モノからデータへ:重要となるデータ・クオリティ
近年、工業や医療などの産業分野では3Dプリンタの普及等により3Dデータの利用が拡大するなど、形状・機能および製造プロセスも含めたより精度の高い製品情報をデータで記述することが可能となっています。今後、ビッグデータの利活用拡大やIoT(モノのインターネット)・AI(人工知能)の普及にともない、製造業に限らずサービス業や医療・行政機関などでのデータの利活用が急速に進み、データの質の重要性が増大することが予想されています。
データ・クオリティの国際標準化1),2)
産業分野ではインダストリー4.0の推進により、欧州を中心に製品化プロセスのデジタル化と、関連産業におけるデータ共有が進んでいます。設計・開発・試作・製造・流通・販売・保守など一連の製品化プロセスの各フェーズにおいて、必要となる情報(データ)は異なります。データを有効に活用するためには、どのフェーズでも必要なデータを迅速に切り出せるように、あるいはデータを関連産業全体で共有し、アクセス可能とするために、情報をどのように構造化するかを予め決める必要があります(図表1)。このような産業におけるデータを利活用し、さらに共有化するためには国際協調が不可欠となっています。
国際標準化機構(ISO)では、データ品質規格の中核と位置づけられるISO8000(Data Quality)3)の新規パート開発と適用が活発化しています。ISO8000は、国内外で普及しているISO9000の関連規格で、ISO9000ではビジネスプロセスに関する品質・マネジメントを対象とするのに対し、ISO8000では、そこで扱われる様々な「データの質」を対象としています。組織間・システム間で情報交換する際のデータ品質要件・品質評価の方法やプロセスを定める規格です。
図表1 産業データの構造化の概念1)
ISO8000シリーズの標準化動向
ISO8000は、技術委員会TC184 (Automation systems and integration)/SC4 (Industrial data)[1]の中の、ワーキンググループWG13(Industrial Data Quality)で協議されています。産業データに関する国際標準としては、情報の構造化(形式知化)(ISO15926,ISO10303,ISO13584)、セキュリティ(ISO/IEC15408等)、唯一性・トレーサビリティ(ISO TC307 Blockchain)が発行済あるいは開発中ですが、ISO8000ではデータの確からしさ・品質についての標準化が進められています。1)
ISO8000シリーズの各規格は、Part 1概要(2011年)、Part 2用語(2017年)など18のパートが発行済みまたは開発中です(図表2)。すでに、ドイツ・鉄道ネットワーク(Part 150)、韓国・政府機関(Part 61)、サウジアラビア・サプライチェーン(Part 115)などで、国際標準に準拠したデータ運用がされています。事業全体のデータ品質のシステム的自動管理が可能となるため、海外では鉄道・ヘルスケア・鉱業・石油ガス・金融・自動車・海事・電力など幅広い分野で適用され大きな効果をあげています。2)
図表2 ISO8000シリーズの構成と主な規格(開発中含む)2)
新たな価値創出に向けて
国内では、ISO TC184/SC4に対応する組織として、一般財団法人製造科学技術センター内に国内対策委員会が設置されています。しかしながら、ISO8000に関しては、欧州や韓国・中国が積極的に参画する中、日本は現状では協議に参加していません。
わが国でもサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するSociety5.0のビジョン実現に向け、様々な分野のデータが垣根を越えてつながるデータ連携基盤を整備し、組織や分野を越えたデータの利活用等を通じて新たな価値の創出を目指しています4)。今後データの質の重要性が高まることが予想されるため、ISO9000の関連規格として「キリ番」がつけられたISO8000は、工業分野に留まらず、サービスや医療分野、さらには行政や公共機関の各種データベースの公開にも及ぶと予想されます。日本の国際競争力を強化するためにも、産学官各機関の国際標準化の協議への積極的な参加が求められます。
参考文献
1) 苑田義明、 「海外エンジニアリングの最新トレンドとISO 8000」、ISO 8000:データ品質国際標準セミナー、(2017年6月、東京)
2) Timothy M. King、 「ISO 8000」、 ISO 8000(データ品質規格群)セミナー (2018年5月、東京)
4) 内閣府「統合イノベーション戦略」(2018年6月15日閣議決定)
これまでの科学技術予測調査における関連トピック
- 設計、開発、生産、品質管理、製造といった一連のプロセスがデジタル化することでデジタルパイプラインが実現し、統一フォーマットによって社内外でのオープンイノベーションが活発化する(2015年:第10回)
- デジタルモックアップにより、研究開発・設計の期間短縮、製品競争力強化を狙いとして、強度、性能、信頼性、環境性、生産性などを総合的に評価する技術 (2010年:第9回)
- 設計情報をもとに、材料から製品に至る状態を再現し、製品の特性(強度、信頼性、廃棄)、製造手段(環境調和性、生産性、保守)等、全てを評価する技術 (2010年:第9回)
[1] Pメンバー(15か国):中国、フランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、オランダ、ノルウェー、ロシア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス、米国
Oメンバー(14か国):オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、香港、ハンガリー、リトアニア、モンゴル、ポルトガル、ルーマニア、セルビア、スロバキア(2018年7月現在)3)