2018/11/26 東京大学、アストロバイオロジーセンター 、国立天文台ほか
東京大学のリビングストン大学院生、田村教授(東京大学、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター)らの国際研究チームは、NASA のケプラー宇宙望遠鏡による K2 ミッション(注釈1) および ESA のガイア宇宙望遠鏡(注釈2)の生データから極めて丁寧な解析(恒星明るさの超精密測定)により有力な惑星候補をより選び出し、さらに、候補天体の地上からの撮像観測や分光観測でフォローアップを行い、新たに 60 個もの系外惑星を実証した。同チームによる 8 月の発表と併せ合計104個もの系外惑星を発見したことになり、これまでの国内の最多系外惑星発見数を大きく更新した。これにより K2 ミッションで実証された系外惑星の個数は 300 個を大きく超えた。
今回の発見は、わずか 3 か月という短期間で多数の系外惑星の発見を報告したことに加え、主星が明るいため系外惑星の今後の詳細観測が行いやすく、また、これまで発見が難しかった周期が 24 時間以下という「超短周期惑星」を3個発見したことや、複数惑星系の発見数を 20 個増やした点に意義がある。これは、最近注目を集めている超短周期惑星の形成・進化を理解するために重要であり、一方、近くの詳細観測可能な惑星の多数発見は、今後の系外惑星におけるアストロバイオロジー展開のための極めて有力な武器となるだろう。
本研究成果は東京大学のリビングストン大学院生が主著となって、米国の天文学専門雑誌であるアストロノミカル・ジャーナルに掲載された。
発表のポイント
• 60 個の新たな太陽系外惑星が発見された。前回の発見と合わせ、104 個の系外惑星の発見となった。これは、日本における系外惑星の発見数の新記録である。
• 発見された系外惑星の中には、周期が 24 時間より短い超短周期惑星や、20 個以上の複数惑星系がある。
• 60個中18個の系外惑星は地球の2倍以下の大きさの岩石惑星である。
発表内容
東京大学およびアストロバイオロジーセンターを含む国際研究チームは、NASA の K2 ミッションおよび ESA のガイア宇宙望遠鏡の観測から、60個の系外惑星を発見した。このチームは K2 のデータから、155 個の惑星候補天体を詳細に解析することで、これらの候補天体の性質や惑星系のパラメータを決定した。主星が明るいため、これらの多くの惑星はその組成と大気を調べるための詳細な研究をするために最適である。この発見は、K2による精密な時系列の測光観測とガイアによる精密な位置測定により、惑星と主星の特徴付けがこれまでに比べ格段に良くなったため得ることができた。
今回の発表は、今年 8 月に 44 個の系外惑星の発見報告を行った東京大学大学院生のジョン・リビングストン氏を主著とする論文で、今回の 60 個とあわせると 104 個の系外惑星発見の報告をわずか 2 か月で連続して報告した(図1)。44 個も当時最多であるが、104 個は日本における系外惑星最多発見の記録を大幅に更新したことになる。
図1:発見された系外惑星の軌道分布の図。全て水星以下の軌道で、惑星の大きさも小さいものは水星サイズ、大きいもので木星ほどの大きさ。青い色は地球程度の温度であり、白っぽいものは熱い金星表面温度程度、赤い色はさらに熱く溶岩のような温度。(Credit: John H. Livingston)
ケプラー宇宙望遠鏡(2009 年打上)の当初の観測はリアクションホイールの故障により 2013 年に終了した。その後、同じ宇宙望遠鏡を再利用して、異なる観測戦略によって系外惑星を探す K2ミッションが始まった。この K2ミッションも 2018 年 10 月 30 日に燃料の枯渇のため運用終了をむかえたが、多数の系外惑星を発見してきた。「155 個の候補天体の解析を追加することで、私たちは K2 のデータに数百の系外惑星はまだ隠されていると見積もっている」とリビングストン氏は語る。
新たに発見された惑星の中には、20 個以上の複数惑星系と、1 年が 24 時間以下という超短周期(USP: Ultra-Short Period)惑星もふくまれている。K2-187 という惑星系(図 2)には、 4 つの系外惑星が存在しており、その中の一つは超短周期惑星である。このような超短周期惑星は、その形成が謎に包まれているため、最近注目され始めている。リビングストン氏は「この惑星系は、どのように超短周期惑星が形成されたかについて重要な手がかりになる。」と語る。また、近くにある地球のような小さい惑星は、詳しく調べることが可能になりつつあるためとりわけ重要であるが、「60 個中 18 個は地球の2倍未満の大きであり、大気のほとんどない岩石惑星である可能性が高い」とリビングストン氏は語る。
