2019-12-25 京都大学
古瀬祐気 ウイルス・再生医科学研究所特定助教は、サンタクロースがクリスマスイブに感染症にかかっていた場合、どれだけの人が病気をうつされるのか差分方程式を用いた数理モデルによって解析しました。
本研究では、サンタクロースが子どもたちに病気(インフルエンザと麻疹)をうつす確率を記述し、さらにその結果としてどれほどの被害が人口全体に生じるかをシミュレーションによって解析しました。
解析の結果、インフルエンザについては、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が「通常の大人から子どもへ病気がうつる確率と同じ」である場合には、流行規模が12%増大することが分かりました。一方で、前者が後者の1%である場合には、流行規模は増大しませんでした。また、麻疹については、前者と後者が同じ確率である場合、100%の確率で大規模な流行が起こりました。一方で、同じく1%の場合には通常の大人によって流行が引き起こされる確率とほぼ同じでした。
本研究は、感染症のアウトブレイク(通常発生するレベル以上の感染症の増加)を引き起こすスーパー・スプレッディング・イベント(一人一人の感染者の感染力はそこまで強くなくても、一部の少ない感染者が例外的に多くの人に病気をうつしてしまうこと)の影響が、どの程度であるのかを数理モデルによって示したことで、実際の状況にも還元しうる科学的知見です。
本研究成果は、2019年12月9日に、国際学術誌「Medical Journal of Australia」に掲載されました。
図:本研究のイメージ図
詳しい研究内容について
数理モデルにより感染症伝播を解析
―サンタクロースが病気になると、何が起こるのか―
概要
国際的な医学学術誌のいくつかでは、ユーモアがあり皮肉の効いた研究を特集として企画することがあります。今回、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の古瀬祐気特定助教は、サンタクロースがクリスマスイブに感染症にかかっていた場合、どれだけの人が病気をうつされるのか差分方程式を用いた数理モデルによって解析し、オーストラリア医学会が主催するこのような特集に採用されました。
本研究では、サンタクロースが子どもたちに病気 インフルエンザと麻疹)をうつす確率を記述し、さらにその結果としてどれほどの被害が人口全体に生じるかをシミュレーションによって解析しました。
解析の結果、インフルエンザについては、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率と同じ」である場合には、流行規模が 12%増大することが分かりました。
一方で、前者が後者の 1%である場合には、流行規模は増大しませんでした。
また、麻疹については、前者と後者が同じ確率である場合、100%の確率で大規模な流行が起こりました。一方で、同じく 1%の場合には通常の大人によって流行が引き起こされる確率とほぼ同じでした。
本研究によって、サンタクロースが感染症に罹患していた場合に生じる負の側面を明らかにすることができました。ただ、その影響はサンタクロースから子どもたちに感染が伝播する効率によっては打ち消すことができるため、子どもたちのワクチン接種の向上や、サンタクロースのこまめな手洗い・マスクの着用が推奨されます。
本研究成果は、2019 年 12 月 9 日に国際学術誌 Medical Journal of Australia」に掲載されました。
1.背景
世界の一部の地域では、クリスマスイブにサンタクロースが子どもたちにプレゼントを届けてくれると信じられています。 いい子たち」だけにプレゼントが届けられるのかどうかはいまだに解明されていませんが、子どもたちの90%ほどがサンタクロースの訪問を受けることが先行研究で報告されています BMJ, 2016)。しかしながら、このように多くの子どもたちが一晩で接触するサンタクロースが感染症にかかっていた場合、どれだけの感染伝播が起こり、さらに結果として公衆衛生上どれほどのインパクトがあるかはこれまでに明らかにされていませんでした。
2.研究手法・成果
感染症の伝播拡大の様子は、差分方程式に基づく数理モデルを用いて解析することができます。本研究ではこれを応用し、サンタクロースが子どもたちに病気をうつす確率を記述し、さらにその結果としてどれほどの被害が人口全体に生じるかをシミュレーションによって解析しました。感染症としてインフルエンザと麻疹の2種類を考慮しました。インフルエンザに関しては、冬季流行のピーク頃にクリスマスイブが一致する状況を想定し、インフルエンザに罹患したサンタクロースが子どもたちのところを訪れた場合とそうでない場合を比較しました。麻疹に関しては、ワクチン接種率の高い集団を想定し、麻疹に感染した通常の大人1人がこの集団に加わる場合と、麻疹に感染したサンタクロースがクリスマスイブに多くの子どもたちを訪ねる場合とを比較しました。また、サンタクロースが一晩に多数の子どもたちのところを訪れることを鑑みるとその滞在時間は非常に短いことが予想されるため、サンタクロースから子どもたちへの感染伝播効率が、通常の大人から子どもへ病気がうつる確率と同じ」・ 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率の10%」・ 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率の1%」という3つのパターンでシミュレーションを行いました。
解析の結果、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が 通常の大人から子どもへうつる確率と同じ」ときには、インフルエンザの流行規模 最終的な感染者の数)が約12%大きくなることがわかりました。興味深いことに、この感染者数の増加は子どもだけでなく大人の間でも見られました。しかしながら、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率の10%」あるいは 1%」のときには、このようなインフルエンザに罹患したサンタクロースによる流行規模の増大は起きませんでした。
麻疹では、子どもたちのワクチン接種率が85%のとき、感染した通常の大人1人が流入しても、ワクチンの効果によって64%の確率で流行は起きませんでした。残り15%の確率で小規模の流行が、21%の確率で大規模な流行が起こることがわかりました。一方で麻疹に罹患したサンタクロースがクリスマスイブに子どもたちを訪れた場合、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が 通常の大人から子どもへうつる確率と同じ」ときには、100%の確率で大規模な流行がおこりました。サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播確率が 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率の10%」のときでも、77%の確率で大規模な流行が起きましたが、サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率が 通常の大人から子どもへ病気がうつる確率の1%」のときには、通常の大人によって流行が引き起こされる確率とほぼ同じになりました。子どもたちのワクチン接種率が95%のときには、どのようなパターンのシミュレーションを行っても、麻疹に罹患したサンタクロースによって大規模な流行が起こることはありませんでした。
3.波及効果、今後の予定
本研究によって、サンタクロースが感染症に罹患していた場合に生じる負の側面を明らかにすることができました。しかしながら、その影響は サンタクロースと子どもたちとの間での感染伝播効率」によっては打ち消すことができるため、子どもたちのワクチン接種率の向上や、さらにはサンタクロースのこまめな手洗い・マスクの着用が推奨されます。
4.研究プロジェクトについて
本研究の一部は、文部科学省 卓越研究員事業」によって補助されました。
<研究者のコメント>
近年の研究によって、多くの感染症アウトブレイクはスーパースプレッディング イベント 一人一人の感染者の感染力はそこまで強くなくても、一部の少ない感染者が例外的に多くの人に病気をうつしてしまうこと)によって拡まることがわかってきています。本研究は、サンタクロースによって感染症の流行が起こるという、あまり現実的ではない研究ではありますが、スーパースプレッディング イベントの影響がどの程度であるのかを数理モデルによって示したことで、実際の状況にも還元しうる科学的知見です。今年、サンタクロースが配るのはウイルスではなくプレゼントだけで、拡がるものは病気ではなく笑顔であることを願っています。
<論文タイトルと著者>
タイトル:What Would Happen if Santa Claus Was Sick? His Impact on Communicable DiseaseTransmission (サンタクロースが病気になると、何が起こるのか?感染症伝播におけるインパクト)
著 者:Yuki Furuse
掲 載 誌:Medical Journal of Australia DOI:10.5694/mja2.50420