2023-03-06 新エネルギー・産業技術総合開発機構,株式会社馬渕工業所,東京大学生産技術研究所,宮城県産業技術総合センター
NEDOの「戦略的省エネルギー技術革新プログラム」で(株)馬渕工業所、東京大学生産技術研究所、宮城県産業技術総合センターは、廃熱を使った有機ランキンサイクル(ORC)発電システムによる、優れた発電出力と国内最高レベルの省エネ化を両立した「独立型ORC発電システム(5kW級)」を開発しました。今回の開発では、廃温水温度80℃以上で、継続して4.5kWの安定した発電出力を達成しました。
従来の一般的なORC発電システムでは、4~5kWの発電出力を達成するには100~125kWの熱量が必要ですが、今回開発したシステムでは、これを60~75kWの熱量で実現でき、従来比で40~50kWの省エネルギー化に成功しました。発電機を稼働させるスクロール式膨張機の省エネ化では国内最高レベルのものとなります。また本システムでは、工場などから出る廃熱で発電した電力をバッテリーに蓄電し、これを利活用することで、安定的な電力供給を行うことが可能となります。これにより、地域社会におけるエネルギー供給のバックアップ体制の強化を図ります。
図1 スクロール式膨張機(写真左)を組み込んだ「独立型ORC発電システム(5kW級)」の実証実験機
1.概要
東日本大震災以降、地熱・温泉熱・産業系廃熱などの未利用廃熱を活用した有機ランキンサイクル(ORC)発電システム※1が注目を集めています。未利用廃熱の活用策としては潜在需要が大きい一方、5kW級の小型ORC発電システム分野では発電した電気の品質条件が厳しく、発電事業者側でこれに対応する必要があることから、コスト増の一因となっています。このため低コストで高効率な独立型ORC発電システムの開発が求められていました。
このような背景の下、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「戦略的省エネルギー技術革新プログラム※2」(以下、本事業)で株式会社馬渕工業所、国立大学法人東京大学生産技術研究所、宮城県産業技術総合センターは、2020年度より「スクロール方式による高速・高出力膨張機を搭載した低価格ORC発電システムの開発」に取り組んでいます。この中で(株)馬渕工業所は、ボイラーを熱源とした高効率小型バイナリー発電システム(5kW級)の開発を行い、80℃の廃温水を想定した運転では、発電機の回転数が1分間あたり3,600回転で4.5kWの発電出力を確認しました。従来のORC発電システムでは4~5kWの発電出力を達成するのに必要な熱量が100~125kWであったのに対し、開発品では60~75kWで済むため、40~50kWの省エネ化に成功したことになります。さらに、鈴木工業株式会社(仙台市若林区)の協力のもと実地運転を行い、想定よりも低い廃熱温度帯での発電の実証実験にも成功しました。
2.今回の成果
今回、東京大学生産技術研究所は高効率な独自のスクロール方式膨張機※3の設計を担当し、宮城県産業技術総合センターは3D(3次元)計測装置による加工精度(10μm程度)の検証や設計・加工の妥当性評価を担当しました。そして、(株)馬渕工業所を含めた三機関が連携し、2年間の事業期間という短期間で実証試験用ORC発電システムを完成させました。
(1)容積型のスクロール膨張機による高効率な独立型ORC発電システムの開発
容積型のスクロール方式を膨張機に採用することで、廃温水を熱源として作動媒体を膨張させ、その力で発電機を回す、これまでにない高効率の「独立型ORC発電システム(5kW級)」を実現させました。今回開発したスクロール方式膨張機を搭載した高効率小型バイナリー発電機では、設計上80℃以上の廃温水温度で安定的な発電が可能です。また、発電出力をリチウムイオン電池(LIB)に蓄電するためのAC/DC変換器※4を新たに開発したことで、工場などから出る廃熱で発電した電力をバッテリーに蓄電し、これを利活用することを可能としました。この技術の実用化・社会実装を進めることによって、地域社会におけるエネルギー供給のバックアップ体制の強化を図ります。
(2)ORC発電システムの実証実験に成功
今回、(株)馬渕工業所は発電システムのフィールド試験の一環として、鈴木工業(株)のエコミュージアム21※5において、産業廃棄物処理用焼却炉の廃熱冷却水を熱源に活用した実地運転を行いました。温度帯が想定値よりも大幅に低い50℃~60℃の廃温水の温熱について熱交換を行い、スクロール方式膨張機で作動媒体を膨張させ、その力で「独立型ORC発電システム(5kW級)」を運用した結果、1.5kW程度の発電に成功しました。またこの中で、必要熱量については20~30kWであることを確認しました(表1)。この温度帯で、従来のORC発電システムの発電実績と比較すると、開発品は140%以上の発電出力を達成したことになります。これは、発電機を稼働させるスクロール式膨張機の効率化としては国内最高レベルであり、「独立型ORC発電システム(5kW級)」が産業系廃熱の有効活用に向けて道を開いたことになります。
表1 ORC発電システムの性能
廃温水を採水した場所 | 廃温水温度 | 発電出力 | 必要熱量 |
---|---|---|---|
(株)馬渕工業所のボイラー | 90℃以上 | 5kW以上 | 75kW |
80℃以上 | 4kW以上 | 60kW | |
鈴木工業(株)の焼却炉 | 50℃~60℃ | 1~1.5kW以上 | 20~30kW |
注)馬渕工業所での実験値は、このクラスでは国内最高レベルの発電効率となります。
図2 鈴木工業(株)のエコミュージアム21に設置したORC発電システム(写真左)と採熱場所(写真右)
3.今後の予定
本事業で得られた成果を踏まえ、(株)馬渕工業所ではさらなる発電出力の増加や今回開発したORC発電システムの高度化を図るほか、LIBとの連動も進める開発を行います。また、2025年ごろの実用化を目指し、日本各地で工場廃熱や排ガスなどを利用したORC発電システムの実証実験を進め、廃熱のさらなる有効利用を通じた省エネ化と、温室効果ガスの排出量削減に貢献します。
【注釈】
- ※1 有機ランキンサイクル(ORC)発電システム
- 発電所などが使っている蒸気サイクル(ランキンサイクルシステム)の作動媒体を一般的な水から、より低沸点の媒体(フロンガスなど)に変更し、中低温の熱源であっても蒸気を発生させることで、タービンを回すシステムです。温泉・地熱などを使ったバイナリー発電や、小型木質バイオマス発電での熱電供給システムとして活用されています。
- ※2 戦略的省エネルギー技術革新プログラム
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- テーマ名:スクロール方式による高速・高出力膨張機を搭載した低価格ORC発電システムの開発【助成事業】
- 事業期間:2020年度~2022年度(開発フェーズ:実用化2年)
- テーマ概要:スクロール方式による高速・高出力膨張機を搭載した低価格ORC発電システムの開発
- ※3 スクロール方式膨張機
- 一対の同一形状の渦巻体(スクロールラップ)を組み合わせて流体を移送する膨張機です。
- ※4 AC/DC変換器
- 交流電気を直流電気に変換する機器のことです。
- ※5 エコミュージアム21
- 鈴木工業株式会社の産業廃棄物処理施設です。
4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO 省エネルギー部 担当:赤城
(株)馬渕工業所 環境事業部 担当:遠藤
東京大学 生産技術研究所 担当:鹿園(しかぞの)
宮城県産業技術総合センター 材料開発・分析技術部 担当:氏家
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 担当:坂本、黒川、橋本、鈴木、根本