移動体通信基地局や衛星通信システムの低消費電力化に貢献
2019-09-02 新エネルギー・産業技術総合開発機構
NEDOは、三菱電機(株)、産業技術総合研究所と共同で、高い熱伝導率を持つ単結晶ダイヤモンドを放熱基板に用いたマルチセル構造の窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)を世界で初めて開発しました。
本開発成果により、移動体通信基地局や衛星通信システムに搭載される高周波電力増幅器の電力効率の向上により、低消費電力化に貢献します。
図1 開発したGaN-HEMT
(上:セル構造、下:上面写真)
図2 開発したGaN-HEMTの断面構造
1.概要
近年、移動体通信基地局や衛星通信システムの高周波電力増幅器には、小型・軽量化や効率化などのため、高出力で高効率な窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT※1)の適用が拡大しています。一方、GaN-HEMTには高出力動作時の発熱により電流が流れにくくなるといった課題があり、本来のGaN-HEMTが持つ性能を発揮できていませんでした。
このような背景のもと、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、放熱性の高いGaN-HEMTの研究開発プロジェクト※2を進めており、今回、三菱電機株式会社、国立研究開発法人産業技術総合研究所と共同で、放熱基板として高い熱伝導率を持つ単結晶ダイヤモンドに直接接合することで、高出力・高効率化を実現したマルチセル構造※3のGaN-HEMTを開発しました。今回開発したGaN-HEMTを搭載することにより、高周波電力増幅器の出力密度・電力効率が向上し、移動体通信基地局や衛星通信システムなどの低消費電力化に貢献します。
なお、本開発成果の詳細は、2019年9月2日から5日まで名古屋大学で開催される国際固体素子・材料コンファレンス(SSDM2019)で、9月4日に発表されます。
2.今回の成果
(1)世界で初めて、マルチセル構造のGaN-HEMTを単結晶ダイヤモンド基板へ直接接合
ダイヤモンドを放熱基板に用いたGaN-HEMTは、現在、薄膜化したGaNにダイヤモンドを製膜してウエハーを作製し、トランジスタを作りこむ方法が主流ですが、GaNとダイヤモンドの熱膨張係数が異なるため、製造過程でウエハーが大きく反るという課題があり、サイズが大きいマルチセル構造のGaN-HEMT作製は困難でした。今回、シリコン基板を用いて作製したマルチセル構造のGaN-HEMTからシリコン基板を除去し、GaN-HEMTの裏面を研磨して薄く平坦に加工した後で、ナノ表面改質層を介した直接接合法によってダイヤモンド基板と接合しました。今回は、8つのトランジスタセルを並列に組み合わせたマルチセル構造を採用しました。放熱性の高い単結晶ダイヤモンドを放熱基板に用いて、マルチセル構造のGaN-HEMTを作製したことは、世界初です。
(2)GaN-HEMTの出力密度・電力効率が向上し、低消費電力化に貢献
GaN-HEMT内で発生する局所的発熱密度は、100MW/m2にも達するため、高温化による性能や信頼性の低下を抑制するにはGaN-HEMTからの放熱が重要となります。そこで、GaN-HEMTの基板として、従来のSiC(シリコンカーバイド)基板(熱伝導率370~490W/m・K)やシリコン基板(熱伝導率約150W/m・K)に代えて、自然界で最高の熱伝導率を持つダイヤモンドを用いた構造が開発されています。今回、単結晶ダイヤモンド(熱伝導率約1900W/m・K)を基板に用いて放熱性を高め、GaN-HEMTの高温化による性能や信頼性の低下を抑制することに成功しました。これにより、シリコン基板を放熱機材に用いた場合と比較して、GaN-HEMTの最大温度を211.1℃から35.7℃に低減でき、トランジスタ当たりの出力が2.8W/mmから3.1W/mmに増加、電力効率が55.6%から65.2%に向上し、移動体通信基地局や衛星通信システムの低消費電力化に大きく貢献します。
【注釈】
- ※1 窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ(GaN-HEMT)
- 窒化ガリウムを用いた高電子移動度トランジスタ。
- ※2 研究開発プロジェクト
- 事業名:低炭素社会を実現する次世代パワーエレクトロニクスプロジェクト/GaNパワーデバイス等の実用化
加速技術開発/窒化ガリウムパワーデバイス高出力化のための高放熱構造の研究開発
事業期間:2017~2019年度
- ※3 マルチセル構造
- 複数のトランジスタセルを並列に配置する構造。
3.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO IoT推進部 担当:野村、高橋、池田
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:佐藤、坂本、中里