが、その全ての患者のCT撮影に対してWAZA-ARIv2を利用した患者被ばく線量の評価を行うためには1件毎にインターネットブラウザを用いて入力と登録などの作業を行う必要があり、多くの作業時間と手間が生じることや誤入力なども問題点がありました。以上のような問題点を解決するために、ユーザーが作業時間や手間を大幅に軽減できるWeb APIの開発を行いました。
【開発した機能の特長】
図2にWAZA-ARIv2と医療施設との接続方法の概略図を示します。
従来からの機能であるインターネットブラウザを利用する方法では医師や診療放射線技師などのユーザーは患者の被ばく線量を計算する際に1件毎に撮影条件をキーボードやマウスを使って入力し、計算結果の確認と登録を行う必要がありました(青矢印)。一方、Web APIを用いるとCT装置や撮影条件を収集したデータベースにアクセス可能なツールやソフトウェアを医療施設側で設置することで、WAZA-ARIv2への撮影条件の送信や、Web APIの要求に基づきWAZA-ARIv2で瞬時に計算された患者の各臓器の被ばく線量や実効線量の計算結果の医療施設側のデータサーバなどへの受信を自動化することが可能になります(赤矢印)。
また、WAZA-ARIv2に接続する際、インターネットブラウザを利用する方法では、医師や診療放射線技師などのユーザーはユーザーIDとパスワードによって認証を行っていましたが、新機能のWeb APIを利用する方法では事前に取得したクライアント証明書3)を利用して認証を行います。クライアント証明書は量研放医研が接続を認めた施設のみに発行を行うため、通信接続には十分なセキュリティが施されています。
図2. WAZA-ARIv2と医療施設との接続方法の概略図
【期待される成果と今後の展開】
量研放医研では、平成30年4月11日よりWeb API機能を利用したWAZA-ARIv2の運用を開始します。
利用者は、従来からのインターネットブラウザを利用した方法に加えて、Web API接続を利用した方法でもWAZA-ARI v2によるCT撮影時の患者被ばく線量の評価が行えるようになります。これにより、例えばインターネットブラウザの利用によって撮影前に患者被ばく線量のシミュレーションを行うことや、Web APIの利用によって施設の全CT撮影患者の被ばく線量管理や統計的評価を自動的に行うことができるようになります。
量研放医研では、WAZA-ARIv2のサーバに蓄積された撮影条件や患者被ばく線量の大量のデータを患者被ばく線量の実態把握などに利用し、日本国内の医療被ばくの正当化や最適化のための研究に活用していきます。また、CT検査の患者全員分の被ばく線量管理の実現に向けて、より多くの医療施設へのWAZA-ARIv2の普及を目指して、医療施設のCT装置や撮影結果を格納したデータベースからWeb APIに接続するためソフトウェアやツールの開発を促進するため、開発企業向けにWeb API機能の接続仕様の説明会を平成30年4月27日に開催する予定です。接続仕様の説明会に関する詳細についてはWAZA-ARIv2ホームページ(https://waza-ari.nirs.qst.go.jp/)に掲載いたします。
【用語解説】
1) WAZA-ARIv2
平成24年12月21日に放医研にて試験運用を開始したCT被ばく線量評価Webシステムで、世界的に通用する日本語として柔道の技ありにちなんで名づけた「WAZA-ARI」を改良し、平成27年1月30日からWAZA-ARIv2として本格運用を行っています。
WAZA-ARIv2のホームページURL:https://waza-ari.nirs.qst.go.jp/
2) Web API
Web Application Programming Interfaceの略でWebシステムの中で接続先のアプリケーションを動かすためのプログラム機能です。利用者側のPCなどの装置にプログラムなどをインストールする必要がなく、ネットワーク経由でサーバ側の目的のアプリケーションを呼び出すことができます。
3) クライアント証明書
インターネット上で個人や組織を認証するために発行される電子証明書のことです。クライント証明書はシステムやサービスを利用するユーザーの装置などに証明書をインストールし、そのユーザーが正規の利用者であることを証明するために使用されます。クライアント証明書を用いるとシステム利用者のなりすましや改ざんなどの被害を防止することができます。