長寿命核分裂生成物の低減と資源の有効利用を目指す
2018/09/03 株式会社日立製作所,科学技術振興機構(JST),内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)
株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立)は、原子力発電所の使用済原子燃料を再処理する際に発生する高レベル放射性廃棄物注1)の中から、資源として有用なジルコニウム(Zr)を90%以上の効率で回収する技術を開発しました。
本研究は、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「核変換注2)による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」(藤田 玲子 プログラム・マネージャー)の一環として実施しました。本プログラムでは、長寿命核分裂生成物(LLFP)注3)を短寿命核種もしくは安定核種に核変換することにより放射能を減らす方法の開発も進められており、本技術と組み合わせることで、LLFPの低減と有用資源であるジルコニウムの回収が可能となります。
原子力発電所の使用済原子燃料を再処理した際に発生する、液体状の高レベル放射性廃棄物(以下、高レベル廃液)中には、パラジウム(Pd)、セレン(Se)、セシウム(Cs)など半減期注4)が数十万年以上もある元素が存在します。今回、日立はLLFPの低減と資源の有効利用を目指して、耐火物やセンサー材料などとして広く産業に利用されているジルコニウムに注目し、高レベル廃液から高効率に回収する技術開発に取り組みました。
本研究では、高レベル廃液にモリブデンを添加してジルコニウムを含む沈殿物を生成し、その後、沈殿物とフッ素を反応させることでジルコニウムを回収する、ジルコニウム回収プロセスを考案しました。模擬高レベル廃液を用いてジルコニウムの分離回収試験を実施し、高効率に回収できることを確認しています。今後、高レベル廃液を用いた試験などにより、技術の確立と実用化を目指します。
本成果は、日本原子力学会 2018年秋の大会(2018年9月5日~7日開催)にて発表します。また、国際出願:ジルコニウムの分離方法および使用済燃料の処理方法(出願番号:PCT/JP2016/073460、出願日:2016/8/9)を出願しています。
本成果は、以下のプログラム・研究開発課題によって得られました。
内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
プログラム・マネージャー:藤田 玲子
研究開発プログラム:核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化
研究開発課題:フッ化法によるLLFP分離回収システムの構築
研究開発責任者:可児 祐子
研究期間:平成27年度~平成30年度
本研究開発課題では、高レベル放射性廃液から半減期の極めて長い同位体を含む4つの元素を分離できる手法の開発に取り組んでいます。
<藤田 玲子 プログラム・マネージャーのコメント>
ImPACTプログラム「核変換による高レベル放射性廃棄物の大幅な低減・資源化」では、高レベル放射性廃棄物に含まれる長寿命核分裂生成物(LLFP)を湿式で分離し、核変換を行うことにより、廃棄物をリサイクルして資源化する日本独自の技術を提案することを目指しています。核変換を効率的に行うためには、半減期の長い核種を含む元素(Pd、Se、Cs、Zr)を純度よく取り出す必要があります。本研究では、高レベル放射性廃液中の不溶解性の成分(不溶解残渣)に含まれるジルコニウムを効率よく回収する技術を開発しました。高レベル放射性廃液から、ジルコニウムを回収する技術は、回収したジルコニウムの中から偶奇分離法によりZr-91と半減期の長いZr-93を取り出す技術とともに半減期の長い核分裂生成物の資源化へ向けた大きな1歩となると考えています。
<研究の内容>
原子力発電所などで生じる放射性廃棄物の放射能低減と資源としての再利用は、日本のみならず世界的な課題です。ImPACT藤田プログラムでは、この課題を解決するために、廃棄物から有用元素を回収し資源として使用する方法や、LLFPを取り出して短寿命核種もしくは安定核種に核変換して放射能を低減する方法を開発しています。
原子力発電所の使用済原子燃料を再処理した際に発生する高レベル廃液中には、パラジウム、セレン、セシウムなど半減期が数十万年以上もある元素が存在します。そこで、日立はLLFPの低減と資源の有効利用を目指して、耐火物やセンサー材料などとして広く産業に利用されているジルコニウムに注目し、高レベル廃液から高効率に回収する技術開発に取り組んできました。
<研究手法と成果>
高レベル廃液を沈殿法注5)およびフッ化物揮発法注6)で処理することで、ジルコニウムを90%以上回収するプロセス(図1)を開発しました。開発したジルコニウム回収技術の特長は以下の通りです。
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1.高レベル廃液中のジルコニウムを高効率で沈殿させる技術
高レベル廃液にジルコニウムとモリブデンが共存すると、モリブデン酸ジルコニウムという不溶解性の沈殿物を生成することが知られています。今回、廃液中のジルコニウムの元素濃度に対して濃度が3倍以上となるようモリブデンを添加することで沈殿物の生成が促進されることを明らかにしました。添加するモリブデンの量を最適化することで、廃液中の95%以上のジルコニウムを沈殿させることが可能となります。
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2.ジルコニウムを含む沈殿物からジルコニウムを回収する技術
日立がこれまで培ってきた使用済原子燃料の再処理技術(フッ化物揮発法)をジルコニウムとモリブデンの分離に応用しました。ジルコニウムを含む沈殿物をフッ素ガスと反応させることで、ジルコニウムとモリブデンのフッ化物を生成します。モリブデンフッ化物はジルコニウムフッ化物より沸点が低いため、150˚C程度に加熱するとモリブデンフッ化物のみが揮発してジルコニウムフッ化物から分離できます。モリブデンを分離したジルコニウムフッ化物に還元処理を施すことで、ジルコニウムを回収します。また、揮発したモリブデンフッ化物は、再度、沈殿物の生成に使用することが可能です。開発した技術を検証するために、高レベル廃液を模擬した試験溶液を用いたジルコニウム沈殿生成とフッ化分離試験を実施したところ、回収率93%でジルコニウムを回収できることを確認しました。
<今後の展開>
今後、実際の高レベル廃液を用いた試験などを通じて、技術の確立と実用化を目指し、高レベル廃液の放射能低減と資源の有効利用の実現に貢献します。なお、本成果は、日本原子力学会 2018年秋の大会(9月5日~7日開催)にて発表予定です。
<参考図>
図1 ジルコニウム回収プロセス
<用語解説>
- 注1)高レベル放射性廃棄物
- 使用済核燃料を硝酸溶液に溶解してウランとプルトニウムを回収した後に残る、放射性物質を多量に含む廃棄物。
- 注2)核変換
- 原子核が放射壊変や人工的な核反応によって他の種類の原子核に変わること。ここでは、LLFPをターゲットとし、中性子ビームなどを照射して安定な核種または短半減期の核種に変換することをさす。
- 注3)長寿命核分裂生成物(LLFP)
- Long-Lived Fission Productの略。原子炉内でウラン燃料の核分裂反応が起きる際に生成する放射性核種のうち、半減期が非常に長い核種。セレン-79(半減期:29.5万年)、ジルコニウム-93(153万年)、パラジウム-107(650万年)、セシウム-135(230万年)などが含まれる。
- 注4)半減期
- ある放射性核種が、放射壊変によってそのうちの半分が別の核種に変化するまでの時間。
- 注5)沈殿法
- 溶液中に溶解した物質を化学操作などにより固体化させ、溶液中で集積し液の底に沈降させて分離する方法。
- 注6)フッ化物揮発法
- いろいろな元素のフッ化物(フッ素化合物)の揮発性の差を利用して、元素の分離、回収を行う方法。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
株式会社日立製作所 研究開発グループ
<ImPACT事業に関すること>
内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室
<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>
科学技術振興機構 革新的研究開発推進室
<報道担当>
科学技術振興機構 広報課