2019-05-23
パリ協定,温暖化対策,国際,省エネルギー,エネルギーミックス
温室効果ガス(GHG)排出削減のための国際的な枠組みとして、2016年に発効した「パリ協定」では、主要排出国を含むすべての国が、自国の事情に合わせたGHG削減・抑制目標を策定することとなっています(「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」参照)。各国は今、それぞれの目標達成に向けて、さまざまな施策を進めています。今回は、日本の進捗状況について詳しくご紹介しましょう。
日本の中期目標と現在までの進捗状況は?
パリ協定に基づいて、各国は、自国が決定するGHG削減目標と、目標達成のための緩和努力(NDC、Nationally Determined Contribution)を定めました(『パリ協定』のもとで進む、世界の温室効果ガス削減の取り組み① 各国の進捗は、今どうなっているの ?」参照)。日本は、このNDCの中期目標を以下のように掲げています。
- 2030年度のGHGの排出を2013年度の水準から26%削減する
この目標は、各国と比べて低いのではないかという声もありますが、「今さら聞けない『パリ協定』 ~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」でも説明したとおり、他国の目標と比べて遜色のない、高い目標であるといえます(各国が自主的に定めた目標は、比較する時の基準となる「基準年度」や指標などがバラバラである点に留意が必要です)。
2016年度時点では、2013年度の水準と比較して7%の削減実績を上げており、これは目標ラインと同じ水準です。目標ラインとは、基準年度の実績と目標年度の実績予測値とをまっすぐに結んだラインを示しています(各年度ごとの政策や経済状況などを考えて産出した数値ではありません)。また、最近3年間の傾向を見ても削減の傾向にあることから、現在の傾向を維持できれば、削減目標の達成が可能であると見込まれます。
日本のGHG削減の進捗状況
では、現在のGHG排出の構造はどうなっているのでしょうか。日本の特徴として、燃料の燃焼や、供給された電気や熱の使用にともなって排出される、エネルギーを起源としたCO2、つまり「エネルギー起源CO2」が占める割合が92%と高く、そのうち50%が発電時に排出されていることが挙げられます。この数値は、他の主要国に比べても高い割合となっています。そのため、エネルギー分野でのCO2削減に向けた対応が、温暖化対策を進めるうえでの要となります。
日本の中期目標とその推移
(出典)IEA World Energy Balances、総合エネルギー統計等を基に資源エネルギー庁作成
エネルギー供給の低炭素化は日本の大きな課題
では、日本のエネルギー分野におけるGHG削減はどのような状況にあるのでしょうか?GHGを削減するためには、「エネルギー供給の低炭素化」と「省エネルギー」が必要です。日本の場合、エネルギー消費効率はほかの主要国と比べて高い(つまり省エネルギーが進んでいる)ものの、電源(電気をつくる方法)を見ると、「非化石化」(発電の元となるエネルギー源を化石燃料以外の燃料とすること)や、「低炭素化」(化石燃料を使う場合においても、従来の石炭・石油から、ガスのような低炭素な燃料へと転換していくこと)は低い状況となっています。
加えて、日本は化石資源に乏しく、EUのように国家間をつなぐ個別の送電線(国際連系線)や、国際的なガスパイプラインもないというエネルギー事情を抱えています。そこで、多様な電源を組み合わせてバランスのとれた電源を構成する「エネルギーミックス」を策定し、2030年の電源構成の見通しについて示しました。これは「GHG26%削減」という目標とも整合性のとれたものとなっています。このエネルギーミックスを着実に実現していくことが、削減目標を達成するうえでも重要となります。
なお、2030年のエネルギーミックスでは、非化石電源比率が44%程度となることを見込んでいます。非化石電源の比率は、2011年に起こった東日本大震災後の原子力発電の停止により、2010年度の36%から2013年度には12%に低下しました。しかし、再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大と、安全を最優先とした原子力発電の再稼働により、2017年度には19%になっており、これまでのところ、目標実現に向けて順調に上昇しています。それぞれの電源の状況を具体的に見ていきましょう。
日本の電源構成(発電電力量:108万GWh ※2017年)
(出典)IEA World Energy Balances等を基に資源エネルギー庁作成
① 再エネ
2012年から実施されている、再エネで発電した電気を国が決めた価格で買い取るよう電力会社に義務づけた「固定価格買取制度(FIT)」(「FIT法改正で私たちの生活はどうなる?」参照)により、再エネ比率は2012年度の10%から2017年度には16%に増加しました。一方、FITの買取りにかかる費用は、電気料金を通じて国民が広く負担することとなっており(賦課金)、その総額は年々増えています。国民の負担を抑制しながら、2030年エネルギーミックスの見通しである「電源構成比22~24%」を実現することが課題となっています。
② 原子力
原子力の電源比率について、2030年のエネルギーミックスの見通しでは「20~22%」の水準が示されています。2019年4月時点では9基の原子炉が稼働しており、電源比率は3%になっています。ひきつづき、安全を最優先にした再稼働を進めることとしています。
③ 火力
火力発電比率は、2010年度には64%でしたが、東日本大震災後に原子力発電所が停止した分の電気を、火力発電を焚き増すことでまかなってきたことから、2012年度には88%まで増加しました。その後、非化石電源比率の増加などにより、2017年度には81%まで低下しています。2030年のエネルギーミックスでは「電源構成比56%」の水準となる見通しを示しており、これに向けて、火力発電所の発電効率や、化石電源の比率に対する規制的な措置を導入するなどの方法によって、非効率な石炭火力発電からのフェードアウトをうながして、よりクリーンなガス火力発電の利用にシフトしていくこととしています。
- 詳しく知りたい
- さまざまなエネルギーの低炭素化に向けた取り組み
さらに進む省エネルギーのための取り組み
2030年のエネルギーミックスでは、最終エネルギー消費効率を2012年度比で35%改善する目標を示しています。最終エネルギー消費効率とは、最終的に消費者が使用するエネルギーである「最終エネルギー(一次エネルギー供給から、発電ロス、輸送中のロスなどを差し引いたもの)」の消費量を、GDPで割ったものです。2016年度は2012年度比で7%の改善となっており、これまでのところ、目標ラインにそって省エネルギーが進んでいます。
日本は、1970年代に起こった2度のオイルショック以降、世界最高水準の省エネを常に実現してきました。日本のエネルギー消費効率は、産業・運輸・家庭部門ともにOECD(経済協力開発機構)平均と比べてすでに高い水準となっています。つまり、これをさらに改善することは、他国と比べても容易ではないことを意味します。
そこで、産業部門においては、事業者間の連携による省エネルギーを促進するといった新たな取り組みを進め、目標達成を目指すこととしています。
次回は、英国の状況について詳しくご紹介していきます。
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