2019-03-06 JAXA
高出力密度化や小型化・軽量化などの技術課題
電動航空機に要素技術を適用する際の技術的な課題として、まず「高出力化」が挙げられます。航空機ですから、ハイブリッドカーや電気自動車などに比べて、高出力が求められます。一方で、バッテリーを大型化すれば、容易に高出力を得やすくなりますが、機体が重くなります。効率良く飛ぶには、同時に機体に搭載する際の「軽さ」も課題となります。高出力、かつ小型化・軽量化の技術開発が求められるのです。
また、航空機の「飛行高度」によって異なる課題に取り組んでいく必要もあります。小型機などが飛行する低高度領域は、地上から比較的近いため、推進系の耐故障の性能や電動ファンの低騒音化などが求められます。旅客機が飛行する高高度領域では、上空の低圧環境や高放射線環境のため、放電や放射線による影響への対応、電動モーターやバッテリーの発熱や電力の管理・制御などが必要となります。そして、これらの課題には安全性や信頼性の観点も不可欠です。
これらの技術課題は、2018年12月に開催された「航空機電動化(ECLAIR)コンソーシアム第1回オープンフォーラム」でECLAIRコンソーシアムが発表した「航空機電動化 将来ビジョンVer.1」でも、重要技術課題の抽出として記載されました。
航空機電動化における重要技術課題の抽出
コンソーシアム参加企業が研究開発の動向を発表
オープンフォーラムでは、コンソーシアムに参加・賛同する団体や企業がそれぞれの研究開発の動向を発表しました。
株式会社IHIは、航空機エンジンの電動化に向けて、異業種のメーカーや大学などによるオープンイノベーションの枠組みで、熱や電力のマネジメントシステムについての研究会を立ち上げ、これまで議論を重ねてきた経緯を報告しました。
株式会社日立製作所は、EV(電気自動車)開発の動向を踏まえて、航空機に使えるコア技術として、インバータの小型軽量化や、モーター技術の高効率化、高安全電池などに取り組んでいると報告しました。
三菱電機株式会社は、航空機電動化には高信頼で軽量のパワーエレクトロニクス電機品が必要として、「電力変換器」の高効率・軽量化、「盤・配電システム」のDC※化・大電力化、「パワーモジュール」の高電圧化などに取り組んでいると報告しました。
※:DC(=Direct Current、直流)は、流れる方向や大きさが変化しない電流や電圧のこと。安定した電圧を供給できるので、半導体やモーターへの電力供給には交流よりも適しているが、電力の制御などで課題がある。
これらは、航空機の電動化に求められるバッテリー、電動モーター、パワーエレクトロニクスなどの要素技術に関する内容であり、今後は、これらの技術のさらなる底上げが必要となります。
2050年代に電動化の理想形を実現する
ECLAIRコンソーシアムが描く「将来ビジョン」には、電動化を実現するための技術的なロードマップも示されました。これは、目指すべき社会実装と世界の航空産業への貢献という観点から描かれており、2020年代の近い将来には、小型電動航空機など、比較的低出力を想定した機体の社会実装を目指します。続く2030年代には細胴の旅客機(乗客200名以下で客室内通路が1本の小型旅客機)、2040年代には広胴の旅客機(乗客200名以上で客室内に通路が2本以上の大型旅客機)で出力が大きい機体による燃費の大幅削減を目指します。そして2050年代には、前回(第3回)紹介したJAXAエミッションフリー航空機のような電動化の理想形を実現するという大きな道すじを見据えています。その実現に向け、各段階で求められる要素技術の獲得を、ステップを踏みながら進めていきます。
電動化の実現に向けた技術ロードマップ
この技術ロードマップには、高高度環境の課題を見据えて、旅客機などの大型機に適用することを目指した、難易度の高い技術の獲得を進めることが示されています。そして、その過程で獲得した技術を、小型機やMEA(More Electric Aircraft: 旅客機装備品電動化)にスピンオフしていくことも視野に入れています。
一方で、現在ある技術を、低高度利用の小型電動航空機へ適用して社会実装を狙う企業や団体の取り組みもあります。その研究開発で得た技術や知見を大型機への適用へフィードバックして展開することも考えられます。ECLAIRコンソーシアムでは、このように日本の要素技術全体のレベルを効率的に向上することを目指しています。
航空機の電動化においては、大電力や大電圧によるハイパワー確保と、構成機器の軽量化が大きな課題であり、機体設計や構造、材料の問題、燃料電池の技術や水素の製造・保存技術など、個々の課題もあります。そして飛行高度によって異なる条件での課題解決も求められます。
日本の航空産業が、電動航空機の分野で世界に進出していくには、国内のポテンシャルの高い要素技術の活用とさらなる底上げ、航空以外の分野との交流による技術や知見の獲得なども必要となります。JAXAは、ECLAIRコンソーシアムの活動などを先導しつつ、電動航空機の理想形として描くエミッションフリー航空機の実現を目指す研究開発を続けていきます。