図2:K2-187 の惑星系の想像図。主星(一番左)の大きさは太陽の 0.9 倍。主星に近いものから地球の 1.3 倍、1,8 倍、3.2 倍、2.4 倍の大きさ。一番内側が超短周期惑星。(NASA/JPL-Caltech/R. Hurt, T. Pyle (IPAC), UTokyo/J. Livingston)
このチームはさらに 155 個の候補天体のうち 18 個がトランジット(注釈3)を起こす食連星による偽検出であることを確認した。この確認のために、K2 とガイアのデータに加え、大気の揺らぎを打ち消す「補償光学」(注釈4)や短時間露出した撮像を多数重ね合わせる「スペックル観測」(注釈5)などによる高分解能撮像観測や高分散分光観測(注釈6)により、主星の詳細な特徴付けを行った。「私たちのシャープな撮像観測は主星に極端に近い伴星を探し出し、高分散分光観測は伴星が主星に隠れていても見いだすことができます。」とリビングストン氏は語る。このような観測手法は新しい惑星の特徴付けに重要な役割をもち、現在も進められている研究により、将来さらに多くの惑星の発見につながるだろう。
K2ミッションは終わりを迎えたが、その役割は 2018 年 4 月に打ち上げられた TESS(注釈7)ミッションへと引き継がれ、TESS データに基づく系外惑星の発見の報告も始まっている。「TESS がすでにあり、JWST(注釈8)も間近に迫っている。今後数年にわたり多くのエキサイティングな惑星の発見ができること楽しみにしています。」とリビングストン氏は語る。
この研究は、2018 年 11 月 26 日発行の The Astronomical Journal に掲載された。
用語解説
注釈1 ケプラー宇宙望遠鏡による K2ミッション
2009 年に打ち上げられた NASA のケプラー宇宙望遠鏡は、はくちょう座の一領域に 5000 個を超える系外惑星とその候補を発見した。しかし、2013 年の故障により、その後は新しいミッション「K2」として活用されている。この宇宙望遠鏡が発見した天体はあくまで惑星候補であり、地上観測等による確認・実証が不可欠である。K2 ミッションではこれまで 300 個弱の惑星が実証されてきたが、より多くの多様な惑星の実証が求められている。
注釈2 ガイア宇宙望遠鏡
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が 2013 年に打ち上げた宇宙望遠鏡。恒星の位置を正確に測定するのが目的で、私たちのいる天の川銀河の詳細な三次元地図を作ることを目的としている。
注釈3 トランジット法
惑星が恒星の前を通ると、恒星の光が周期的に暗くなる。この明るさの変化を長期間見続けることで惑星を見つける方法。惑星が恒星の「ちょうど前」を通る可能性は低く、多くの恒星を観測する必要がある。一方、惑星が大きいほど明るさの変化は大きくなる。ケプラー望遠鏡はたくさんの恒星を観測することで、数千個もの惑星を見つけることに成功した。
注釈4 補償光学
大気の揺らぎを装置の中で打ち消すことで、シャープな星の像を得ることのできる技術。
注釈5 スペックル観測
短い露出時間で多数の画像を取得し、データ処理の際に精密な位置合わせを行うことなどでシャープな星の像を得る観測方法。補償光学と合わせ、大気の揺らぎを補正するための方法の一つ。
注釈6 分光観測
天体の光の「色(=波長)」を精密に調べるために、プリズムや回折格子といった光学素子を使って様々な波長の光に分けて観測する手法。撮像観測で分解できないような近接連星の発見や、高い精度の観測では、系外惑星の検出(ドップラー法)も可能になる。
注釈7 TESS
NASA によるトランジット系外惑星探査衛星(Transiting Exoplanet Survey Satellite)。ケプラーの後継機として、ケプラーでは限られた場所の探査にとどまっていたが、TESS ではトランジット法による全天系外惑星探査を行う。
注釈8 JWST
James Webb Space Telescope という現在開発中の NASA の宇宙望遠鏡。
研究グループ
東京大学、アストロバイオロジーセンター 、国立天文台ほか
研究サポート
本研究は、科研費新学術研究(18H05442)および科研費特別推進研究(No. 22000005)の支援を受けて行われました。